籠に入った大量のボトルを丁寧に洗い流す。考えすぎて火照った顔と身体には、水道の冷たい水が丁度よかった。それでも頭の中は赤葦のことでいっぱいで、考えないようにと思うほど余計に彼のことを考えてしまっていた


「あ〜...もう、なんなの...」

「何が?」

「ひぁっ!?」


まさか独り言に反応する人がいるとは思わなくて変な声が出てしまった。吃驚した拍子に洗ったボトルも2〜3個落としてしまい、ジロリと私に声をかけた張本人を睨むとケラケラと笑っているのだからタチが悪い


「みょうじ驚きすぎでしょ」

「う、うるさいなあっ!考え事してたんだから仕方ないでしょ!」


そして悩みの種の赤葦は笑いながら落ちていたボトルを拾うと、そのまま洗い始めた


「ごめん、すごく面白かった」

「謝るか褒めるかどっちかにしてよ」

「最高に面白かった」

「そこは謝ってよ!」


そんなに私が驚いた様子がツボだったのか、彼が笑い終えることがなく、なんだか私にまで笑いが移ってしまった。2人で笑いながら残りのボトルを洗い終わると、さっきまで悩んでいたこともすっかり頭から消えていた


「そういえばなんでここに来たの?」

「...いつもの如く木兎さんがしょぼくれモードになったから1年のセッターに任せてきた」

「なるほど...」


毎日部活も自主練も付き合わされているのだから、こんな時くらい逃げてもいいだろうと本音を零した。赤葦は本当に面倒見が良いというか、表面上では嫌がっていても結局付き合ってあげるのだから優しいと思う


「手伝ってくれてありがとう、もう大丈夫だよ」


キュッと蛇口を締めながら赤葦を見ると、またバチッと視線が合った。本日何回目となるのだろう、その眼が自分の全てを見透かされているような感覚に陥って背筋がゾワっと泡立った


「あのさ、教室で言ってたやつなんだけど...」

「す、好きな人のこと?」

「そう。気になるの?」


じわじわと赤葦が近づいてくる。悪いことをしたわけではないのに何故か逃げたくなる


「少し...うん、気になる、かも」

「みょうじだよ」

「へ?」

「俺の好きな人、みょうじだから」


それだけ言うと赤葦はボトルが詰め込まれた籠を持って体育館の中へと戻っていった


「っ...うそ...」



今日は頭の回転が追いつかないことばかり起こる。残りわずかな時間の部活のことなんて頭から吹き飛んでしまって、またその場にへたり込んでしまう



(信じられない....っ!どうしよう...)




2016.03.10