誰でも構わないから、愛されたかった。ただ、それだけだった。

親の顔なんて見たことがない。
物心ついた時には、親の知り合いを名乗る人に育てられていて、私はその人をお兄さまと呼んでいた。けれどそのお兄さまも、私がおとなになるのを待たずにどこかへと行ってしまった。

ずうっと、ひとりぼっちだった。

「たーいしょ、」
なぜか知らないけれど、私の家には二振りの刀がある。親がそのあたりの商人だったらしい。
けれど、その刀が喋るなんて。…思ってなかった。
「…え、今…私を呼んだのは、貴方…だよね?他に、誰もいないし」
その刀の元に、ゆっくりと歩く。見上げると、おそらくお兄さまと同い年であろう、お兄さまによく似た人がいた。
「貴方は…お兄、さま?」
「残念だが、あんたのお兄さまじゃあない。薬研藤四郎、あんたの親が持ってる刀の、四つの菱形が描いてある方…の、付喪神ってとこかな。大抵の奴には薬研って呼ばれてる」
薬研さん、か…いや、刀に「さん」をつけるのも、これはこれでおかしい気がするな。というかその前に。
「神さま…なの?」
「そんな身構えるな。…ずっと、ひとりだったんだろ?」
どうして、知って。…ああ、刀から見ていたんだ。
「そう、なの…貴方は、私を守ってくれる人?」
「勿論だ。だから頼りにしてくれ、大将」
大将…?私のこと、だろうか。
「…うん、頼りにする!貴方が私を守ってくれるなら、私の力でよければいくらだって捧げるから!だから…」
だから、もう二度と。
「ひとりにしないで!」

「そうする、って思うのか?」
「…だって、不安だもん、」
まるで妹を慰めるかのように、抱き寄せられて撫でられる。
「離れてっちゃうかも、しれないもん…」