大好きな貴方は私を見ない
「真波ー」
そう言ってクラスの扉を迷いなく開けてくる女の子。私の目の前でプリントをしていた山岳は少女を見るとその顔を見たこともないような笑顔に変える。
「名前ちゃん!」
委員長としか呼ばれなくなった私とは違い、名前を呼ばれる少女にふつふつと汚い感情が渦巻く。
「真波またぁ?」
「うっ、だってえ」
「だってもくそもないでしょーが!あーあ今日私も登る予定だったのになあ」
「えええ!!嘘でしょう!?」
遅刻しなければよかったあ!とどんなに私が努力しても言わせることのできない言葉を、少女はたった一言で引き出して見せるのだ。どうして、と思わずにはいられない。
「宮原ちゃーん、こいつの世話大変っしょ?」
「いえ、幼馴染、なので」
私の唯一の救いで、最大の違いを強調しても、「ほーら真波ー、宮原ちゃん幼馴染だからしょうがなく!だって」「知ってるよーそんなこと!」
この子は何にも焦らない。私にとって重要なことは、彼女にとっては全く重要じゃないのだ。
それはそうだ。山岳にとって私はただの幼馴染。焦る対象になんてならない。
「じゃ先いってるから、早く来てね真波」
「えーまってよ!」
「むり!山が私を呼んでるもん!」
じゃね!とそう言って出て行く彼女に、山岳は出て行った後も扉から目を離さない。
「ねー委員長、俺変じゃなかった?いつも通りだった?あー好きってバレなかったかなあ、あでもばれてもいいかも」
でもなあ、と悩む山岳のその言葉にズキリと胸が痛む。そう第一に、山岳が、私じゃなく彼女を選んでいるのだ。叶うわけが、ないじゃない。
「よし!名前に早く追いつかなくちゃ!」
さっきまでの無気力を何処かに捨てて、シャープペンをグッと握る山岳に私は小さく溜まった涙を堪えるのだ。


大好きな貴方は私を見ない
(数日後、届いたメールに私は涙を流した)
(委員長!付き合うことになった!)
katharsis