どうしてなんて言葉は出なかった。


涙なんてものも出なかった。


ただ、ああ、あの子が彼の“運命”なのだとすぐに理解した。


それと同時に僕が彼の傍にいる意味もなくなったのだと分かった。


僕に気づいた素振りも見せず、彼は一心不乱に腰を振る。


彼に組み敷かれた男は壊れた機械のように甘い声を上げるだけ。


獣の様だと以前αとΩの性行為に関して本に書かれてあったのを見たが、その通りだと思った。


足音を立てずに彼の部屋から出る。


きっと音を立てても気付かなかっただろう。


ああ、今日の夕飯は何を食べようか。


彼が外食でもしようと言うから何も考えてなかったというのに。


そうだ、カレーにしよう。


カレーなら簡単に作れるし、ルーも買い置きしておいたはず。


早く、早く、


彼の家から徒歩10分の短い距離のはずなのに何故か今日は酷く長く感じた。