満たされないと知っている。
「ーー君は寂しいだけだよね。だからいつも女の人と一緒にいるんだよね?…大丈夫、これからは私が一緒にいるから」
そう言って笑って俺の胸に飛び込んでくる。
思わず震えてしまうのを隠す様にゆっくりと彼女の背中に手を回した。
「…そうだね、これからは君がいる」
あぁ…馬鹿な女だ。
お前には彼女の代わりなんて出来やしないのに。
俺を自分のものに出来たと思ってるんだろうか。
視界の端に茶色の髪の毛が映る。
「キスしよっか」
声には出さず首を縦に振った女は耳まで真っ赤に染めて彼女とは対照的な大きな瞳は潤んでいた。
全く彼女と似ても似つかない女に軽くキスをして微笑む。
「君は特別だから大事にしたいんだ」
なんてテンプレを口に出して今度は額にキスをした。
満たされないと知っていても他人を堕とすのは愚かなことだろうか。
“僕は君が好きだよ”
そう言って笑ったあの頃の俺には到底戻れはしない。
今の俺を包むのは君の香りではなく甘い砂糖菓子のような香りだった。