狂い咲きの恋


「…ねえ、ヒノエ君?」
「なんだい、姫君?そんなに改まらなくても、姫君のお願いなら何でも聞くぜ?」
「ううん。お願いじゃないの」

 あれは、春の事だった。桜がつぼみをつけるころに出会ったヒノエに、一瞬で恋に落ちた。そしてそのつぼみが膨らみ、今にも咲かんとする頃に、由佳は自分の思いを打ち明けた。

「…私、ヒノエ君のこと、好きなんだ」

 ヒノエは一瞬動きを止め、それからいつもの笑みを浮かべた。

「奇遇だね。オレも姫君が好きだよ」

 それは告白の返事。そして、それ以上続く言葉はなかった。
 結局由佳は、それが由佳と同じ恋愛感情であったのか、そうではなくただごまかされたのかを確かめることが出来ず……二人の関係はなんら変わらないまま、季節はもう秋を迎えていた。



「由佳、ちょっといいかい?」

 朝食の後ヒノエに呼ばれた由佳は、断る理由もなかったため二つ返事で頷いた。出会ってからもう半年。八葉を含めた全員で行動することはもちろん、誘われて二人で出歩くことも決して珍しいことではなかった。

「なに?どこかに行くの?」

 庭へと下りていくヒノエの後に続きながら、由佳はその背に問いかけた。

「いや。残念ながら今日は八葉のお役目を果たさなきゃいけないからね」

 八葉のお役目。それは由佳には分からない領域だった。望美と一緒にこちらに飛ばされてしまったものの、何の役目も力もない由佳はいつもお留守番だ。移動や行楽には連れて行ってくれるものの、戦などには全く連れて行ってくれない。由佳自身が何の戦闘手段も持たない以上それは仕方のないことではあったが。

「そか。…望美とお出かけするんだね」

 けれど、仕方ないと割り切れるのは頭の中だけだ。特に望美が相手だと、由佳は嫉妬を抑えることが出来ない。出会ってから今まで、ヒノエの望美に対する口説き方は執拗であり、そしてそれはけして由佳には向けられないものであったから。
 確かにヒノエは由佳を口説きもする。けれども、由佳に対するそれと望美に対するそれは、明らかに違っていた。

「ああ、だからあまり時間はないんだ」

 ヒノエが歩みを止めたから、由佳は慌てて表情を取り繕った。振り返ったヒノエにはいつも通りの笑顔を向ける。

「そうなんだ?…で、何の話?」

 ヒノエは答えずに、懐に手を入れた。そうして、小さな包みを一つ、取り出す。

「お前に似合うと思って」

 大きさからして、多分髪飾りだと思う。由佳はその包みをじっと見つめ、やがて首を横に振った。

「受け取れないよ。もらう理由がないもん」

 由佳自身、何度かヒノエにこうして贈り物を差し出されたことがあったが、一度も受け取ったことがなかった。なんだか嫌だったのだ。気持ちのない贈り物を平気で贈るヒノエも、それを受け取ってしまうことも。ヒノエが贈り物を贈るのは由佳だけじゃない。望美にも、よくお菓子や装飾品を贈っているのを見る。これだってきっと、由佳が受け取らなければ望美の元へ行くのだ。今までに受け取らなかったものと同じように。

「男からの贈り物をさらっと受け取るのも、イイ女の条件だぜ?」

 由佳の返事は分かっていたのだろう、ヒノエはいつもの軽口を繰り返す。

「どうせイイ女じゃありませんよ〜」

 由佳もいつものように返して、笑ってみせる。そういうのは望美のほうがきっと似合うよ、なんて思ってもいないことを空々しく口に乗せて、視線を外す。
 これで話は終わりだと思った由佳は、踵を返した。最初の頃こそ執拗だったヒノエも、由佳が頑なに拒んでいるうちにあっさりと引いていくようになった。もっとも、最近は贈り物を用意することすら珍しかったのだが。

「…由佳」

 けれど、予想に反してヒノエはそんな由佳の腕を掴んで引き止めた。

「ん?まだ何か…」

 そうして、その手のひらに包みを載せる。
 初めて触れる布の感覚に、由佳は一瞬それが何か分からなかった。けれど、振り返って視界に入るとすぐにヒノエの胸元につき返す。

「だから、もらえな…」
「誕生日」

 由佳の言葉を遮って、ヒノエは短く告げた。

「おめでとう」

 あまりの不意打ちに、由佳は咄嗟に反応を返すことが出来なかった。

「…で、でも…っ」

 ヒノエの胸に包みをつき返した格好のままで、由佳はそう口にしていた。何かが言いたかったわけではない、とにかくこれを受け取らない口実がほしかった。

「でも?…誕生日は、今日じゃなかった?」
「いや、それは今日だけど…」
「だろ?それは誕生日の贈り物。立派な理由じゃないかい?」

 問われて、由佳は思わず頷いてしまっていた。しまった、そう思う頃にはヒノエは満足したように笑って、由佳の手を包むように握り、包みを握らせる。

「受け取ってくれるだろ?」

 …もう、由佳に断るという選択肢は残されていなかった。

「じゃ、じゃあ、ヒノエの誕生日も教えて!」

 それでもせめてもらいっぱなしは嫌だと、由佳は最後にふと思いついて、ヒノエの誕生日を尋ねる。

「オレの誕生日、かい?オレは…」

 そうして返ってきた答えに、由佳は頭を抱えることになるのだった。




 由佳は一人、与えられた部屋でヒノエにもらったばかりの包みを手にため息をついた。
 ヒノエの誕生日をはじめて聞かされ、驚いているうちにヒノエは望美に呼ばれて去っていってしまった。今、由佳は一人お留守番の最中だ。
「…4月1日、って…」
 ヒノエに教えられた、彼の誕生日。それはごく偶然であったが、由佳がヒノエに告白をした日であった。
「私の馬鹿ぁ…」
 好きな人の誕生日も知らずに、しかも間抜けにもその日に告白をしていたなんて。当然由佳はプレゼントなど贈っていない。それなのに、自分はもらってしまった。
 借りを作ったかのような妙な焦燥感に、由佳は部屋をゴロンゴロンと寝転がった。幸い、それを見咎めるような人物は屋敷の中にはいない。ゴロンゴロン、ゴロンゴロン…と、調子に乗って部屋を転げているうちに、勢いあまった由佳は身体で障子を外して部屋の外へと飛び出してしまった!
「…いった〜」
 やわらかい畳ではなく、硬い板ばりの床に叩きつけられた障子の上に身体を投げ出す形になってしまった。障子が受けた衝撃が由佳の身体にも伝わり、ひどく痛む。特に痛みのひどい肩をさすりながら、のそのそと立ち上がった由佳は、衝撃覚めやらぬ身体で奇跡的に無傷の障子を入れなおした。
 それから、部屋の中で一息つくと、大変なことが起こっていた。さっきまで手に持っていた、ヒノエからのプレゼントが、ない。
 慌てて部屋の外に飛び出すと、そこに包みが投げ出されていた。半分開いて、中身が見えている。
 それは由佳の予想通り、かんざしであった。桜の花びらが覗いた、可愛らしいもの。そっと拾い上げて、改めて包みをはがしてみても、傷はついていないようだった。ほっとため息を漏らして、そして違和感を覚える。
 桜の季節は、春。そして今はすでに秋。良くも悪くも洒落っ気の強いヒノエが、こんな季節外れのものを贈るだろうか?
 もしかして、と思う。初めてヒノエから贈り物を差し出されたのは、春のことだった。望美にあげなよ、そう告げて身を翻したのを覚えている。そのしばらく後に望美がヒノエにもらったといいながら見たことのない髪飾りをつけていたから、てっきりあのときのものを本当に望美に渡したのだと思っていた。…でも、違ったとしたら?春からずっと、ヒノエはこれを渡そうとしていたのだとしたら?
 季節外れのそれをそっと髪に差し込む。強い黒の髪に、その淡い桜色はどのように映っているのか、鏡を持たない由佳には確かめようがない。
 それでも、しゃらんという音が鳴ると、由佳は満たされた気持ちになった。嬉しい、という素直な気持ちがようやく沸いてきて、それが顔を緩ませる。同時に、ヒノエのこともこんな風に喜ばせられたらいいのにな、という思いが沸きあがった。
 そうして、ふと気がつく。ヒノエもこんな気持ちだったんではないかと。気持ちのない贈り物、なんていう風に決めつけてしまっていたけれど、由佳を喜ばせたいと確かに思っていてくれていたのではないかと。その思いが多数に向けられていたとしても関係ない。その中に由佳が入っていたことは紛れもない事実である。たくさんの人に贈っているから気持ちがないなんて、そんな言い訳は由佳の醜い嫉妬に過ぎなかったのかもしれない。
 今なら分かる。由佳はヒノエの贈り物ひとつで、こんなにも嬉しく、優しい気持ちになっている。それは、物の値段では計れないくらい大きな価値…そう、それこそプライスレスだ。
 やっぱり、何かお返しがしたい。
 由佳がそう思うのは、貸し借りや金銭のやり取りではなく、心で、であった。この気持ちを少しでもヒノエに返したい。何か、ヒノエを喜ばせてあげたい。
 思い立つといても立ってもいられず、由佳は屋敷の外に飛び出していた。



 街中に飛び出してから、由佳は自分の過ちに気がついた。由佳はこちらのお金を一銭も持っていないのだ。外は危ないから、とあまり出かけさせてもらえなかったし、元来物欲の薄い由佳は衣食住が保障されていればそれ以上欲しいものもなかったため、お金を持っている必要もなかったのだ。
 しばらく人でにぎわう市をふらふらと眺めてから、こちらの世界でもやっぱりお金かそれに変わるものがないと何も手に入らないと分かった由佳は、とぼとぼと人の波から抜け出した。
 どうしようかな、一人で呟く。独り言は屋敷で一人留守番をしているうちについてしまった癖であるが、狭い部屋とは違い開けた屋外ではその声は思った以上に頼りなく、由佳の気分はますます落ち込んでいく。それでも、手ぶらのまま屋敷に帰るのは嫌で由佳は何もない道を進んだ。
 どれくらい、そうして歩いていたろうか。
 ふと俯いていた視線を上げると、視界の端にピンク色の花が目に入った。見上げた山の上に、他の寂しげな木とは違って、ピンク色の花を枝いっぱいに湛えた木が、一本だけ立っていた。
「え?」
 まさか、と思う。今は秋。その花の季節は、春のはず。
 それでも由佳は確かめずにはいられず…一人、その山を登り始めた。と、いっても、登山道がそう簡単に見つかるわけもなく、木と木の間を、道なき道を進む。少しだけ、幼い頃望美たちと遊んだころのことを思い出して、由佳は一人笑った。時々立ち止まって、ピンク色の花を確認する以外は、黙々と進んでいく。そう高い山でもなかったので、すぐに目的の木の所へとたどり着くことが出来た。
「やっぱり、桜だ…!!」
 自分の世界で慣れ親しんだソメイヨシノではなく、こちらの世界で多く見られる、山桜。ヒノエに告白した時にも鮮やかに世界を染めていたそれが、見事な花を咲かせていた。寒風に吹かれ今にも枯れそうになりながら、それでも懸命に。
 狂い咲き。そんな言葉が頭を過ぎる。木の幹にそっと手のひらを当てると、冷たい風に当てられたそれは冷たく、沈んでいるように思えた。季節を間違えて咲いた桜。それが何故か、由佳には人事に思えなかった。
 きっと由佳も、この桜のような存在だ。
 間違えてこの世界に呼んでしまった。白龍は由佳を指して、間違いなくそう言った。何の役目もなく、ただ徒に過ぎていくだけの時間。神子ではなく、八葉ではなく、ただ異質な存在であるだけ。それが由佳。
 …それでも。
 狂い咲きの桜でも、こうして由佳の目に留まった。開かずに散っていく蕾がほとんどであっても、懸命に花を開かせ、咲こうとしている。そのことが無意味だとは、由佳には思えない。
 ならばきっと、同じように由佳にも何かが出来るはずなのだ、と思う。剣を握れなくても、龍と繋がっていなくても、何かが出来るはずなのだ。間違えてきてしまった由佳だけれど、きっと何か意味がある。意味を、作れる。
 ふっと、頭に紅が過ぎるのと、その声が聞こえたのは同時であった。

驚いて振り向くと、今しがた頭を過ぎった鮮やかな紅い髪が、目の前にある。
 ヒノエはきょとんとしている由佳の腕を引いて、バランスを崩した由佳を受け止めるときつく抱きしめた。突然のことで、由佳は何が起こっているのか理解できない。
 ただひとつ、ヒノエの息が荒いことだけが分かった。普段から鍛錬を積んでいるヒノエがここまで息を切らせているのを見たのは、この半年で初めてのことだった。どれだけ急いでここに着たのか、由佳には計り知れない。
「…心配したんだぜ…?」
 ヒノエが、まだ荒い息で耳元に囁いた。ぼんやりとヒノエの息を感じていた由佳はその意味を掴むことが出来ず、思わずえ?と聞き返す。
「屋敷に戻ったらいるはずの由佳がいないんだ、探すのは当然だろう?」
 そうして、ようやく息の整ったヒノエに言われて、由佳はようやくその意味を理解した。そもそも由佳が留守番をしている理由が、外は危ないから、であったのに、一人で外出するなんて論外だ。
「あ…ごめんなさい、私…」
 由佳は咄嗟に両手を突っ張って、ヒノエから離れようとした。けれどそれよりも強い力で抱きしめられていては、離れることが出来ない。
 そこで始めて由佳は、ヒノエに抱きしめられているという現状を意識した。無駄のない筋肉がついた、力強い日本の腕が、由佳の背中に回っている、そのことにようやく気がついた。
「え、あ、…え?」
 意識すれば恥ずかしくて、胸が高鳴る。どくどくという鼓動の音が由佳を焦らせ、その腕から逃れようとするのだがヒノエが許してくれない。
「…ダメ。離してやらないよ。心配させた罰だ」
 由佳の抵抗を簡単に封じながら、ヒノエは耳元でそう囁く。吐息が耳に当たる感覚がなんとも言えず身体を震わせると、ヒノエはふふ、と笑った。罰、と言われれば仕方ない。悪いことをしたという自覚があった由佳は、抵抗を諦める。
「でも、どうしてまたこんな所にいたんだい?」
「…ヒノエに、お返しがしたくて…」
 答える声は、だんだん掠れていく。結局お返しが見つからなかったことを思い出したのだ。桜を見つけてつい登って来てしまったが、そんなことをしている場合ではなかった。せめてここで何か渡すことが出来れば、格好もつくというのに。
「お返し?…もしかして、これの、かい?」
 かすかに頭皮が引かれる感覚で、由佳はヒノエが髪にさしたままのかんざしに触れていることが分かった。こくん、頷いたのは見えなかったはずだが、伝わったのはこの密着度のせいだろう。
「それで、お返しが桜とは…オレの姫君は本当に予想外のことをしてくれるね」
 ヒノエが腕の力を弱めて、由佳との距離が少しだけ開く。このまま身体を離されるのかと思ったが、そうはならなかった。相変わらず背中に手が回ったまま、こつん、と優しくおでこを当てられる。
 ようやく見えたヒノエの顔は、いつもとはまた違った笑顔だった。
「…せっかく、手放してあげようと思ってたのに」
 わけの分からない呟きよりも、距離感が由佳をさいなむ。ぎゅっとくっついていた頃よりもずっと恥ずかしくて、由佳は顔を伏せた。けれどヒノエの腕が伸びてきて、顎を持ち上げられる。自分でも赤いと分かる顔を、その紅い眼が見つめているのが分かる。
「…ねぇ、これも罰なの?」
 耐えられなくなってぎゅっと目を瞑る。別なことなら何でもするから、と許しを請えば、ヒノエはくすくすと声を出して笑った。
「…これは、罰じゃないさ」
 そうして、唇になにか温かいものが触れる。
「…なあ、由佳、オレのものになりなよ」
 それは由佳が何かを理解する前に離れていき、囁きとともに耳に触れた。
「ひゃ……え?」
 囁かれた言葉が信じられず、思わず目を開く。ヒノエがじっとこちらを見ていた。いつになく、まじめな顔で。
「親と、兄弟と、友達と、…全部無くす分、全部オレが埋める。それだけ愛すって誓う。だから由佳、オレのものになりなよ」
 いつもの口説き文句とは違う。愛すだなんてヒノエは口にしたことがないし、何よりいつもの笑みが浮かんでいない。本気なんだと訴えるその目を、由佳はじっと見つめていた。
「好きだ、由佳。熊野においでよ、幸せにするからさ」
 ざあっと風が吹いて、桜の花びらを巻き上げていく。この桜が咲いている意味は何だろう、由佳がここにいる意味は?それは、まだ分からないけれど。
「…うん」
 小さく頷いた由佳の胸に宿る確かな幸福感が、その答えを知る日は近いのだと言っているような気がした。


end
→あとがき&おまけ



「帰ったよ」
 由佳はヒノエに横抱きに抱えられて、もはや住み慣れたともいえる景時の家に帰り着いた。こんな格好、恥ずかしいから嫌だ、と抵抗したのだが、これも心配をかけた罰だといわれて拒みきれなかったのだ。
「ただいま…」
 道行く人の視線が痛く、由佳はすっかりヒノエの胸に顔を埋めている。もういいでしょ、いいたかったその言葉は、けれど屋敷の奥から聞こえる大きな足音に遮られた。
「由佳!!」
 みれば、望美をはじめ、朔、将臣、譲、弁慶、リズヴァーン…八葉が、そろって玄関へ駆けてくる。
「良かった〜、無事だったんだね!」
 真っ先に駆け寄った望美が安堵の息を吐く。由佳は自分がどれだけ心配をかけたのかを一瞬で理解し、おろして、などという的外れなことが言えなくなってしまった。
「…ごめんなさい」
 小さく呟くと、みんな口々に無事だったならいい、次はするなよといったことを答える。その優しさに、由佳は胸が熱くなった。
 こんな絆を築けた、きっとそれだけで由佳がここに来た意味はあったはずだ。
 ふと、そんな思いが胸に宿った。
「ところで、由佳さん。ヒノエに抱えられているということは、足を怪我しているのですか?」
 ふと弁慶が望美の肩に手をかけながら顔を出した。望美はその言葉に目を丸くし、大丈夫?と気遣わしげに言う。
「あ、いえ、これは…」
 由佳が何もないと言おうとしたのだが、ヒノエが答えるほうが早かった。
「足と、腕にも数箇所切り傷がある。多分そんなに深くはないと思うけど、念のため見てもらえるかい?」
 足と手にケガ?由佳は不思議に思って腕を見ると、確かにそこには切り傷があった。自分でも気づかなかったが、山を登る際に出来たらしい。
「もちろんです。僕の部屋へいらしてください」
 弁慶は頷いて、望美と場所を変わるとヒノエに向かって両手を差し出した。どうやら、由佳を運ぶから寄越せ、ということらしい。
「私、自分である…」
「いくら弁慶でも、由佳だけは渡せないな」
 またしてもヒノエに言葉を遮られた由佳は、その内容に驚いてヒノエを見上げる。ついで、こちらを見つめるみんなの視線に気がついて、またヒノエの胸に顔を埋めることになったのだった。


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