仁王1
「――あたしのこと、すき?」
「あぁ…好きだよ」
合言葉の様な返事に、喜ぶべき言葉は小さいあたしにとって何の意味ももっていなかった。
その言葉がに感情がなかった事に、子どもながら分かってしまったから。
「好きです。付き合ってください」
「…ごめん、あたしは好きじゃないから付き合えない」
「お前さん、断るにしてももっとオブラートに断れんのか?」
「分かりやすくていいでしょ?」
「だいたい、好きってなによ。あたしの何を知ってそう言えるのかわからない」
「相変わらずきっついの〜」
「素直って言って」
「人はすぐ嘘をつく。相手を思ってつく嘘も、自分を守る為の嘘も。言葉は伝わりやすい。その分、傷つけやすい」
「あの人もそうだった…あたしの為か…自分の為か…」
「…おとうさんは…あたしのこと、すき?」
「あぁ…好きだよ」
ウソツキ…
あの人は、あたしの事なんてなんとも思ってなかった。
言葉ではそう言ってたけど、休日に遊んでもらった記憶はない。
一緒にどこかへ行った記憶もない。
ただ、覚えているのは嘘っぽい笑みを浮かべて、あたしの事を好きだと言ったあの顔だけ。
「だから、あたしは好きって言葉は嫌い」
「好きじゃ…本当は弱いくせに、強がってる姿が…愛おしい」
気持ちの込もった好きという言葉は
どうして、胸が締め付けられる程苦しいものなのだろう。
胸がくるしくて、あつくなって、涙が溢れそうになる。
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