ショッピング


 デパートで買い物をする余裕などありはしない、と大型スーパーへやって来た。衣料品家具料理器具等々、一通りの用事が済ませられる。休日は家族連れで賑わうチェーン点である。
 凌がもともと持っていた金は少なく、底をつきようとしていた。買い物の予算は、錦が"親切な人"から恵まれた諭吉たちである。口座振り込み以外にも確保していたのだ。錦は同じような手段を使わないよう厳しく言い含められており、カツアゲ疑惑以降は行っていない。

「まず服だな」

 錦は凌に見下ろされ、首を傾ける。はぐれないように、しっかり手は繋いでいた。

「……錦、あまり選り好みするなよ。見るからに良いとこのお嬢様だけど」
「わたくしも弁えているわ。粗悪品でも、文句はないわよ」
「言い方」
「安物?」
「及第点」

 錦は物珍しさに、店内を見回す。見た目相応な様子は大層微笑ましいもので、凌も不覚にも和んでいた。
 先に子供服売り場に向かうのは、凌が子供の体力を考えた結果だが、錦には無用な心配だったともいえる。錦は正真正銘、普通の子供ではないので。

「適当に十着分くらいか。ほれ、選べ」

 錦は"最終値引"やら"三着で二割引"やらのワゴンの中の商品を物色する。もちろん届かないので、掘り起こすのは凌、決めるのは抱きかかえられた錦という具合の役割分担だ。
 錦とてそれなりに好みはあるが、今は金銭的に余裕がない。安い服のなかで妥協できるものを選んだ。下着も安いものをカゴに放り込む。

「次は凌の服ね」
「紳士服はー……上か。カート引いてくか」

 カートは凌が片手で押す。買ったばかりの衣服は無造作に乗せられた。錦は、空いている下のスペースを横目でみる。

「乗るなよ」
「はあい」

 さくっと凌の買い物も終わる。似たようなデザインの安いシャツをぽいぽいかごに入れる凌に、仮初めの娘は複雑な心境だった。いつか、上等なスーツでも揃えてあげよう。錦が妥協に妥協を重ねて服を選んでいた時に、凌も同様の心境だったかもしれない。
 かさばる調理器具や布団は後回しだ。何がいる?、と二人で首を傾ける。調味料やトイレットペーパーなどは、近所の安いスーパーとドラッグストアで調達することになっている。

「眼鏡かなにか……常に身に付けられるものを」
「お守りにでもすんのか?」
「凌がね」
「俺が?」
「ずうっとわたくしが付き添う訳にもいかないでしょう?おまじないをかければ、一人で出歩いても、あなたは橙茉凌でいられるわ」
「おまじない、ねえ。便利な世の中だな」
「ピアスでも何でもいいけれど」
「眼鏡でいいよ、伊達になるけどな」

 千円そこらの値札がついている伊達眼鏡。錦は南国でバカンスを楽しんでいるマダムが連想されるようなサングラスを取り、おもむろにかける。眉間の違和感が不快だった。何事もなかったかのようにラックに戻す。
 凌はフレームがオーバルとスクエアのものを持っていた。どちらも黒縁である。

「どっちがいいかな」
「四角いほう」
「はいよ。錦はサングラスにする?イカしてたけど」
「むずむずする」

 眉間をこする仕草をすると、凌は少し笑って錦の頭を乱暴に撫でた。まっとうな子供扱いだが、存外悪い気はしない。
 レジで支払いを済ませた凌は、値札も切ってもらっていた。レンズの部分をシャツで綺麗にすると、さっそく装着してみせる。

「帰ったら、おまじないとやらをかけてくれ」
「任せて」


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