ウチらズッ友だよ☆


 錦は踏み台を二つ重ねて登り、タッチペンを握った。隣ではしょっぱい顔をした松田が、同じタッチペンを握っている。
 そばのスピーカーからは可愛らしい女性の声と、陽気なBGMが流れている。二人で覗き込んでいる画面は二分割されており、フラッシュを過分にたいて簡単な加工が自動で施された写真が表示されていた。
 うなだれる松田に対し、錦は嬉々として画面のあちらこちらをタップしていた。

「学生ん時ならまだしも……おっさんにこれはしんどい」
「ねえ、まつ毛や化粧も、このボタンで追加できるわ。あら、陣平可愛い。リボンをつけてあげるわね」
「なんで行先リクエストがプリクラになるんですかねぇ……」
「クラスの子どもたちが『女の子のたしなみだよ』って」
「俺の……俺の何かが削られてる……その友達とか家族と行けばいいのに……」
「ゲームセンター?は、子どもだけで出入りできないのでしょう?パパとママは恥ずかしがり屋さんだからダメ」
「俺も恥ずかしがり屋さんになるわ……」
「そんなに嫌なら、なぜ了承したの?わたくしだって無理強いはしないわよ。水族館にでも変更したわ」
「お嬢さんのお願いだからな……次は水族館行くか……」
「楽しみにしているわね」

 錦は表示している写真の空いたスペースに、"次は水族館へ"と整った文字を書く。タッチペンで文字を書くと微妙にずれてしまうが、それすらも楽しいと感じていた。
 "次は水族館へ"という文字の隣に、アンダーバーをひく。錦はその画像を保存すると、松田が苦々しい顔で眺めている画面をつついて、保存したばかりの画像を呼び出した。
 同一画像の同時編集が出来ないことも、錦はすぐに把握しているのである。

「はい、サイン」
「へいへい」

 アンダーバーを引いた所に"松田陣平"という荒れた文字が追加される。なげやり具合が伝わる筆跡だ。

「あと三十秒ね。どうしようかしら」
「お嬢さんに任す」
『ボーナスタイム開始だよ!』
「……カウントダウンが止まったわ」
「嘘だろ終わんねーのかよ」

 画像をスタンプで埋め尽くすつもりはないが、好奇心のまま、すべてのタブを開いていく。時間に余裕があるのならば、隅々まで見ても誰にも迷惑は掛からないだろう。
 ペンの種類、化粧、リボン、スタンプ、背景の変更。"なかよし"や"大好き"や"Best Friend"等々、短いフレーズも登録されており、妙に丸っこく不器用さを感じる文字を眺めた。あえて、崩した文字で登録されているらしい。不思議なものである。
 それにしても"ズッ友"とは一体。

「お嬢さんもここにサインして」

 なにやらごそごそしていた松田が、トントンと錦の画面を操作する。
 黒いシンプルなペンで"一緒にイルカショー"、その横にはアンダーバー。
 錦は笑みながら、水玉模様の縁取りペンでサインを入れた。

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