ボツった8-3


(ボツ8-2の続き。途中から諦めが入ってる)

 構える捜査官は、人質をとられてうかつに動けない。新一と宮野は、明確に告げられた殺意に凍り付いていた。
 喧騒を失った店内では、BGMが大きく聞こえる。陽気な曲調は、店内の殺伐さを際立たせていた。
 元凶であるガヴィが、静かな店内を見回す。隙だらけに見えて、一分の隙も無い。

「過保護だなあ……日本人だらけのところを見ると、バーボンの部下か。うん、ちょっとスマホ借りるよ」

 ガヴィが捜査官の首から手を離し、上着やズボンのポケットを探る。捜査官は険しい顔をしつつも、無理な抵抗はしなかった。
 新一はガヴィの頭を見下ろし、捜査官のスマホを探る様子に顔をしかめる。けれど、動けない。死角からの攻撃にも驚かず制圧した人間に、何が通用するのだろう。

「工藤新一」
「っなんだ」
「きみの提案に乗ることにするよ。身を引くのもいいかと思っていたしな」
「は……はあ?」

 新一の提案――ガヴィと警察機関との共同戦線だ。
 狼狽える新一や真意を探る捜査官の視線を意に介さず、ガヴィは奪ったスマホを操作する。

「前の番号は破棄しているだろうから……バーボン、じゃなくて降谷か。降谷零、降谷零……これか」
「おま……本気か?確かに、前の取り調べではガヴィから提案してきたことだけど、さっき『交渉破棄』って」
「こいつらが交渉破棄を試みた結果、僕がこの場を支配しているんだから状況は変わっていない。……あ、バーボン?ガヴィだ、スピーカーにするぞ」

 ガヴィが捜査官の背にスマホを置く。スピーカーに切り替わっているスマホからは、降谷の声がした。『は?……はあ!?』衝撃の大きさがよく分かる。
 新一と宮野の目の前で、命をかけた取引が始まった。

『……なんのつもりだ』
「やあ、バーボン。非常事態の通報が上がっているのかは知らないが、僕は今、工藤新一とシェリー、ついでにきみの部下を殺せる位置にいる」
『ああ』
「取調室での取引の続きといこうじゃないか。ただ、条件は少々異なるが。時間がないから早く済ませるぞ」
『お前の要求は死刑の取り消しだった。だが、お前が一時的でも自由の身であり人質を取っている現状、俺たちに求めるものは何だ?逮捕するな、とでも言うつもりか』
「時間がないと言ったろう。きみが渋るような条件は出さない」
『……聞こう』
「僕の要求は一つ。ゲスト……きみらはオフリドと呼んでいるんだったな。"オフリドのメンバー捕縛、もしくは、オフリドの日本撤退が確認できるまで、僕の自由を保障しろ"。対価は情報だ。僕はオフリドを釣り上げる囮にもなるから、FBIにも悪い話ではない」
『……オフリドに関する全情報の開示、宮野明美捜索依頼の背景、所属の開示、通称・黒の組織に関連する情報の開示、日本における武器流通ルートの開示』
「四つ目は、程度によるが協力しよう。あんな巨大組織、解体されたからといって僕の一存でペラペラ話せる訳ないだろう。五つ目も同じだ。聞きたければ、僕を逮捕して減刑の取り引きに持ち込め」
『人質を取られているから俺たちは取引に乗る以外ないと?足元を見られたもんだ』
「そうだな。あと、三つ目はなんだ?意味が分からん」
『ドイツと仲良し疑惑がある』
「ああ……気になるんなら話してもいい」
『……自由に期限が設けられているのは?』
「先の銃撃と救急車からの脱走は僕の意図したところではない、と言えば分かるか?」
『逮捕したところで、オフリドがお前を外に出す、と。ガヴィのための舞台で暴走する可能性もありそうだな。オフリドが片付いた途端にお前を逮捕するのは、違反にならないんだな?』
「そうしないと、いくら人質をとっていても即決しないだろう。安心しろ、みすみす捕まる気もない」
『はー……時間はかけないが、オフリドが関わるならFBI側に、』
「スコッチの情報を流したのは僕だ」
『ッ貴様……!』
「ネズミが増え過ぎたから、脅威になり得ると判断した者を"間引いた"。僕の判断だ」

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