ナレーション:ーーこの階段は、どこへ向かっているのだろう?

主人公「俺は行くよ。立ち止まっているのは性分じゃないからさ」
親友「ここで僕は行ってらっしゃいと親友の君を笑顔で送り出すべきなんだろうけれど……承服しかねる」
主人公「何でだよ。それがそうするべき最善なんだろ?だったららしくもないことしないで、そうしてくれよ」
親友「そうするべきではあるけれど、惜しむらくは最善ではないんだよ。だから僕はーー君を止めるよ」
主人公「どうして!俺は進むべきだ!きっとその向こうでアイツが待ってる。これは俺にとっての最善ではないかもしれないけれど、アイツにとっての最善だろ?!」
親友「彼女にとっての最善ではないと言えば、君はその足を止めてくれるのかい?だったら、いくらでも僕の口から言おう。これは、誰の最善でもーー
主人公「……止められても、俺は行くよ」
親友「本当はべきだなんて使いたくない。でも、だが、行くなよ……」
主人公「お前はいつも正しかった。だからこそ、らしくもないお前を振り切って、俺は進むよ。ありがとう」
親友「待ってくれ!どうして口を噤ませるんだ!!!!!」

ナレーション:そして少年は、次のフロアへとーー階段を進んだ。

親友「頼む……ストーリーを進まないでくれ……」




ナレーション:その音は。踏み鳴らすのか、踏み締めるのか、それとも、踏み潰すのかーー

幼馴染「おっ来たな?」
主人公「うわ、いやがったな」
幼馴染「はは!いると思っただろ?俺はお前のことを1番理解しているからな。だからこそ、ここにいてお前を止めてお前の幸せを綴ってやるのさ!」
主人公「幼馴染とはいえ、こんなところで俺の足止めをしているのに1番の理解者とは片腹痛いよ」
幼馴染「そこは両の腹にしろ!もれなく腹筋が割れるぞ!あはははは!」
主人公「ほんと、なんでお前みたいな馬鹿がいるんだよ……」
幼馴染「言っただろう!お前の幸せを綴るためだ!お前はここを進もうとしているし、進むことが最善だ!だが、最善が最も幸せというわけではないぞ!俺はお前を理解しているし、大切な幼馴染だと思っているから、俺はーー……」
主人公「どうした?」
幼馴染「行け。行くべきだ。俺が間違えていた」
主人公「は?なんだよ手のひら返しやがって」
幼馴染「行け。行くべきだ。俺が間違えていた」
主人公「…………」

ナレーション:階段は続く。こつり、こつりと。
振り子を鈍らせるように。こつり。

幼馴染「俺が間違えて、なんかいないんだよ」




ナレーション:あなたと、時計と、この螺子。
共通点はなんだろう?

伯父「やあ。遅かったね。私達に許された時間は実に短い。たった1分半だ。あまつさえナレーションが10秒以上もかっぱらって行ったのだから私達の使える時間はせいぜいあと1分というところかね」
主人公「時間がないなら何で、足止めをするんだ?」
伯父「それが私に課せられたセオリーで君との約束だからだよ。もっとも、もう一つの約束のせいで、私は今から足止めをするが、すべからく君を通し先へ行かせるだろうがね」
主人公「はあ?どういうことだよ?お前が俺を行かせたくない理由は何なんだよ。行かせたい理由も、なんなんだよ……」
伯父「行かせたくない理由も、行かせたい理由も、君はもうさんざんに言われているはずだ」
主人公「なんだよそれ!なあ!答えろよ!」
伯父「さあ、もう時間だ。これで私の台詞は終わりだよ」

ナレーション:少年は、次のフロアへと行き着く。
進もうとも、進まざろうとも。

伯父「君は最善ではない選択をするべきだ。
それが最善のストーリーなのだから」




ナレーション:もしもハリボテの螺子が緩んでいたとしたら。
いや、そんなはずはない。

妹「お兄ちゃんおはよう。いい夜だね」
主人公「随分と長いお昼寝だな。お前も俺を止めるのか?」
妹「えー?止めて欲しいの?お兄ちゃんはあの人の所に行きたいのにわざわざ止められにくるとか、めんどくさくない?そのワンクッション」
主人公「今までの奴らが行くべきだの足止めだの言ってきたんだよ。俺は別に恙無く行けるならそれに越したことはない」
妹「つつが、なく。あはははははは!それは無理だよ!隔たりなくあの人に会おうだなんて!私とこうやって話してる今この瞬間も私は足止めをしていることになるし、一言一句私は間違えてなんていないんだもん。私にとっての恙無く最善を尽くすことは、お兄ちゃんにとっての最善であり、同時に最悪にもなってるんだから」
主人公「矛盾してるだろ、それじゃあ」
妹「そうだよ。だからーーあ、もう行っていいよ。そうするべきだよお兄ちゃん」
主人公「え、は?」
妹?「君は自分の意思で私を振り切るんだよ。それが……」
主人公「お、おい」
妹「ばいばいお兄ちゃん!行かないでね!」

ナレーション少年は背中を押されるがままにフロアを後にする。
矛盾を突き詰めた先に何があるのかを知るために。

妹「ごめんなさい」




ナレーション:ゴールとはどこなのだろう?
もしかしたら、通り過ぎてしまったのかもしれないと考えたことはないだろうか。

彼女「……やっと来たね」
主人公「やっと、たどり着いた。ずっとお前を助けだしたくて、この階段を上がってきたんだ!」
彼女「本当に?」
主人公「当たり前だろ?!そのためにーー
彼女「本当に、上へきたの?」
主人公「……え?」
彼女「いつから登っていると思っていたの?明るい未来が貴方のした事を許すとでも?」
主人公「何を、言ってんだよ……ここは最上階だろ……?お前を連出して、また階段を上が……え?上がる……?」
彼女「あはは!そう、ここが最終階で、ここは最終回だよ。いくら妨害したって、私に辿りつくべきだと仕組まれている!止めても無駄だ!この物語は!貴方の罪のお話!」
主人公「や、やめろ!」
彼女「ねえ。なんでこっちを見ないの?ふふ、見れないよね。目も当てられないもんね、今の私」
主人公「やめ」
彼女「でもこうしたのは、殺したのは貴方でしょ?」
主人公「やめろおおおお!!!!」

ナレーション:真実は、錆に似ている。

彼女「こっちを見ろ」




親友「結果から申し上げましょう。彼はあの子の元へ辿り着くことができました」
幼馴染「アイツが辿り着いたのは真実を着せられたあの子でした」
おっさん「彼が進んだ階段は下へと登る階段だったのです」
妹「一番下に向かって行ったのですから、希望などあるはずがありません」
ナレ「待っていたのは真実を知るために最善を尽くされた絶望でした」
彼女「彼は愛という欲望のために、彼女(私)を殺したのです」
おっさん「最善の観念論のために殺して埋めたのです」
親友「彼は彼女の元へ向かいました。僕達の足止めを無視して、彼女の隣に下りていきました」
幼馴染「彼はもう登ることはないでしょう。光を見ることはないでしょう」
妹「それは運命なのです。人生なのです。彼そのものなのです」
全員「その共通点はーー」

ナレーション:彼を探しに、また少年は階段に足をかけるだろう。
そして少年は階段を駆け上がる。それがいつしか、駆け下りていることにも気づかずに。
真実は上へ上へと落ちて行く。
ぐるりぐるりと、螺旋階段のように。




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