stage1




それは研磨が言ったある一言から始まった。


「クロ、このゲームしてないよね?」


研磨がずい、と見せてきたのは携帯ゲームの画面だった。始めたのはつい最近だったはずだ。なんか妖怪か怪物かわかんねーけどそんなやつらをパーティー組んで世界を平和にする、的な割とありきたりのオンラインゲーム。
いいや、と首を振ると、そう、と小さく返事をされた。時折研磨と一緒にアクションゲームとかはするものの普段ゲームはしない、それは幼馴染の研磨は知っているはずだ。なのにこれを聞いてきたということは何か意図があってのことだろう。隣を見ると幼馴染はすでに携帯の画面に食いついていた。


「なんでそんなこと聞くんだよ」
「・・・別に」
「何かあるんだろー?言わねぇと今日のメニュー増やすぞ」
「はぁ・・・・・・新しく始めたこれ、ギルドがあって、猫だましっていう名前なんだけど」
「なんだそれ、不意を突くのが好きなのか?」
「・・・知らない。それでそのギルドマスターの名前がトサカヘッドって名前だったから、」


ちら、とこっちを見る猫目の視線は俺の頭だった。トサカヘッド、トサカヘッド、うん、まぁ時々言われるけどネ。それで俺がやってるんじゃないかと。なるほど、よくわかった。そんな会話をして朝練をしているといつの間にかその会話すら忘れていたのだが、今この話をしているということはある人物によって思い出されたからだった。


「おっはー黒尾」
「おー」


俺の後ろに座っているこの女。みょうじなまえという名前なのだが、まぁこいつもゲーマーで研磨と負けず劣らずゲームばっかりしている。普段ゲーム機でゲームしてるのに最近は携帯ばかり触っている。ふと朝の会話が思い出された。まさか、とそう思いながら俺はこの女に声かけたのだ。


「なぁトサカヘッド」
「どうしたトサカヘッド」
「ちげぇよ、お前新しく始めたゲームでトサカヘッドって名前使ってねぇか?」
「え、なんで知ってるの?黒尾あのゲームしてたっけ?」
「やっぱり・・・」
「あれ、これ誘導尋問ってやつ?」


ひどい!なんて言いながら携帯の画面をこっちに見せてきたが、なんか装備をしたイケメンの男と上の方に《トサカヘッドLv.67》の文字。研磨に見せられた画面とは違っていたがほとんど変わらない。やっぱりこいつだったか、と幼馴染とクラスメイトの謎の繋がりに笑いが止まらなくなってしまった。


「え、なになに突然笑い始めてちょっと気持ち悪いんだけど」
「お前、ギルマスなんだって?」
「うん、ていうかさっきから何?」
「ギルドに俺の幼馴染がいるらしいんだよ」
「え、うそ!まじ!?すごい!」


誰だろ、とまた携帯に目を向け画面を触り始めた。いろんな名前が羅列されている。きっとギルドメンバー一覧なのだろう、上から携帯を除いていると見慣れた名前を見つけた。


「そいつ、それ、コヅメってやつ」
「コヅメ?へぇ・・・この人すっごいイベントとか協力してくれる人なんだよねー」
「研磨にも言おう」
「・・・研磨?」
「そう、そいつ孤爪研磨って名前」
「あの、黒尾の幼馴染っていう?」
「そうそう」


研磨はどういう反応するのだろうか。まだ授業は始まっていない、きっと研磨は携帯を触っているはずだ。急いでメール画面を開き、研磨にメールをした。トサカヘッドの正体は俺のクラスメイトだったぞ、と。
返事はすぐにきた、だが俺の想像していた内容ではなくつい返事をしようとする手が止まった。


「その人の名前ってなに・・・?」


その人、後ろを振り返ると「イベント始まった」と小さく呟いていた。
研磨が他人に興味を持つなんて珍しい、なんか面白いことが起きそうだ、そう思いながら後ろの女の名前を打ち込んだ。


170324


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