stage3




俺はみょうじなまえという人を知っていた。知るという言葉に足らないけど、恐らくこの人がみょうじという人なんだろうと認識できるレベルには知っていた。
今まで何度か(不本意だけど)クロの教室には行ったことがある。部活のことであったりクロの忘れ物を届けたりと理由は色々あったけど、ニヤニヤしながら手招きするクロの元へため息をつきながら行っていた。よく知らないけど恐らく平均の高校生より体格の大きいクロの後ろで猫背になって隠れるように携帯ゲーム機に食いついている女子高生を見かけた。ゲーム好きの女の子なんて世の中探せばごまんといるだろうけど、俺の世界では初めての出会いだった。例えるならSR級のレアキャラをガチャで手に入れた、そんな感じの衝撃だった。
その時「みょうじさーん」と教室の別のところで声がし、そのSR女子高生が「はーい」と顔は画面に向いたまま、声だけ発し、この人がSRみょうじという認識が俺の中でできた。そんなあだ名を心の中でつけていたことがバレたら怒られそうだ。
たまたま始めたゲームのギルマスがクロのクラスメイトだと言われ、どきん、と心臓が大きく跳ねた。まさか、いや、違うかもしれない、まさか、いやでも、と何度も期待と否定を繰り返して、名前を聞いてしまった。送ったあとにしまった、と気づいたがもうすでに送信済みのマークがでてしまっていた。勘の良いクロのことだからきっと探りを入れてくるだろう、ああめんどくさい。
あれ、なんで俺ギルマスがSRみょうじさんであってほしいと期待したんだろう。


「研磨・・・くん?」
「え、あ、えーと」
「あ、初めましてだね。どうもトサカヘッドことみょうじなまえです」
「あ、孤爪研磨・・・です」
「うん、知ってる。黒尾に用事?」
「うん、居ないみたいだから・・・」


帰る、と続けようと思っていたのに、思ってた以上の柔らかい声で「待ってたら?」と手招きされて素直に着いて行った自分にびっくりした。
どうぞ、とさも自分の部屋かのようにクロの椅子に招かれて、どうも、と音が出たかどうかも解らないくらいの小声を発し、その椅子に座った。座ったもののどうしたらいいか解らず取り敢えずポケットに入っていた携帯を取り出した。そういえば今ギルド対抗のイベント中であった、ちらりと横目で見ると彼女も同じ画面を開いていた。俺の視線に気づいたのか顔を上げた彼女と目が合い、照れたようにはにかんだSRみょうじさんの笑顔に俺の胸はどきん、と異常なくらい大きく拍動した。


「変かな、やっぱり女の子がこんなにゲームしてると」
「別に。変じゃないと思うけど」
「そっか。よかった」
「俺は「うわ、ゲーマーが揃ってる」


俺の消え失せそうな声はクロの声に抹殺された。緊張していたけどどこか居心地のよかった今の時間を邪魔するなと下から少し睨むように恨むように見上げたが幼馴染のクロにはかすり傷にもならず、誰か知らない人の椅子を引きずって、俺と彼女の携帯を見下ろすように頬杖をついた。


「で、ギルマスみょうじと研磨のご対面ってことか。世間って狭いなぁ」
「黒尾関係ないからこの輪から離れて良いよ?」
「酷いなぁなまえちゃん。俺も関係してるじゃん、ほら名付け親」
「ウワァきもーい」
「とかいって俺のこと大好きなんだろ」
「クロオクンダイスキィトサカヘッドカッコィー」
「・・・」
「・・・」
「なんでトサカヘッドなんだよ」
「毎日目の前でトサカヘッドを見せられたらそりゃトサカヘッドにしようかと思っちゃうじゃん」
「思わねーよ」


ケラケラと笑うクロになんかすごくムカついた。


170403

[ back ]
ALICE+