stage4





「あ、覚醒用の2枚目が取れてないの?」


そう言って彼女はオレンジ味の紙パックジュースをズズズ、と吸った。
普段はバレー部のみんなと屋上でお昼ご飯を食べるのだけど、今日は雨。屋根のない屋上で食べることは不可能だからそんなときは各々教室で食べたり、体育館で食べたりするんだけど今日は前者の日だったみたい。
HNトサカヘッドことみょうじなまえさんはいつも教室にいるようで、教室に入った俺に「珍しいね」っと明るく声をかけてくれた。そんな彼女と話す会話なんて決まっている。今、ゲームの中ではイベント真っ只中で、色んなクエストをこなしながらイベントポイントを貯め、限定のキャラクターをゲットすることが目的なのだ。


「・・・うん」
「イベント今日までだけどやり込めばギリギリ何とかなりそうじゃない?結構イベントポイント貯まってるみたいだし」
「部活があるから多分無理」
「よし、黒尾。今日研磨くん休むから」


よろしく、と彼女は画面から目を逸らさず俺の横にいたクロに声をかけた。イベント限定キャラを1枚はゲットできているが、そのキャラをさらにグレードアップさせるためにもう1枚必要なのだが、まぁ簡単には取れるわけなく、かなり時間と暇を使ってイベントに参加しているのだが、部活をするとどう頑張っても無理な計算だ。部活をしている数時間は大きい。今回のキャラは魔道士だったから欲しかったんだけど。


「コラ、そんな理由で休めるわけないだろ」
「はぁ、何のための部長だよ」
「少なくともゲームさせるために休ませる部長ではない事は確か」
「ほら休息って大事じゃん?」
「ちゃんとクールダウンの日もあります」
「それ今日でも良いよね」
「良いわけないデショ。あれ、なまえちゃんバレーボールがチーム競技って知らないの?」
「うぜぇ、くそうぜぇ黒尾。研磨くん良くこいつと幼馴染できるね?私だったら同じ学校どころか幼馴染っていう事実すら隠蔽したくなるわ」
「なまえちゃん口悪すぎ。鉄朗くん泣いちゃう」
「きも。そして泣いてみろ、その写真アイコンにしてやる」
「ヤメテ」


間髪無く怒涛の2人の言い合いに会話の中身だけ聞けばただの喧嘩のように聞こえるが、最後に2人ともにやりと笑うからそうではない。つまるところ仲がいいだけなんだけど。じぃ、と見てるとにやりと笑ったトサカ頭がこっちを向いた。嫌な予感がする。


「俺とみょうじ、仲良いだろ?」
「・・・で?」
「いやぁ?別にぃ?」
「その顔気持ち悪い」
「研磨君に同意」
「2人とも俺の扱い酷くね?」


俺がみょうじさんを気になっていることはクロにバレてないわけもなく、こうやって時折探りを入れてくる。すごくめんどくさい。はぁ、と分かりやすくため息をついてもきっと俺の頭の上でニヤニヤしてるんだろうな。ゲーム画面を開いても一向に回復しない体力にまた小さくため息をついたところで、隣から高めの声で「あ!」っと言う声が響いた。


「ね、研磨くんが部活行ってる間、わたしが代わりにイベントポイント稼いでおこうか?」
「え?」
「わたし部活してないし図書館とかだったら遅くまで空いてるからそこでしようかなって、?」
「いや、あの」
「あ!ていうか普通に考えて人に携帯貸すの嫌だよね、ごめん」
「・・・いいの?」
「え?」
「頼んでいいの?」
「え、う、うん」


自分から提案したのにまさか俺から良い返事が来ると思ってなかったのか、キョトンとした顔をした彼女は可愛かった。正直魔道士ゲットしたかったからみょうじさんの提案は嬉しかった。携帯を他人に貸すことは嫌だけどきっとこの人なら大丈夫だろうという根拠のない自信があった。
なにより部活が終わった後にもみょうじさんと会えることに何故か俺の胸は高鳴ったんだ。



190502

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