stage5




図書館で携帯を触ることを怒られはしないが流石にゲームをしてるのは問題視されてしまうだろう。入口と受付から一番離れて、奥まったところにある4人がけの椅子とテーブルに筆箱、ノート、教科書と近くにあったやたら分厚くよくわからない辞書を開いて置き、さも勉強していますよというカモフラージュをしながらわたしはこっそり2台の携帯を触っていた。
ふ、と窓を見るといつの間にか日は落ちていて、真っ暗になっていた。こんな時間まで学校いるなんて文化祭や体育祭の居残り準備以来かもしれない。図書館にいる人もかなり減っていた。
グラウンドにある大きな照明に照らされて見えるのは片付けをしているであろうサッカー部。彼から携帯を預かり、ゲームをしてもう数時間は経っていたのか。目的のキャラは既にゲットし、今はのんびりレベル上げをしているところだ。そういえば部活終わったら研磨くんは図書館に来るって言ってたけどこの場所がわかるだろうか。一番奥にいるよ、とメール画面を開いて送ろうとしたけれど彼の携帯は目の前にあった。届くわけない。
まぁ探せばわかるだろう、と思っていると小さな足音。しかもすこし早歩き。研磨くんかな、と思って顔を上げると本棚からひょっこり現れた金髪頭の彼。部活終わって急いできたのだろうか、息が切れている。


「お疲れ様」
「あ、う、うん。」


目を左右にキョロキョロと動かし小さく呟いた研磨くん。ほんのり頬が染まっている。急いできたのだろうか。もう少しゆっくり来ても良かったのに。研磨くんはキョロキョロと何度か視線を彷徨わせたのち、「ゲット、できた?」と控え目に言って来たのだ。うん、可愛い。


「もちろん。大丈夫」
「よかった。ありがとう」
「どういたしまして!はいこれ携帯。ごめん、通知でメール来てるの見ちゃった」
「別に、いいよそれくらい」
「よかった」
「・・・」
「どうかした?」
「家どこ」
「え、家?あーここから15分くらい歩いたところだよ」
「・・・送る」
「い、いいよいいよ!すぐそこだし、研磨くんの家の方が遠いでしょ?遠回りになるよ」
「こんな時間まで残したのは俺のせいだし、なにより送らないとクロがまた何言うか...」


徐々に消えかけていった言葉の全てを掴むことはできなかったけど断片的に聞こえた「クロ」つまり黒尾の名前。彼が絡んできたらめんどくさいという言葉じゃ収まんないくらいのめんどくさくになるのは私も重々承知である。彼の名前が出てきた以上無下にするのは研磨くんが可哀想で、そのお誘いに首を縦に振ることにした。


「.........」
「.........」
「.........」
「.........」


沈黙とはこういうことなんだろうって再確認できるくらいの沈黙である。研磨くんはそもそもおしゃべり好きなタイプじゃないし、私たちの共通の話題なんてゲームか黒尾だ。うん、困った。歩いて15分、発する言葉は「えっとこの道を右で」「あ、こっち」と道を誘導するもの。ただただ研磨くんは私の横を付いてきてくれているだけなのである。なんだかすごく申し訳ない。何か話題を話題を、と思っていると気がついたら自宅が目の前にあった。


「あの、...えっと、こんな時間まで...ごめん」
「え?あ、いや好きで残ったことだし気にしないで?研磨くんのキャラスキルアップのためならいくらでも付き合うよ」
「これで新しいダンジョン進めそう」
「よかった!またこれからもギルドに貢献してもらえるとうれしいな」
「もちろん」
「わざわざありがとう。じゃあまた、」
「あ、」
「??どうかした?」
「...いや、またね」


何か言いたげな姿であったが研磨くんは小さくぺこり、と頭を下げるとそのまま家の前から去ってしまった。黒尾が何かしら関わってるとはいえ、わざわざ家まで送ってくれるなんてほんとに良い子だ。さて、ご飯食べてお風呂入ったらレベル上げがてら、ダンジョンにでも行きますかね。





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