Chapter9 〜流転〜





その頃、流魂街のとある地下で。

目を覚ました古賀は、一つ呻いて呟いた。


「そうか。私は…生かされたのか」


あの後、結局戦ったが、どうやら加減されたらしい。


「お、起きたのか」


独り言のつもりだった言葉に、反応を示す声。

視線を向けると、橙の装束を着た色黒の女性と目が合った。


「あんたは…「四楓院夜一。京楽からお前を預かって欲しいと言われての。偶々茶渡達が見つけた創始者の所へ連れて来たのじゃ」


「創始者…?」


「バウントの生みの親、蘭島(ランタオ)。名を聞いたことぐらいはあるじゃろう」


蘭島と聞いて、余り良い印象を持たないのは、自分達種族がどんな扱いを受けているかを知りながら、助けてもくれなかった死神への怨念か。

そも、助けを求めて、それに縋ろうとしていた一族への侮蔑か。

しかし、その蘭島本人を見て、狩矢に殺された女のバウントとそっくりな彼女を、恨む気持ちは薄れてしまった。


「済まなかった。わたしは貴方達を…助けてやる事が出来なかった…」


その後、訥々と語る彼女の話を聞いて、理解した。

蘭島は一族を見捨てては居なかった。

人間に迫害を受ける一族を集め、コミュニティを作り、自分は瀞霊廷が一族を受け入れる様嘆願していた。

けれど、時の四十六室はそれを棄却し、蘭島に全ての責任を負わせ、瀞霊廷を追放したのだ。


「だから、私は待った。貴方達は必ず尸魂界にやって来ると、信じていたから。でも、貴方達の復讐を、止めることは、出来なかった…」


「もう、良い。バウントは…もう私一人しか残っては居ない」


涙を流して訴える蘭島に同情したのか。

或いは、仮にも生みの親である彼女を責める事が出来なかったのか。

古賀には分からなかったが、口から出たのはそんな言葉だった。


「…そうだね。貴方さえ良ければ、暫く此処にいて頂戴。私は今更瀞霊廷に戻る気も無いからね」


「そうじゃの。最後のバウントの話も聞いてみたいしの」


そんな彼女らの提案を、古賀は頷くことで是を示した。


「そう言えば、四楓院。浄界章は…?」


「貰った位置情報を頼りに確認してきたが、既に何者かに封じられておった」


「そんな事が…?浄界章の数は七十を越える。全ての浄界章の封印など、死神が総出で掛かっても一週間は掛かる」


「そうじゃが…封印紋は四聖獣じゃったからの。安心せい。見当は付いておる」


「四聖獣…。神の紋か」


「あぁ。では、蘭島。後は頼むぞ。儂は確認せねばならんからの」


「あぁ、分かった」


慣れぬ単語に戸惑っていると、四楓院と名乗った女は姿を消した。

確か、瞬歩だったか。


「そう言えば、お前、名前は?」


振り返った蘭島の問いに、私はするりと名を名乗っていた。


「古賀剛だ」





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