Chapter10 〜予兆〜
冬獅郎が仕事に戻り、私はルキアと一護と少し話をした後、夜に戻ると白哉を説き伏せて、一人四番隊総合救護詰所へ向かっていた。
重傷患者が居れば手伝いでもしようかと考えて。
否、若しかしたら、一人になりたかったのかもしれない。
どうしてか、少しだけ、喧騒から離れたかった。
壁に背を預けて目を閉じると、此方に近付いてくる霊圧を感じた。
それで、無意識の行動に納得する。
この霊圧が持ってくるであろう話を、人に聞かれたくなかったのだ。
「四楓院夜一、だっけ」
「よく知って居るの。調停者殿」
現れた紫色の髪と金の瞳の女性は、にやりと高圧的に笑っていた。
「で、何の用ですか?元総司令官様」
「止めい。別にお主の敵になろうと言うのではない」
私が言葉に含めた棘に眉根を寄せて、溜息を吐く彼女は、元二番隊の隊長であり、隠密機動の総司令官。
そして、砕蜂の主人だった女性。
「浄界章の事でしょ?」
「話が早くて助かるのう」
そう言いつつも、再び溜息を吐いたのは、遣り難さからか。
「ならば、封印をしたのはお主で間違いないのじゃな」
「うん。全部封じた筈だけど…不備でもあった?」
「いや、無い。じゃからこうして此処まで来たのじゃが」
「そう。なら、封印式の事?」
「遣り難いのぉ、お主」
「あら、ごめんなさい」
思っても無い謝罪を口にすると、夜一はがしがしと頭を掻いた。
金の瞳が呆れの色を孕んでいて、苦笑する。
「儂で遊ぶなぞ、お主くらいのものじゃぞ」
「あは、案外乱され易いのね、夜一さん」
「今更さん付けなど要らぬわ」
「そう?なら夜一ね。私、名乗った方が良い?」
「良い。知っておる」
私達はどちらからともなく並んで歩き出す。
行き先はそのまま。
歩調はゆっくりと。
「で、四聖獣の封印紋がどの様なものかと言うのも知っておるのか?」
投げられた問いに私は少し首を傾げた。
「私はオリジナルだと思ってたんだけど…封印紋に意味があるのなら違うんだ」
「…成る程な。お主がオリジナルじゃと思うたならそれで良かろう」
彼女の言う意味を聞こうかとも思ったけれど。
私が知らない事は、世界が必要としない事象で。
聞いて記憶を拒絶されるのも面倒だと自己完結した私は、頷いた。
「それで良いなら、それでも良いかな」
「聞かぬのか」
「だって、世界中の森羅万象起こった全ての事象を情報として取得出来る私が知らない事って、知っちゃいけない事だと思うから」
きょとんと此方を見る夜一に、くすと笑って、視線を戻す。
「そうか」
結局何も言わなかった彼女の心の中までは読めはしない。
取得可能な情報量とて人の脳である限り、底は知れている。
けれど異質な事は確かで。
それについて何も言わない彼女に少し、嬉しくなったのは秘密。
その後夜一が見たいと言うので、総合救護詰所まで同行し、卯ノ花の手伝いで時間を潰した。
途中、一番隊隊士が大工達からの苦情を持って来たけれど、笑って破いておいた。
今度から修復は考えてやろうと肝に免じながら。
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