Chapter13 〜神威〜





瞬歩で着いた先、黒崎一護は本当にズタボロだった。

上空から叩き落とされ、殴られて壁を貫通し。

敵は、殆ど無傷。


否、一度だけ月牙を当てた形跡があるも、それさえ殆どダメージにはなっていない。


「おら、そんだけかよ!藍染様が、目に止めるぐれぇなんだからもうちっとマシかと思ってたのによぉ!」


巨躯の破面は挑発するかの様に吠える。

しかし、黒崎には反論する力さえ残っていない様だった。


「黒崎!」


「…檜佐木、さん。そっちは…」


「終わった。朽木は」


問うと、黒崎は眉間の皺を深く寄せて、ぎりりと歯を食い縛る。

それだけで、やられたのだと言うことは分かった。

霊圧を探ると消えては居ない事から、重傷なんだろう。


「まだ、立てるか」


「ったりめぇだ…俺は…っ!」


立ち上がろうとして、何かに脅える様に、顔に手を当てて動きを止める黒崎。

俺は先の玲と日番谷隊長の会話を思い出し、黒崎を庇うように前に立つ。


「あぁん?今度はてめぇが相手か?ソイツよりは出来んだろうなぁ?!」


殴りかかって来た破面の拳を斬魄刀で弾き、顔を顰める。

確かに俺はまだ卍解は会得出来ていない。

が…あの場所でただ遊んでいた訳でも無い。


「刈れ!”風死”」


卍解の修行をする内、自分の斬魄刀への苦手意識は消えた。

ちゃんと話せば、意外と話のわかる奴だったし、力の使い方も、教えてくれた。

二つの長い鎖鎌の姿になった風死を構えた瞬間。

破面の背後に黒腔が開いて、一人の男が現れる。

それは玲の言った通り、依然敬愛して止まない元隊長。

破面に静かに諭す声音は、以前と変わらない。

変わったのは俺とあの人の立ち位置。

たったそれだけなのに、酷く遠い。


「東仙隊長!!」


悲痛な叫びにあの人がくれたのは只一瞥。

もしあの目が開いていたのなら、酷く冷たかっただろう、僅かな反応のみだった。


「帰るぞ、ヤミー」


「チッ…しゃあねぇ…」


黒腔に消える二つの影を、見送ることしか出来なかったのは、絶望故か。

完全に空が閉じて、深い溜息が漏れる。

そこに、漸く凛と澄んだ穏やかな霊圧が現れて。

その後を追う様に、冷気を孕む霊圧が降り立つ。


「一護、生きてるね?」


言葉だけで確認し、反応が返ってきたのを見ると直ぐに朽木の方へと駆けて行く玲。


「どうだった」


日番谷隊長が静かに問う。

黒崎が戦っていたのが他の破面と違っていたからだろう。

身体に数字の様なものが刻まれていたあの破面の拳は、驚く程に重かった。


「…負けた」


「見ればわかる」


「…何も、護れなかった」


「…そうだな。だが、お前はまだ失ってもいねぇ」


日番谷隊長の言葉に、黒崎の虚ろな目が少し光を取り戻す。

其処へ、朽木を肩に担いだ玲がやって来て、黒崎の傷をあっという間に回復させる。


「ほら、ルキアは無事だよ。何時までも腑抜けた顔してると、いい加減怒るよ?」


「玲、さん」


意識の無い朽木を黒崎の腕に預けながら、虹色に照らされた彼女は呟く。


「どうして迷うの。相手の提案を受け容れれば貴方が貴方じゃ無くなるわけじゃない。それに、彼等は敵じゃないよ」


「はは…何でも、知ってんだな」


「当たり前でしょ」


その会話は俺には全く理解出来なかった。

恐らく眉間の皺を深くしている日番谷隊長もそうなんだろう。

だが、その言葉を受け取った黒崎は、何処か救われた様に、笑ったんだ。



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