Chapter16 〜虚圏〜





穿界門を出た後、私はそのまま一番隊隊主室へ向かった。

待っていたらしい元流斎に曖昧に笑って、長椅子にすとんと腰を降ろす。

一緒に戻ってきたメンバーは連れて来ていない。

冬獅郎だけなら問題無いけれど、他の人達に知られる訳には行かないから。


「どうぞ」


すと手を差し出すと、元流斎は眉間に深く皺を刻む。


「此度の騒動、お主予め知っておったな」


「うん」


「何故、止めなんだ」


「黒崎一護を虚圏に乗り込ませる為。敵の戦力削減と、陽動の為に、必要だったから」


「分かった上で連れ去らせたと言うのならば、井上織姫は安全なんじゃろうの」


なんだかんだ言って、この人も心が無いわけじゃない。

織姫の事、心配なんだ。


「勿論。それに、藍染に忠誠を誓う破面は皆、消してる。返したのは私の仲間だけ。つまり、戦闘記録も改竄済み。此方の霊圧上限が上がっている事も察知させてないよ」


「…そうか。お主、自ら乗り込むつもりじゃの」


「話が早くて助かるかな」


「何をするつもりじゃ」


問うてくる総隊長に、笑みを見せて。

唇に指を当てた。


「詳細は秘密。ただ、内側からの瓦解を測ってくるから、それまでに、空座町での戦闘準備、整えておいて。浦原喜助の準備は、もう終わってるはずだから」


「……仕方あるまい。お主、一人で行くのかの」


「うん」


「…そうか。ならば何も言うまい」


「ありがと。ねぇ、お爺様」


「何じゃ」


「全部終わったら。破面達受け入れて欲しいんだ。勿論、破面としてじゃなく、死神として」


全てが終わったその時に。

私に時間が残されているかどうかなんて、分からないから。


「それは、お主が奴等を死神にする、という事かの」


「うん。尤も、彼等がそれを望めばだけれど」


厳しい顔をする彼に、お願いだよ、と瞳を揺らす。

彼等だって、魂魄には違いないんだから。


「……考えておこう」


「うん、ありがとう」


彼の思考は柔軟になったと思う。

今だって、虚は虚。

敵である事に変わりないと切り捨てられる確率の方が高かったのに。


「ありがと、ね」


もう一度言葉を溢して。

私は隊主室を後にした。


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