Chapter4 〜華奢〜




どれ位、そうしていただろうか。

漸く落ち着いて、顔をあげた私は、そこでやっと違和感に気付いた。


「…そういえば、恋次は?」


側にいる白哉に問うと、彼は机の上から書類を一枚取り上げた。


「早朝、現世へ任務に降りた」


「…そうなんだ」


道理で隊舎が静かなわけだと納得する。

そこへ、ぱたぱたと駆けてくる一つの足音。


「た、隊長!大変です!」


「…入れ」


執務机に座った白哉が冷たい声を投げると。

扉が開き、顔を蒼白に染めた隊員が、慌てて頭を下げて口早に告げた。


「十一番隊の、更木隊長が…!瑞稀玲を出せと…!」


「追い返せ」


「しかし…既に隊士はほぼ全滅で…!」


まぁ、無理も無い。

そう、白哉も分かっているはずなのだけれど。

溢れる溜息はどうにもならなかった様だ。


「いいよ、白哉。私行ってくる」


「其方が行く必要は無い」


「用があるのは私みたいだし。それに、隊員さん達も治してあげなきゃ仕事にならないでしょ?」


私の言葉に、白哉は少しだけ迷う素振りを見せた。

多分、扉の前で縮こまっている隊員には分からない。

けれど、私なら気付くレベルで。

彼の性格上、隊務を疎かにするのは許せないのだろう。

もしやられた隊士全員が四番隊送りになんてなったら、それこそ暫く仕事が回らない。

そうなれば、私が出て行って、治す他なくなる。

怪我だけでなく、失った血液や体力まで回復させる治癒能力を持つのは恐らく精霊邸には私だけだろうから。

更木はそんな事まで考えて暴れたんだろうか。

だとしたら意外と策士かもしれない。


「…もう、大丈夫なのか」


「うん、平気だよ。ありがとね」


ふわりと微笑むと、彼は何処と無く諦めたように頷いた。


「…私も行く」


「うん、わかった」


漆黒の瞳に、微かに怒りの色を感じた私は、素直に頷いた。

お願いだから斬魄刀は抜かないでね。

そんな事を祈りながら。


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