Chapter6 〜現世〜





「塞」


しなやかな指が印を結ぶと、虫にしては随分と大きい数百の化け物が悉く空中で硬直する。


「玲。手を出すなと言っただろ」


呆れながらも、空中のそれらを氷の龍で破壊する冬獅郎は、斬魄刀の解放もしていない。

彼が解号も唱えず、斬魄刀を抜きもせずに龍の形を作れる様になったのは本当に最近の事だけれど。

それを知らない副官達には、畏怖や羨望を抱かせるには十分な光景だった。


「だって。折角現世に来れたのに、変な虫の相手で一日潰すのやだよ」


「だから、遊びに来たんじゃねぇって言ってるだろ」


余りにも常識外れな光景を作り出した当の二人は、その中心で揉めている。

その間にも、氷の龍が化け物を飲み込んで破壊していく。

玲は印を解いていない為、巨大昆虫は最早只の的だ。


「でも私動くと死神代行と滅却師に文句言われそう」


「何でだ」


「なんか、因縁出来ちゃってるみたいだから」


呟く玲が何もかも事情を理解してしまっていること察して冬獅郎は肩を落とした。


「なら、どうするんだ」


「私と冬獅郎は今日中に帰ったほうが良いかな」


あれだけ来たがっていたのに、さらりと帰ると言った玲に溜息。

もう、勝手にしてくれとでも言いたげな青年が、見守っていた副官達の憐れみを誘う。


「よし、冬獅郎。観光しよ」


「……どうやってだ」


もう色々と諦めた彼は反論もしない。

が、人がいる街に出るには義骸が必要で。


「冬獅郎、義骸無いの?」


「お前が涅をあの状態にしたお陰でな。まだ出来てねぇよ」


「ん、じゃ作ろっか。義骸のデータ…ん。服は?」


最早何も言うまい。

素直に服装の特徴を説明する冬獅郎を遠巻きに見守る副官達に、彼女を止める手立ては無い。


「はい、出来たよ」


その場であっという間に義骸を作ってしまう彼女に、突っ込むものはもう居ない。


「…はぁ…お前達、後は頼む」


大人しく義骸に入る指令官に、突っ込む勇気がある者も、その場には残念ながら居なかった。


「なんか、大変だね。日番谷隊長」


「俺、彼奴に関わらなくて正解だったのかもな…」


「あれ程美しく無い行動をしているのに、尚美しい彼女の業の深さ故さ…」


「あんた達、黄昏るのはやめなさい」


同じく義骸に入った玲に急かされて去って行く冬獅郎を眺めて、それぞれが小さく溜息を吐いたのだった。



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