急募:スキンシップの躱し方


「たっだいま〜!」
「太宰さ……ぐえっ」
背中に走る鈍い衝撃に押し潰された蛙のような何とも悲惨な呻き声が辺りに響く。
頭一つ分以上身長差のある太宰から背中に思い切り飛び付かれた紫月は小粒の涙を浮かべながら、太宰と共にその場に倒れ込んだ。

「俺が居ない間寂しくて仕方なかっただろう?そんな寂しがり屋な紫月の為に今日はいつにも増して早く帰って来たぞ!」
「あ、ありがとうございまふ……とっても嬉しいのでそろそろ退いていただけませんか?」
太宰の後ろから潜書を終えた文豪達が2人に冷ややかな(或いは紫月に哀れみの)視線を向けながら自分達には関係ない、関わってはならないというように1人、また1人と靴音を鳴らし遠ざかって行く。
長い沈黙を打ち破ったのは他でもない太宰であり、ゆっくりとその熱が紫月から遠退いた。

「存分に紫月を堪能したしそろそろ解放してやるかな。立てる?」
「ありがとうございます。前から思っていたのですが、背中に勢いよく飛び付かれると私もびっくりしますので……」
「飛び付く前に紫月に一声かければいい?それとも前から飛び付くならおっけー?」
「そういう問題ではないんです!私1人で転ぶならまだ良いのですが太宰さんと一緒に転倒して、太宰さんが怪我をしたとなると悲しい、ので。えっと……」
太宰に自分の想いを伝えようと必死に言葉を探しながら話す紫月の姿がどうしようもなく愛おしくて太宰は再び彼女を自身の腕の中に引き込んだ。

「俺はそんなヤワな体しちゃいねぇよ。……ただ自分の軽率な行動でお前が怪我したってなると他の連中も黙ってないだろうし以後気を付けなきゃな!」
「は、はい!ありがとうございま、す?」
どうしようかと悩みに悩んだ末両の手を控えめに太宰の背に回す。
一瞬目を見開いた後、極上の笑顔を浮かべた彼は紫月を抱きしめる力を更に強めたのだった。

(だ、ざいさ……ぐるじ……で、す)
(照れるな照れるな!)


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極夜