金銭管理はしっかりと


「作之助さんにこのような事を頼むのは心苦しいのですが……」
作之助を真っ直ぐ見つめながら言葉を切った紫月の瞳は揺れていた。
彼女が表情を陰らせてしまうほどに深刻な問題をこちらに持ち出す、ということはそれだけ信用されていることなのだろう。
そう考えると困り顔をしている紫月には申し訳ないが少々嬉しいという気持ちも湧き上がってしまう。

「ワシとおっしょはんの仲やろ。困った時はお互い様、助け合いの精神とも言うしワシで力になれるなら何でも言うて?」
「作之助さん……!」
作之助の優しい言葉にこみ上げてくる涙をぐっと堪え改めて彼と向き合った紫月の瞳に一切の迷いは無かった。

「単刀直入に言います。私にお金を貸して下さい!その為であれば何でもします!!」
「えぇっ……」
「や、やっぱり金銭の貸し借りは良くないですよね。以前一緒に購買へ行った時も難色を示されてましたし」
そことちゃうわ!と作之助は心の中で紫月にツッコミを入れる。
彼があのような声を漏らした要因はお金を借りられるのであれば何でもする、という紫月の発言。
妙齢の女性でありながら誤解を招きかねない物言いと、それに気付いていない紫月の危うさに作之助は額に手を宛て首を振った。

「おっしょはんって日頃そないに金遣い荒かったか?素直に白状せなあかんで」
「えっ?!わ、私が後先考えず買い物をして、余裕がなくなってしまっただけなので作之助さんが仰るような理由はこれっぽっちも……」
「誰かに泣きつかれて大金を貸した結果やりくりが出来なくなった感じやな?相手は……」
「わああああ!ダメです!その方の人権のためにも思い当たる節があっても言わないであげて下さい〜!!」
「(人様から金借るような輩に人権も何もないと思うんやけど……それにウチに居る文豪で金を借りるいうたら、な)」
胸元にしがみつき懇願する紫月の甘さに作之助は深い溜め息をついた。
溜め息にびくりと肩を揺らし、怯えたような瞳で作之助を見上げる紫月に敵わんなぁ……と心の中でごちる。

「紫月がそない言うならワシは何も言わへん。さっきも言うた通りワシとおっしょはんの仲や、お金は貸したげるよ」
「作之助さんありがとうございます!」
「ただ、貸すにあたって1つ条件を飲んでもらう事になるけど……紫月の休日をワシにくれへん?」
こてん、と首を傾げる紫月に作之助は本日2回目の溜め息を漏らした。
前々から色々と鈍いと思っていたがここまでとは……。

「早い話が逢瀬、今風にいうとでーとやな」
「で、でででーと!?私と、作之助さんがですか!?」
「決定やな。今週末楽しみにしとるで〜」
踵を返しそそくさとその場を後にした作之助の口角は緩み、しまりない表情を隠そうと口元を手で覆う。
彼女と共に出掛けられるのならば金を貸すくらいわけもない、最も紫月だからこそ金を貸しても良いと思えたのだが。

「早く週末にならんかなぁ」
林檎のように赤らんだ紫月の顔を思い出し、作之助は瞳を伏せた。


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極夜