ヤキモチやきはお嫌いですか?


白い封筒に記された名前と差し障りのない内容にそっと便箋を畳んでいると傍らで書簡の整理を手伝ってくれている朔太郎さんと目が合った。

「白秋先生からの返事、来た?」
「北原さんからのお手紙は来ていませんね」
「そう……ありがとう」
弾んでいた声を萎ませ目に見えて落ち込んだ朔太郎さんの姿に決して抱いてはならない、愚かしい感情が内から滲み出そうになる。
秘めた感情を知った時一番に困り、悲しむのは私ではなく朔太郎さんなのだ。一時の感情に身を委ね心情を吐露するわけ、には。

「犀に会いたいな……紫月?」
「……私ではダメですか」
「えっ?」
「朔太郎さんを想う気持ちは御二方にも、誰にも負けるつもりはありません!」
「いきなりどうしたの?君がそんなに感情を曝け出すなんて珍しいね」
海色の瞳を向けられ漸く私は口から飛び出た醜い感情の一端に気付いた。
唇を噛みながらひっそり朔太郎さんを見つめると控えめな微笑を返される。

「もしかして紫月、嫉妬してる?」
「朔太郎さんが北原さんと室生さんのことを楽しそうに話す姿を見る事が出来て嬉しいはずなのに……仰る通りです。嫉妬していました」
「嫉妬するって事はそれだけ紫月が僕のことを想ってくれてるって証拠でしょ?そんなに想ってもらえて幸せ者だね」
雪のように白くきめ細かい肌をほんのり染めてさっきよりも明確に、とても嬉しそうに朔太郎さんが笑ってくれるから「嫉妬してもいいのではないか」と開き直りの気持ちが芽生えてきてしまう。

「迷惑でしたら私のことは気にせずはっきり申し上げてください。お願い、します」
「口で言うより行動で示した方が早いかな」
逸らしていた目を再び朔太郎さんに向けると、夜の海を帯びた瞳が目の前にあった。
ちゅっと可愛らしい音を響かせたのは、どちらだろう。

「ありがとう紫月。僕を好きになってくれて、いつも傍に居てくれて」
極上の笑顔を私だけに向けて愛を囁いてくれる。
そんな単純なことで私の心に巣食っていたどす黒く醜い劣情は瞬く間に昇華していった。

「朔太郎さんが大好きです。だからずっと、傍に居させて下さい」


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極夜