どんな仕事や環境も一ヶ月も経てば慣れるものだ。




住めば都




人の順応性とはすごいもので。
この世界に来て早半年。私はもうこの世界に慣れ、いちフリーターとして貧乏生活ながらも普通の暮らしを送っている。

見たことのある景色に聞いたことのある町の名前やお店。
初めは、え?銀魂の世界?え?トリップ?え?とか一回パニックに陥って、その後浮かれたものの現実を知ればお腹は空くし眠気もくる。
丸一日繁華街をウロつき考えたものの結果的には何も解決しないどころか生命の危機をこの時やっと感じ、それと同時にミーハー心に火が付き、万事屋を探し頼ることに決めたのだった。


迎えてくれた新八くんを見て本物だ!と興奮を悟られないようにし、部屋に通される途中で寝ぼけた神楽ちゃんに遭遇して、また本物だ!と感動を悟られないようにし…
何度も見たことのある建物内の廊下を歩き軋む床を踏みしめながらなんとも言えない緊張を押し殺し、銀さんの居る部屋に入ったのは今でも忘れられない。

目の前に居たのはあの銀さん。
まるで超絶イケメンの大好きな芸能人を目の前にしたみたいに、私の爆発して走り出しそうな心臓とは逆に体は全く動かない状態。
ソファに掛けてくださいと新八くんに促され、ようやく体が動き出す。この年季の入ったソファも何度も見たことがある代物だ。

どう言った依頼で?と、初めて私に向かって発せられた言葉はやっぱりあの声で。
その声を聞いてさらに緊張が増し、私の心臓は破けてしまうんじゃないかと一瞬心配になった。
その質問に私は上擦った声ながらも事情を説明し始めたが、こんな話し誰が信じるのだろうと自分自身疑問を持つ。
違う世界から来ました、なんて誰が聞いたっておかしな話で信じてくれると思わなかったけど、この時の私は藁をもすがる思いでとにかく包み隠さず話をした。

終始銀さんたちは変な目で私を見ていたけど、緊張しながら何時間も説明する私を見て最後は一言「あ、ごめん話長くて途中から聞いてなかったわ、つーか腹減らね?」と、まともに聞いていなかったようで、その後に何故か卵かけご飯をご馳走になることになった。

年季の入ったテーブルにはご飯と卵と醤油のみ。
初対面なのに四人で手を合わせいただきますをして、口にしたご飯は美味しくて…
私は気付いたらボロボロと大粒の涙を零していた。そしてそれを見て新八くんはオロオロして、ごめんなさい!うち金欠で卵かけご飯しかできなくて!とか色々フォローを入れてくれていた。
神楽ちゃんはいい歳をして泣く私をチラ見したものの、ご飯をかき込むのに必死になっているようで私のことは二の次といった様子だった。
銀さんも私をチラ見してから一言「これ食ったらまた話聞いてやるからそんな泣くなよ」と眉を下げて呆れていた。

違うよ銀さん。
私は話を聞いて欲しかったんじゃない。
寂しかったんだ。このままこの世界で一生一人のままなんじゃないかって思ってた。
考えれば考える程、私はどうしたらいいんだろうって不安しかなかった。
ここに来て良かった。ここに来る決断をして良かった。そう心底思った。
私は怖かったんだ。
お腹の中に入るお米と卵とともに、私の心も満たされていくのが分かった。

その後は後払いということで万事屋の手を借りて住むところと仕事を紹介してもらった。主にお登勢さんのおかげだった気がするけど…
昼間はコンビニで、夜は忙しい時だけお登勢さんのスナックでお手伝い程度に働かせて貰った。
初めの一ヶ月は慣れなくて辛い思いもしたけど、コンビニには時々万事屋の誰かが遊びに来てくれた。と言ってもほとんど廃棄処分のコンビニ弁当などが目当てなんだろうけど…

スナックお登勢には銀さんが様子を見に来てくれることがしばしばあった。そのたびにツケで帰って行ったけど…
キャサリンは相変わらずウザいキャラでよく私に絡んできたけどお登勢さんもたまさんもとても親切にしてくれた。
そんな日が続きもう半年が経つ。
あまり綺麗とは言えないけど一人で住むには充分な長屋生活も慣れて、仕事にも完全に慣れてしまいそれが全て私の日常となった。

お風呂がない古びた長屋。
私は銭湯に行ったりたまに廃棄処分のコンビニ弁当を差し入れに万事屋のお風呂を借りることもあり、その度に万事屋へ通っていた。
この半年で私はすっかりこの世界に馴染んだ挙句、万事屋の一員のような存在にまでなっていたのだった。





top
ALICE+