言うに事欠いてそれ?!




世の中は言い方ひとつ






私は怒っていた、昨日の出来事に。
とりあえず一緒に住んでみるか?なんて、どうしてそんなことしか言えないんだよ銀さんは!

私はあの後、すぐに帰った。
本来ならみんなでまたご飯を食べて他愛もない話をして、お風呂借りてたはずのに。
しれっと銀さんと仲直りしていたかもしれないのに。

怒って万事屋を出て行く私の後ろで本来なら一緒になって、誠意を持って相手に応えろ!と怒ってくれるはずの神楽ちゃんは「それがいいネ!名前と一緒に住んだらきっと楽しいアル!」と同意する始末。

これはダメだ、と階段を降りていく途中に新八くんと会った。
買い物袋を下げてこんばんはと笑う新八くんに私は一言、やっぱり銀さんは最低だよと言って横を通り過ぎた。

新八くんはどうしたんですか?!また銀さんなんか変なこと言ったんですか?!とアタフタしていたので、後々銀さんに詰め寄っていることだろう。
そう思うと私の味方は新八くんだけなのかな。

そのまま家に帰るのも癪だったので私はスーパーで沢山買い物をして帰った。
そして今に至る。
今日はコンビニの仕事が休みなので何か本格的な料理でも作ろうと昨日は買い出ししたのだ。
時期的なものもあり、スーパーの特設コーナーには小豆ともち米が目立つようにディスプレイされ並んでいた。
おはぎの季節か、とそれを見ていれば気持ちはどんどんと食べたい方向へ。

こうなったらヤケ食いしてやろうかと思って和菓子コーナーも見たがおはぎは売り切れていた。
みんな考えることは同じだ。作るより買った方が早い。
いつもならここで諦める私だけど今日はこの収まりきらない気持ちが拍車をかけて、私はスーパー入口の特設コーナーに戻って小豆ともち米を手にとったのだ。


「さぁて、大量に作ってやる!」
朝からやる気満々。
昨日スーパーの帰りに本屋でおはぎの作り方も見てきたので下処理も昨日の夜のうちにバッチリ終えている。

私は手際良くおはぎを大量生産していく。
途中でこんなに食べられる訳がない、と思いながら。
そして銀さんおはぎ好きだろうな、と考えてしまう自分が憎い。
あそこまで憎たらしいこと言われてまだ好きなのか…私、重症だな。

全てを作り終えると明らかに一人で食べれるような量ではないおはぎが目の前に並んでいる。
誰かにおすそ分けと思えば浮かんでくるのは例の人しか居なくて。
でも嫌だ。もう今度こそは本当に知らない。謝ってくるまで許さない。いや、謝ったって許さない。
昨日のことを一部始終思い出しては鼻息が荒くなった。


「あ、そうだ」
そういえば先日、お礼を言うのを忘れてた人が居たじゃないか。と思い出した私は早速透明なタッパーにおはぎを沢山詰めて出掛ける準備をした。

外は秋晴れ。
まだ冷たいとは言えないが風が少しずつ涼しくなってるのが分かる。
日射しがあっても肌を掠める空気はひんやりしていた。

土手の方を歩いているとそこには彼岸花が沢山咲いていてとても綺麗で夏とは全く違った色をしていた。
真っ赤に染まるほどの景色は視覚でも秋を感じさせ、川の水もいつもより澄んでいるように見えた。
ゆっくり土手を散歩しながら歩いていると、今から行こうと思っていた場所の住人を見つける。


「あ」
「あ?」
「こ、こんにちは土方さん!」
まさかの土方さんだ。
真っ赤に染まった土手を背景に黒の隊服となびく黒髪がとても栄えている。

そしてこの色男っぷり、写真集かなんかですか?グラビアですか?芸能人ですか?って言うくらいのオーラを放っていて、私はこの人を何回見ても一向に慣れることはない。

「苗字か」
さりげなく土方さんは私を上の名前で呼ぶ。
距離があるようだけど“さん”付けではないので彼なりの親しみは持ってくれているのだろうか。

「何してるんですか、こんな所でタバコ吸って…鬼の副長がサボりですか?」
「総悟の奴と一緒にすんじゃねぇよ、…最近この辺で攘夷志士を見たとの噂があってな」
「副長が直々に巡回ですか?」
「まぁそんなとこだ」
色々とあるんだろう、土方さんは少し言いにくそうにしていたので私もそれ以上は聞かなかった。

「秋ですね」
「あ?…あぁ、まぁそーだな」
いきなり話題を変えた私に土方さんは一瞬眉を潜めた。
「総悟が世話になってるそうだな」
「はい、すごく世話してます」
「支障があるなら俺から言っとくぞ」
「あ、いえ、仲良くしてもらってるのはコッチですから全然いいんです」
「ならいいが」

土方さんはいつもイジられてるかツッコんでるかのイメージだったけど、普通に会話していると至って普通の人だ。
顔以外は。

「あ、今から屯所の方にお邪魔しようと思ってたんです」
「この時間総悟なら巡回と言う名のサボりに出払ってるぞ」
「総悟じゃなくて近藤さんに…」
「近藤さん?」
「この前ご馳走になったのでお礼に伺おうかと」
「あぁ、近藤さんなら急用が入ってなけりゃ居るだろうよ」
「そうですか、ありがとうございます」
土方さんと話してると私までちゃんとした人になっているような気がする。
緊張しているのもあるけど妙にかしこまってしまってる自分がいる。


「送るぞ」
「いえ!大丈夫です!お仕事の邪魔しちゃ悪いですし!」
「ちょうど俺も戻るとこだったんだ、ついでだ」
ついでですか。私はついでですか。
少し不服そうにする私を見て土方さんがクスリと笑うのが分かった。

こーやって何人もの女を落として来たんだな!と身構えてみたものの、私なんかが土方さんの許容範囲に入ってないことくらい態度を見ていたらよく分かる。

「しかし今日は近藤さんに用とは珍しいな」
「お礼し損ねてしまって、それで今日はお礼の品を持って来たんです!」
「わざわざ?」
「はい、おはぎですよしかも手作り」
「お前、料理出来るのか…?」
「し、失礼な!何ですかその不安そうな顔!?出来ますよ料理くらい!おはぎなんて簡単な方ですよ!」
「意外だな」
「土方さん、出来なさそうって見た目で判断したんじゃないですか?」
「した」
「ヒド!」

屯所を目指しながら二人して歩いていると、女性二人組がこちらを見てヒソヒソと言っているのが目に付いた。
視線は完全に土方さんをロックオンしていた。
確かにこんな人が歩いていたら私も二度見しちゃうだろうなぁ。
そして隣にこんなパッとしない女が並んでたんじゃ、なんだあんなのが彼女かよって思うだろうな、自分で言うのも虚しいけど。

「土方さんて実際モテますか?」
「はぁ?!」
隣に居た土方さんは私の方をすごい勢いで見ては、鬼のような形相で睨んできた。
「どーゆー質問だよそれ」
「いや、普通に気になっただけですごめんなさい」
この顔で睨まれたり目が合ったり見られたりすると、いたたまれなくなるのは私だけだろうか。
未だに土方さんの顔はまともに見れないでいる。

「別にモテた試しはねーよ」
「うそつけ!」
「なんでオメーに分かるんだよ!」
すかさずツッコミを入れた私にさらにツッコミ返しをしてくる土方さん。

土方さん、あなたは自分がどれだけモテてるのか気付いていないタイプの人間なんですよ。
少なくとも私の元居た世界ではあなたはかなりモテてますよ!もちろんこの世界でもモテキャラですよ気付けよ天然イケメン!

「さっきから女性の視線が痛いんです」
「どいつだよ」
「いや、睨まれてるとかじゃなくて!土方さん一般市民にガン飛ばすのやめて!」
「違うのかよ」
「土方さんの隣を歩くのがこんなに苦痛だとは思いませんでした…」
「おま、苦痛って…」
「土方さんのお相手はきっと絶世の美女じゃないと世間が許してくれませんよ、だからお嫁さん探しは慎重にしてくださいね」
「どんな心配してんだよ」
「総悟と歩くときはこんなの気にしたことないのになぁ」

事実、総悟と一緒に歩くときは周りの目なんて気にしたことはない。
総悟もいい男部類だけど意識したことはなかったし、何より歳が離れているので周りからそう見られることもないだろうと思っていた。

「そう言えばお前と総悟、そーゆーのじゃないらしいな」
「今更その話ですか!」
土方さんまでその話!しかも遅!
「俺は最近聞いたんだよ」
「はぁ…土方さんもそう思ってたんですか?」
「いや、俺はないと思った」
「えー本当ですかぁ?」
疑ったように意地の悪い返しをしてやる。

「少なくとも総悟はねぇと思ってたな、見てて分かる」
「ちゃんと見てるんですね、総悟のこと」
「ばっ!見てねーよっ!全然見てねーよっ!何言ってんだお前叩っ斬るぞ!?」
「女子に向かって斬るとか言わない!全く…素直じゃないんだから」
「うっせーよ!」

土方さんのイケメンがだんだんと崩れてきたので私はケラケラ笑いながら歩みを進めた。
こんな土方さん初めて見たなぁと隣を見てやれば、ブツブツ言いながら不貞腐れているイケメンがいた。
さらにニタニタした私を今度は土方さんが見て、いつまで笑ってんだって怒られた。





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