ついに願いが叶ってしまった。








秘密は誰にだってある








死ぬなら今死んでしまいたい。
この一番幸せな時に。

「お前さー、生理なら生理って言えよ」
「そ、それもあるけど!それだけが原因で嫌がったんじゃないの!いきなりは本当にイヤだったの!しかもこんな真昼間に!」
「あーハイハイ」
私の部屋でゴロンと横になっておはぎをむちゃむちゃと頬張りながらすごく寛いでいる銀さんは、まるで日曜日にぐーたらするお父さんのようだ。
てゆーか寝るか食べるかどっちかにしなさい。
さっきまで布団敷けだのヤラせろ的なこと言って迫ってきたくせになんだ今のこの脱力具合は。

「あの、なんでそんな寛いでんの?」
「んだよ、寛いじゃいけねぇのかよ」
「え…いや、ダメじゃないけど…うちテレビもなんもないからつまんないし」
「風呂もねーしなぁ」
立っている私を下から舐めるように見てくる銀さんは本当にオッサンくさい。もはやセクハラするオッサンだ。

「な、なに…」
「見ただけでそんな怯えんなよ」
「べつに怯えてない、し…」
「お前、生理何日目?」
「はぁ?!」
また突拍子もないこと言い出したよ銀さんは!と思った私はきっとすごいしかめっ面をしていただろう。

「四日目とかなら少ないんじゃねーの?」
「はぁ?!」
「それならできるだろ」
「しねーよ!!」
銀さん、今までの感じはどこに行ったの?あの微妙に距離のある大人な銀さんはどこに行ったの?別人なの?私の好きになった人って本当にこの人だっけ?
今が一番幸せとか思っちゃったけど取り消す!思ったより事態は深刻でした!この先銀さんと付き合って行くことが心配になってきました!

「銀さんってそんなことしか頭にないわけ?!」
「バカヤロー!男はそーゆー生き物なんだよ!」
「偉そうに言うな!腹立つ!」
「あーもう埒あかねーな…よし!俺んち行くぞ!」
「行ってどーすんの」
「風呂で色々洗ってやるよ」
「もう嫌!こんなギラギラしてるの銀さんじゃない!私が好きになった銀さんじゃない!」
「残念ながら銀さんはこんな感じです」
「私の見る目なかった!」
「ちょ、それはさすがに傷つくんですけど!」


結局その後、おはぎを食べ尽くした銀さんと共に万事屋に向うことになった。
もちろん神楽ちゃんと新八くんが居たので銀さんの思惑通りにはならず、私は安心して早めのお風呂をいただいた。

仲直りしたんですね!と喜ぶ新八くんは早速スーパーに夕飯の買い出しに出掛けていき、神楽ちゃんは定春の散歩に出掛けると言い出した。
私は焦って神楽ちゃんについていこうとしたけど、無駄に気を使った神楽ちゃんは私を置いてさっさと定春と出て行ってしまった。
…ここに来て最悪の状況。


「だからそんな怯えんなって」
「銀さんが狼にしか見えない…」
「いや、さすがにガキ共いつ帰ってくるか分かんねーのにしねぇよってどんだけ信用されてねーの俺!」
「だって私の家ですごいマジだった…」
「あれはだなー、ほら、お前がさーなんつーかマヨ方くんと一緒に仲睦まじく歩いてるからだなー」
「仲睦まじくって…」
「お前いつもマヨ四郎くんには懐いてなかっただろ」
「まぁ、土方さんちょっと恐いオーラ出てたし…」
何よりイケメンすぎて近寄れなかった、と言う方のが正しいのかもしれないけど言わないでおこう。

「俺の知らねぇ間にまさかの事態が起きたんじゃねーかと思ったわけでだな」
「まさかの事態って?」
「マヨネーズの国に拉致られたんかと思ったんだよ俺は!」
なんかすごく分かりにくいけど、要するに銀さんは土方さんといつの間にか仲良くなってたからちょっと焦ったってことでいいんだろうか。

「確かに前よりは仲良くなったけどね」
「やっぱりな!マヨネーズしか食わねぇ男におはぎなんかあげちゃってさ!コッチにゃ全く顔出さねーくせに向こうでヨロシクやっちゃってた訳だねキミは!」
「別に土方さんにあげた訳じゃないから、あれ近藤さんに差し入れしたものだからね」
「マヨ王国じゃなくてジャングルに拉致られたのかよ!ジャングルの王者に拉致られちまったのかよ!」
だんだん銀さんがウザイキャラになってきたので私も意地悪するのはやめよう。

「拉致られてないからね、私を拉致ったのは銀さんだけだからね」
「……な、なに言っちゃってんのこの子は!な、なにうまいこと言っちゃってんのこの子!そんなんでこの俺が喜ぶとでも思ってんの!?」
「めんどくさ!」
優しくしてやるとこれだよ銀さんは。

「ゴリラといい、マヨネーズといい、ドエスの王子といい…誰かに取られる前に早く身も心も俺のもんにしとかねーとなぁって心はもうとっくに銀さんのもんだったな」
しつこさと最後の方の話しに若干イラッとしてしまう。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、距離を縮めて来る銀さん。
ソファが片方に二人分の体重を掛けられてギシリと鈍い音を立てた。

「ちょっと…銀さ…」
腕に抱かれてただ焦る。本日二度目の銀さんの匂いだ。
新八くんも神楽ちゃんもいつ帰ってくるか分からないのにこれはマズイと思いさらに焦りが増した。

「ひっ…」
予告なしに首筋を舐められて体中が粟立った。
「これ以上はなんもしねぇから」
そんな言葉を耳元で言われてしまえば私は黙るしかない。抵抗も出来ない。
静寂の中に私の心臓だけがただひたすら鳴っていた。

「か、神楽ちゃんや新八くんたちにはなんて言うの…?」
ムードも色気もない私はこの沈黙に耐えられなくなり、たどたどしくなりつつも銀さんに気になっていたことを問う。
「まぁ、普通に言えばいいんじゃねーの」
「普通って…」
「俺たちズッコンバッコンする仲です、って」
「してねーわ!なんなのその卑猥な表現!最低!」
「これからするんだろーが」
「しねーわ!」
「ばっ!するだろ!?」
「なんでそんな話しか出来ないの?!」
「自分の女相手に何もしねー方が失礼だろ!」

自分の女?!自分の女って言った?!銀さんの女って私?!
改めて言葉にされるととても気恥ずかしい。
赤面しているのが自分でもよく分かる、顔がすごく熱い。
私が銀さんの女…いわゆる、世間で言う、彼女ってやつ…

「うわぁぁぁぁぁ!!」
「な、なんだよどーした!?」
「有り得ない銀さんに女とか有り得ないそんなの全国のファンが許さない…!」
「は?なに、俺のファン?どーしたお前ついにおかしくなったか?」
「ごめんなさいファンの皆さんごめんなさいぃぃぃ!」
「おい、俺のことアイドル扱いしてくれんのは嬉しいけどそろそろ返って来い、マジで心配になるから」
天井を見上げて青い顔をしている私をユサユサと揺する。
変なことを言い出した私を銀さんはかなり心配しているようだ。

でもね銀さん、あなたは私の世界で人気投票いつも一番の人なんです!少年ジャンプなのに主に女性に大人気なんです!天然パーマとか関係なしにモテてるんです!とにかく人気なんです!ファンも沢山いるんです!

そんな人と私は…
「あぁぁ!怖い!怖いぃぃ!!」
「おぃぃぃ!お前のが怖いんですけど!?ちょ、戻って来て!名前ちゃん戻っておいで!お願いだから!」
「ただいま帰りましたー」
「ただいまアルー!名前!今日は鍋アルヨー!キャッホー!」
玄関から新八くんと神楽ちゃんの賑やかな声が聞こえるとすぐに居間のドアがスパーン!とあいた。

「は、早かったね!」
素早く銀さんと距離を取っては自然に見えるように、私は神楽ちゃんの方に振り返った。
「銀ちゃんが名前を襲わないように超特急で散歩終わらせて来たネ!」
ブイっとピースサインをこちらにしてみせた神楽ちゃん。
それに続いて後ろから定春がワオン!と元気よく鳴いた。
やっぱり賑やかなのっていいなぁ。

「んじゃ俺は風呂入ってくるわー」
どっこらしょ、とソファから立ち上がると銀さんはさっさと部屋から出ていってしまった。
「んじゃ鍋の準備しちゃいますね」
新八くんもスーパーの袋を両手に台所に向かう。
「鍋楽しみアルな!」
「うん、そーだね」

さて、これからみんなに銀さんとのことをどう説明しようか。







-end-







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これで青の世界の連載は終了となります。
読んでいただいてありがとうございました。

この後も続きますのでお付き合いいただけると嬉しいです。

そして銀さんお誕生日おめでとう!


2013.10.10
西島

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