「よう、今日もやっすい時給で馬車馬のように働いてるねィ」




友達は量より質





「あ、総悟いらっしゃい」
レジにある肉まんが販売時間を過ぎて廃棄のために袋に入れて、ちゃっかり持ち帰ろうラッキー!なんて思ってた時に現れたのは真選組の一番隊隊長の沖田総悟。
私は半年間この世界での生活の間に真選組とも交流を持つようになった。と言っても万事屋の三人と行動を共にしていると、半年もあれば必ず真選組とは顔を合わせる訳で。
必然的に顔見知りになっていたのだ。

「また巡回サボって、土方さんに怒られるよ」
肉まんを詰め込みながら今日はこれ持って万事屋行ってお風呂借りよう!なんて心内喜びながらも総悟に向かっていつものように言葉を投げる。

お互いを名前を呼び始めるのにそう時間はかからなかった私たち。
なんとなく総悟とは気が合った。
初めて顔を合わせた時に銀さんの隣を歩いていた私を見るなり「お、万事屋の旦那もついに嫁さん貰ったんですかィ」なんて私を上から下まで舐め回すように見る目つきは本当にドエス星の王子の仕草で、私も負けじと同じように総悟を舐め回すようにしてジト目で見てやったらおもいっきり鼻で笑われてしまった。
それが総悟との初対面の思い出。

それから総悟は私の歳を聞くなり「んだよ、結構いってんなァ」とか「万事屋と付き合ってないならうちのゴリラと結婚してやってくれ」とかやたら絡んでくるようになった。
銀さんいわく、お前のこと気に入ったんじゃねーの、だそうだ。もちろん標的としての意味だろう。
こうしてたまにコンビニにサボりついでに遊びに来るようにもなり、その度に私をイジっては笑って帰っていく。

因みに土方さんとも何度か顔を合わせた事はあるが、イケメンすぎてまともに顔を見れなかった初対面の出来事が恥ずかしくて未だにちゃんと口を聞いたことがない。
多分土方さんとは一番年齢が近いはず。だけどあのイケメンっぷりとあの声とあの凄まじいオーラに私はなかなか近寄れないでいる。
しかも土方さんの目の前で総悟が「名前、お前マヨネーズまみれの油ぎった味覚のねェ犬ヤローが好みなのかよ気持ちワリィなまじ死ね土方ァ」とか言うもんだから余計に赤面してしまい、変な誤解をされたままだ。
そんなちょっとした悩みを日々抱きつつ、このドエスが元凶なんだよなぁ…とじっとりとした目で総悟を見てやれば「なんでィ」と鼻にかかった爽やかな一声が返ってくる。

「そーだ、お前今日給料日だろ、なんか奢れよ」
思いついたかのようにニヤリと笑った総悟は私の給料日を何故か把握している。どーせ国家権力とかで店長に聞いたんだろう。
「い、や、だ!」
「たまには奢れ」
「貧乏にたからないでくれます?チンピラ公務員さん私結構生活ギリギリなんですけど」
「年上は年下に奢るのが世の中の道理ってもんでさァ」
このままでは本当に奢らせ兼ねないと嫌な予感がしたので私はこの後万事屋に行くことを告げた。

「なんでェ、やっぱ旦那とデキてるんじゃねぇか」
「いや、デキてないから!なんでそこでそうなるの?!神楽ちゃんとかも居るからね!?」
「旦那もまだ手ェ出してねぇのかァ」
「だ!か!ら!そういうのじゃないから!」
本当に銀さんとは何もない。
好きだけど。銀さんのことはとても好きだけど。
それは憧れに近い。そばに居てくれるのはとても嬉しいしそれと同時にドキドキする毎日だ。
万事屋に行くのも日々楽しみだけど。
でも恋愛どうとかじゃなくて、お兄ちゃんのようなお父さんのようなお母さんなような、たまに弟のような。そんな銀さんがとても好きだ。

この半年の間、私をずっと気にかけてくれた。
別世界から来た話は今はもう話題には出ないけれど、当初意味不明であろう私の話を聞いて何も追求することなく「まぁお前も色々大変だったんだなぁ」と優しく頭を撫でてくれた。
それだけで救われた。
知り合いも身寄りも居ない、戸籍も存在しない私に銀さんはいつの夜かお酒を飲みに連れて行ってくれこう言った。

「まぁ、アレだ、俺らが居るから…な?」
そう言った銀さんは少し照れたような、それでいて優しく微笑むような、眉尻を下げてニヘラっと笑いかけてくれた。
「ありがとう、銀さん」
私は泣きそうになったのを悟られないように笑顔で銀さんにお礼を言った。
どうやら私の不安を見抜いていたようだ。
そんな銀さんは本当に憧れる存在であり、恋愛とかそう言った甘いだけの気持ちにはなれなかった。


「んだよ、ならまたたかりに来てやるからそん時奢れよ」
「はいはい、余裕があったらね」
「その言葉忘れんなよ」
「さっさと仕事に戻りなさい!ほら、肉まんあげるから!」
「母ちゃんかお前は」
そう言って珍しくツッコミを入れる総悟に廃棄の肉まんをひとつ渡し無理矢理仕事に戻すと、今度は私が仕事から上がる時間になっていた。



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