「忘れるくらいすげぇ盛り上がったってことだろ?」




愛を知れ




そんな話では済まない。
避妊しないなんて大人として最低の行為です!それを軽く忘れてた、だと?銀さんがまさかそこまでマダオだったとは思わなかった。
今までとは比べ物にならないくらいガッカリだ。
ソファで事に及んでしまった後、避妊し忘れ事件が勃発。
もちろんその後の部屋での二回戦は無し。現在それについて審議中である。

「わざとじゃないんだっつーの!そんな無責任なこと俺がするとでも?!」
「実際にしたでしょ!さっき!」
「だからそれはわざとじゃねーって!」
「銀さんこういうの初めてじゃないでしょ?!普通に避妊しなくてもやっちゃうタイプでしょ?!」
「しねーよ!なんでそうなるんだよ!」
「忘れるなんてまず有り得ないから!」
「お前も忘れてただろうが!共犯じゃねーか!」
「共犯って言うな!」

さっきからこの感じが銀さんの寝室にて続いている。
銀さんはイライラしたままスクっと立ち上がったので私は一瞬身構えてしまった。
そんな私を無視して着流しの上に薄目の上着を羽織って部屋を出ていこうとする。

「どこ行くの?」
少し不安になる。避妊し忘れたのはお互いの責任だ。銀さんばかりが悪いわけではない。
でも今まで私の人生で避妊しなかったことなんてなくて、そんな無責任なことをしてしまった自分が嫌でどうしていいか分からないでいる。

「ゴム買いに行ってくる」
「はぁぁ!?」
私の反省の気持ちを返せ!結局この後のことしか考えてないのかアンタは!
「そしたら二回戦オッケーだろ?」
「違う!なんか違う!」
これからの話じゃない。
もしもの話だけど、もしもこの一回で銀さんとの子供を授かったら。銀さんはどうするんだろう。

結構、いや、かなり重要な問題だ。
それなのに銀さんは次のことを考えている。結局傷付くのは女の方なんだ。
今までの人生で私はそう学んできたことの方が多かった。
銀さんもそうなの?と疑問に思ってしまう。

「銀さん…この無責任な行為で、もし子供ができたら…どうするの」
言ってしまってからハッとした。
面倒くさい女だと確実に思われただろう。
初めての夜にこんな重い話をされては男はゲンナリするに決まってる。
「え…」
驚いているのか、引いているのか、それとも呆れているのか。
んな簡単に出来るわけねーだろ、とでも言われるのか。
結構な沈黙が続いた後に銀さんは意外な言葉を言った。

「まあ、いいんじゃねぇの」
とんでもなく軽い返事にこちらが言葉を失ってしまった。
「な、に…それ…」
聞き取り方によってはどっちでもいい、と聞こえてしまう言い方に私は平常心ではいられなくなりそうだった。
「俺とお前とガキ、んで新八に神楽に定春」
何を言い出したのか、指折り数えている銀さんの意図が分からずに私はただ座ったまま銀さんを見上げることしか出来ないでいた。

「んでババァにロボットと妖怪一匹だろ」
ポカンとしている私に構わず言葉を続ける銀さん。
「ぜってー神楽のやつ姉貴面すんぞ、んでババァも姑のよーに毎日ガキの顔見にくんぞ」
最後にふわりと笑いかけてくれた銀さんを見て、私はようやく意味が理解出来た。

「言っただろ、なんも心配することねーって」
その言葉が全てだった。
他に言葉なんていらなかった。
その言葉だけ信じていれば良かったんだ。いつも私が突っ走って誤解することが多かった。
だけどいつも銀さんはお見通しだった。

「家賃払えない父親なんて子供が可哀想です…」
照れ隠しに悪態をついてみた。
「払ってるっつーの!ここ最近ちゃんと払ってますぅー」
唇を尖らせてイジけるフリをする銀さんが可愛く見えて、私もいよいよ末期かななんて思っていると、立っていた銀さんはこちらに寄って来て私の目の前にあぐらをかいて座り込んだ。

「つーかさ、それってこれから中出しオッケーってこと?」
その一言で私の鉄拳が飛んだのは言うまでもない。



「銀ちゃん派手にヤラれたアルなー!」
次の日の朝一番に帰ってきた神楽ちゃんが銀さんの腫れ上がった左頬を見てゲラゲラと笑う。
その隣で新八くんは苦笑いをしていた。
「ヤラれてねーよ、ヤったんだよ」
「黙れェェ!」
神楽ちゃん相手に何てことを言ってるんだ銀さんは!
一方新八くんは赤面しながら横を向いてしまっている。
どうやら新八くんは無駄に勘がいいようで昨夜のあったことに薄々気付いているようだ。

「見栄張るなよ銀ちゃん、せっかく名前にお泊りしてもらったのにこのザマかよ、股にぶら下がってる息子もマダオで役立たずとか終わってるアル」
「神楽ちゃんも下品なこと言わないの!」
銀さんの教育の結果がこれですよ。
神楽ちゃんまでこんな言葉覚えちゃってどうするつもりなの銀さん。

「ハ!なんも分かってねぇな、これだからガキは困るんだよ!昨夜は俺の超大型アームストロング砲が爆発しすぎたからちょっと名前に無理させちまってだな…」
「張り合うな!」
いい加減ツッコミ疲れたよ。
新八くんに助けを求めてもソッチの話はあまり得意ではないのか、生々しいから照れているだけなのか彼は話になかなか参加してこないでいる。

「駄菓子屋に売ってる子供だましのちゃっちいモデルガン風情が!どうせビービー弾が不発に終わって名前にブン殴られたのがオチネ!」
「銀さん神楽ちゃんに一体どういう教育してるの?!!」
「俺かよ?!」
その日は一日こんな感じの話が繰り返されて、余韻も何もあったもんじゃなかった。
二人がギャーギャーやってる隣で溜め息をついていると、新八くんがようやく話かけてきてくれた。
「名前さん…」
「ん?」
「必要とあらばいつでも神楽ちゃんはうちに泊めますので…言ってくださいね…!」

「…銀さん……新八くんに一体どーゆー教育したの?!!」
「また俺かよ?!!」




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