もちろん、親友には一番に報告してあります。




愛ゆえに




「で、どうなんでェ万事屋の旦那とは」
久しぶりのファミレスでのやりとり。
総悟と会うのは二週間ぶりだった。
仕事で色々あったとかで、なかなか会えずにいた。

前回会った時に銀さんと恋人関係に発展したことを告げると、ふぅんと一言言われてそれ以上は何も聞かれなかった。
不満そうでもなければ喜んでくれる訳でもない、まさに微妙な反応。
まぁこんなもんか、と思った私はそれ以上何を言うこともなくその場はおさまっていった。

「え、なに、急に」
ドリンクバーのコーヒーを飲んでいるといきなりの質問に驚いた。
前回の興味のなさっぷりにそんな質問が飛んでくるとは思いもしなかったのだ。
「ヤッたのか?」
「ブっ…!」
「汚ねェな」
コーヒーを吹いてしまうのも仕方ない、だって女子に向かってストレートすぎるだろ!

「そーゆー質問しないでよ!」
「ヤッたんだな」
無表情の総悟の真意が読めない。
ショックを受けているようにも見えなければ良かったな、なんて雰囲気もない。
「ゴリラの嫁の件はこれで無しかァ」
チッと舌打ちをして窓の方を向いてしまった総悟は少し不機嫌そうだった。
確かに近藤さんとの件は考えておくと言った。
しかしその後すぐこんなことになるなんて誰が予想出来ただろうか。

「あ…ごめん…」
なんとなくこの空気に居ても立っても居られず、総悟に向かって謝ってみる。
「それは誰への謝罪だよ」
「え…」
「近藤さんへの謝罪か、それとも」
そこで総悟の言葉は止まった。
私はもちろん期待を含ませた言い方をしておいてすぐにこんなことになって申し訳ない、と言う意味合いで言ったつもりだった。

総悟は多分、もう今まで通りに会えないとか、一応世間から見たら男女の私たちだからこれから二人で会うのはよそうとか、そういったことを私に言われるんじゃないかと思っているのではないか。
だから私が謝罪したことに対してこんなに敏感に反応するのではないか。

きっと私と同じだ。
銀さんへの想いが、今まで築いてきたものを全て変えてしまうんじゃないかと言う不安。
なんの確信も得られないこの世の中で、壊してしまいたくない関係をどう続けていけるか。
そんなことを考えて日々臆病になっていく私たち。
総悟と私は似ている。

「銀さんがね…」
私も総悟と同じように窓に視線をやった。
ファミレスの窓から見える景色。
十月も半ばだって言うのに昼間はまだ暑いくらいで、半袖でも過ごせてしまう日差しのキツさに通りを歩く人はしかめっ面でやたらと足早だった。
そんな待ちゆく人たちを私と総悟は眺めながら言葉を紡ぐ。

「銀さんが、何も変わらないって、そう言ったの」
「万事屋と俺は別だろ」
「そうなんだけど、私も何も変えるつもりもないし変わるつもりもないよ」
「男ができたら女は変わんだよ色々となァ」
溜め息混じりにそう言って総悟は遠くの方を見つめていた。

「だったら近藤さんとそうなっても一緒のこと言った?」
「近藤さんはお前を繋ぎ止めておくための策にすぎねェ」
「すごい問題発言だねそれ…」
「なんだろうなァ、旦那が気に入らねェとかじゃねェんだけどなァ」
総悟はまだ気付いていない。私をミツバさんと重ねていることを。
きっと彼がもう少し歳を重ねて大人になったら気付く時がいつかくるのだろう。

銀さんは少し土方さんに似ている。
外見ではなく内なるものがどことなく似ている。
だからなのか総悟も思うとこがあるのだろう、なんとなく腑に落ちない、と言う気持ちが伝わってくる。
「まぁ、どっか行っちまったらとっ捕まえて飼い殺しの刑って約束だからなァ」
「そうなりたくないので約束は破りません」
一瞬想像して身震いしてしまった私を横目で見ていたのか、総悟はクスリと笑ったので笑い返してみた。


「おいおい、白昼堂々浮気とはいい度胸だな、名前」
低い声にドキっとしたのも束の間、隣にドカっと座ったのは紛れもない私の想い人であり恋人でもある坂田銀時。

「よう、旦那ァ久しぶりですねィ」
「よう、じゃねーよ!うちの名前ちゃん掴まえて昼間っから堂々となにいい感じになってんの?!マジやめてくれませんかね?!」
「あー、バレてやしたかァ」
「バレるわ!外から丸見えだったし!仲良さそうに話してたと思ったら急に恋人っぽい空気漂わせちゃって銀さんマジで驚いて入ってきちゃったよ!」
「どこから見てたの銀さん…」
「たまたまだよ!通りかかったらお前らが見えたのぉ!別につけてた訳じゃないからね!?そんなどっかのお偉いさんのクセに毎日ストーカーしてるようなゴリラさんとは一緒にしないで!」
「つけてたんだね…」
「だからつけてねーっつーの!てか名前ちゃん浮気に関して否定全くしてくれないけどどういうことぉ!?」

うまいこと話を逸らした銀さんは何故かメニュー表を見ながら私を責め立てる。
「え、なんか頼むの?」
「お前らの奢りでこの胸糞の悪さを甘いものでスッキリさせてやるんだよ!なんか文句あっか!?」
「単に食べてェだけだろィ」
「うるせー!!」
銀さんは私たちのことを今だに疑っている。

何度か説明して納得したかと思っていても、私たちが会えばまた疑って、の繰り返しだ。
銀さんはもう少し余裕のある人だと思っていた。
人のことに口を出しても深いところまでは出さない。
部をわきまえていると言うか、どこまでが大丈夫なのかいつもその線引きを探っているような人だと私は思っていた。

でも本当の銀さんはどうだろうか。
思ったより嫉妬深かったり、気にしてるくせに気にしてないフリをしたり、興味ないような素振りをしたと思ったら急に干渉してきたりする。
今までの私の知っている銀さんは嫌味なほど大人で、いつも言いくるめられてしまう程の余裕の返しをしてくる人だった。

今隣にいる男はもう坂田銀時と言うか、ただの男。
私の大切な人。
少し面倒だけど大好きな人。




top
ALICE+