あんまり揃って欲しくない二人が揃ってしまった。




友達は大切、でも面倒臭い





「旦那ァ、ついに手ェ出したそうじゃねェですか」
午後の昼下がり。
ファミレスにて総悟と久々とご飯を食べた後、まったりとしていた時に銀さんは現れた。
この二人が揃ってしまったと言うことは、あまりいい予感がしないのはきっと誰でも分かるだろう。

「ちょ、名前ちゃん、総一郎君にそんなことまで話してんの?!」
「ち、違うよ!言ってない言ってない!総悟が勝手にそう解釈しただけ!私は断じて言ってないから!」
「すいやせんねェ、コイツのことはお見通しなんで」
「なんなの、総一郎君って名前のこと好きなの?」
「銀さん!」
また銀さんは余計なことを言い出した。

「残念、それが逆なんでさァ旦那」
「は?逆?」
「俺、コイツにこの前熱い抱擁された挙げ句、プロポーズされたんで」
「プ!プロ、プロポーズぅぅ!?」
総悟まで余計なことを言い出した。
ニヤニヤしながら言い出した様子を見ると総悟は完全に私たちを揉めさせようとしているようだ。

「あれはプロポーズじゃないって言ったよね!?」
「誰がどう聞いてもありゃプロポーズだろィ」
「つーか抱擁って!?何がどうなってどうなったらそうなるの?!なんて言ったんだよ!なんてプロポーズしたんだよ!?」
「家族にならないかって言われやしたぜ」
「ちが!家族になりたいなって言ったの!」
「どっちも一緒じゃねぇかァァァ!つーかマジで普通にプロポーズしてんじゃねーかよ!お前ら一体なんなの?!」
「何って、抱き合うような仲でさァ」
「そ、総悟!」

否定は出来ない、確かに抱き合うような仲ではある訳で。
ただそう言った仲では断じてない。
それは銀さんにも言ってきたことではある。本人は信じてないみたいだけど。

「俺さぁ、前から言おうと思ってたんだけど色々と隙が多いと言うか、お前いろんな奴にいい顔しすぎなんだよなー」
「いい顔って…」
なにそれ、まるで私が周りに媚びてるみたいな言い方。
「いやいや旦那ァ、コイツは天然でコレなんでさァ、だから余計にタチが悪ィ」
「そうなんだよ天然なんだよ!コイツってクラスの奴ら誰かれ構わず平気で話し掛けたりして男子共が勘違いしちゃってうっかりモテちゃうような女なんだよ!」
「銀さんなんの話してるの…」
「間違いねェ、そのくせ本人はそんなつもりないですみたいな純粋な顔して男を散々翻弄した挙げ句、本命はちゃっかりゲットしてました、みたいなケツ軽女なんでさァ、旦那もコイツ相手じゃこの先苦労しますぜィ」
「さり気なく人の女をケツ軽って言うのやめてくんない?」

ダメだ、この二人を会わせちゃダメだった。会話が無駄に弾んでいる。
そしてこのドエスコンビに挟まれたらもう絶対かなわない。勝てる気がしない。
私が項垂れていると店員さんがタイミング良くやってきて、銀さんがいつの間にかちゃっかり頼んでいたこれまた美味しそうなチョコレートパフェが運ばれてきた。

「銀さんそれひとくちちょうだい」
「旦那ァ俺も」
私と総悟が美味しそうにデコレーションされたパフェをじっと見ては早速おねだりする。
「んだよお前ら、揃ってガキかよ」
「パパ!そのアイスひとくちちょうだい」
「父上、俺は下に入ってるチョコレートムースくれ」
「誰がお父さんだよ!お前らみたいなガキまっぴらゴメンだよ!」
そんなことを言いながらも銀さんは私と総悟にひとくちずつパフェを分けてくれた。

「あ、ヤベェ、うるせェのが来た」
総悟が私と銀さんの後ろの方を見て嫌そうな顔をした。
どうやら私たちが背にしている店の入口から誰かが入って来たようだ。

「なぁにを仲良く甘いもんつつき合ってんだよ」
「あ…土方さんこんにちは」
そこに居たのはやっぱり土方さんだった。
総悟の表情を見ればだいたい予想がついたので土方さんに向かって振り返って会釈をする。
当の土方さんはチラリと私を見て、よう、とだけ軽く挨拶を返してくれた。

「総悟、おめーは何こんなとこで油売ってんだよ」
「土方さんこそ、なんでこんなとこ入って来てるんですかィ、アンタもどうせここで一服でもしようと企んでたんだろ」
「お前と一緒にすんじゃねぇよ!外から丸見えなんだよ!お前のサボってる姿が丸見えなんだよ!」
「土方さんごめんなさい!私が総悟を引き止めちゃって…」
総悟が午後から非番だって言ったのはやっぱり嘘だったか。
そう心の内で思いながらも、土方さんに穏便に済ませて貰おうと私は悪役を買って出た。

「…まぁ何か話があったなら仕方ねぇが……オラ行くぞ総悟」
そう言って土方さんは踵を返し店の出口に向かって行った。
「ほらなァ旦那、こういうとこですぜェこの女の恐いトコ、あの鬼の副長ですらもう手懐けちまってらァ」
総悟は仕方ないと言わんばかりにダルそうに腰を上げて、隊服の上着を肩に掛けて銀さんに向かってニヤニヤしている。
手懐けるだなんて人聞きの悪い。

土方さんは唯一真面目な話が出来る人だと思ってる。
今まではあの風貌ゆえに近寄り難くて疎遠にしてたけどそれも少しずつは慣れてきたし、話してみると土方さんはごく自然体の人で、初めはそのギャップに少し驚いてしまったくらいだ。
せっかく普通に話せるようになりつつあるのに、それを手懐けただなんて誤解を招きそうだ。

「んじゃ今日はうちの奢りってことにしといてやりまさァ」
そう言って総悟は伝票を持ってレジの方へ行ってしまった。
“うち”ってことは真選組の領収書で上げてもらうのだろう。
なんだか申し訳ない気もするけど片やラッキー!と思っているのも本音だった。


「なんだかなぁ」
銀さんはパフェを頬張りながら私をジト目で見ていた。
「な、なに、総悟の言うこと真に受けないでよ」
「真に受けるも何も、事実だろ」
ふいっと目を逸らされて、隣に居るだけになんだかとっても気まずい。

目線を泳がせて窓の方を見ると真選組のパトカーに乗り込む総悟が見え、目が合った。
総悟は目が合うなりニヤリとドス黒い笑顔で一瞬笑う。
あいつ、私と銀さんの間に波風立てようとしてる。そう確信した。

そして銀さんはまさに奴の罠にまんまとハマってしまいそうでいる。
このままではマズイ。また銀さんと前のように距離を置くのはゴメンだ。
しかも今度は前とは状況が違う。
今度距離が出来たらもうそれこそ元に戻れない気がした。

「ぎ、銀さんが嫌なら……私はもう誰とも口を聞かない」
「は?」
「銀さんがやめろって言うなら、総悟とももう会わない」
これは私の賭けだった。
これで銀さんは何と言うだろうか。いや、分かってる。
銀さんはそうしろ、なんて絶対言わない。私は分かってて言った。

「なにもそこまで言ってねーだろ」
「私は銀さんに嫌われるくらいなら他を切るよ」
いや、多分そんなことは出来ない。
総悟と関わらなくなるなんて、私にとっては銀さんと縁を切るのと同じくらい無理なことだと思う。

「うそつけ、んなこと出来ねーくせに」
「…バ、バレた?」
「おい、もうちょっと粘れよ」
ヘラヘラと笑う私に溜め息混じりに苦笑する銀さん。
何でもお見通しだなーなんて言って誤魔化したものの、先ほど言った言葉に自分自身が少し照れてしまった。

「本当にそこまでしたらドン引くよね」
「どうだろうな」
「え、引かないの?!そこまでされたら重いでしょ?!怖くない?!」
「言った本人が一番引いててどうすんだよ」
「だって…普通に考えて重すぎるでしょ…」
「ドエスにはたまんねーけどな」
「なるほどね……っ」
急に隣に座っていた銀さんの指がスルリと私の指の間を滑った。
銀さんの無骨な指が、手が、私の右手をふいに包んできたのでビクリと体が揺れてしまう。

「男には支配欲ってのがあるからなぁ…」
銀さんはスプーンを持っていた手に顎を乗せてテーブルに肘を付いた。
そして隣に座る私を覗くようにジッと見つめてくる。
テーブルの下で握られている私の右手は一気に熱を放ち出したに違いない。
いつまで経っても慣れない銀さんの体温、肌の質感、視線。
私はそれらにいつも翻弄されっぱなしだ。

時折、銀さんの親指で握られている手をスリスリされる。
そんな仕草にいちいち心臓が反応してしまう。
「ぎ、銀さ…」
きっと顔は真っ赤だろう。ただ手を握られているだけなのに。
それもあって私は銀さんの方を見れないでいた。

「なあ、帰ったらヤらせて」
「え…っ」
「今、その支配欲がスゲェんだよ」
「だ、だって神楽ちゃんとか、し、新八くんとかっ…」
「お前んち行くし」
「ダメです…壁薄い、し…」
「声出す気満々?」
「ちっ違います!」

キッと銀さんの方を見てやれば視線がかち合った。
銀さんの目は相変わらず強く深い黒をしていたけど、憂いと艶を帯びていて、まるで先日初めて夜を共にした時の熱い視線をしていた。

「ダメ?」
そんな顔で、そんな声のトーンで、この状況で断れる訳がない。
銀さんはいつものように分かってて聞いてきている。私が断れないのを知っている。
いつも銀さんのが一枚上手なのだ。
何も言えずに赤面し続ける私を見てさぞかし楽しんでいるのだろう。
クスクスと笑う銀さんの声が聞こえてきた。

「んじゃ決まり、な?」
握られていた手に力が入る。
ダイレクトに伝わる手の感触と熱の温度がこれからするとこを予想させる。
「今日はすっげぇヤラシイことやっちゃおーっと」
「な!何言ってんのバカ!!」



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