あら銀さん、よく会いますね。




どこからが浮気ってのは人それぞれ




銀さんが何故ここに?
そう聞く前になんとなく事情が分かってしまった。

「桂さんならさっき、土方さんとご対面しちゃって裏口から逃げてったよ」
多分、桂さんはここ、定食屋で銀さんと待ち合わせなりしていたんだろう。
じゃなきゃいくら偶然とは言えこんなにタイミング良く彼らが揃う訳がない気がした。

「うっわ、最悪のタイミングだな…ってお前ヅラのこと知ってたっけか?」
予感は的中。
何の集まりか知らないけど、やはり銀さんはここで桂さんと落ち合うことになっていたらしい。

そして銀さんには桂さんやエリザベスの話を聞いたことはない。
私からも話題に出したことはなかったので、私がどうして桂さんの存在を知っていて、何故今ここで落ち合うことを知っていたか彼は不可解に思ったのだろう。

「知ってるよ、いろいろと」
「いろいろってなんだよ」
「桂さんのこととか高杉さんのこととか辰馬さんのこととか…」
高杉さん、と口に出した瞬間に銀さんの目は見開いた。
まさかここまで知っているとは思いもよらなかっただろう。
私が異世界から来たと言うことは知っていても、銀さんの過去を知っているとは言っていない。
そこまでの説明も難しくて出来ないし、言うつもりもない。

「お前、まじで一体なんなの?」
「私にも分かんない」
そう、私にも分からない。ただでさえ今日は眠いのにそんな難しいこと考えたくない。
いや…実際は難しくはないんだけど。
私が別の世界からこの世界に来た、それだけのこと。
難しいのは何故この世界に来たか、それだけだ。

「もしかして昔から俺ら知り合いだったとか?いやいやそりゃねーよなぁ、お前別世界とかから来たって言ってたもんなぁ」
「超能力者で宇宙人って言っとけば納得してくれる?」
「えーと、天人ってことか?」
「まあ…そんなとこかな」
嘘を付いている気にはならなかった。
ここの人間ではないなら私は天人と呼ばれてもおかしくはないのだ。

「あー、まあいいや…話が逸れちまったな、で、お前はなんでここにいんの?」
ずいぶん軽く流してくれたもんだな、と思ったけど銀さんもそれ以上は聞く気はないらしい。
「土方さんにご飯誘われて…」
高杉さんの名前を出したときより険しい顔つきをされた。
土方さんの名前を出した途端、私もついヤバイ!と思った顔をしてしまったので更に気まずい。

「お前…懲りずにあのマヨ警官と二人で会ってんのか」
「たまたまだってば…」
「たまたまにしても明らかにこの店で飯食うつもりだっただろ」
「奢ってくれるって言うから…」
「お前は奢ってくれる奴に誰彼構わずホイホイ付いてくんかい!」
「総悟が普段迷惑かけてるだろってことで、それで…」
「それは単なる口実だろーが!気付けよ天然娘!!」
「土方さんがそんな下心丸出しでご飯に誘う訳ないでしょ!」
「分かってねーなお前は!もうちょっと自覚しろ!」
「自覚も何も土方さんにはそういうのは一切無いから!」
「お前に何が分かるんだよ!」
「分かんないけど!本人に聞けば?!絶対無いから!」
「聞かねーよ!んなもんいちいちあんな奴に聞かねーよ!」

ここが店内だったことに今更気付いた私。
銀さんは周りを全く気にしない様子でずいぶんと怒っていた。
この状況に今更とは言え、急に恥ずかしくなった私はそそくさと店を出た。
銀さんは後に着いて歩いて来てブツクサ何かを言っている。

「お前さー、浮気すんの早くねぇ?」
「こんなの浮気じゃないし…」
「おいおい、ヤローと二人で飯食ってんのってフツーに浮気だろ」
「じゃあ総悟とご飯食べても浮気になるの?」
「前みたいにいい感じになってたら浮気だろうなぁ、ましてや抱き合ってたなんて完全に浮気じゃねーかよ」
「いい感じになってないし!抱き合ったのは銀さんとそうなる前だし!」
「総一郎君も怪しいもんだわ」
「銀さんだって神楽ちゃんと一緒に住んでるし」
「アイツは女としての数には入ってねーよ」
「でも女の子でしょ」
「そういうのじゃねぇの」
「私と総悟もそうなの」

これでやっと納得してくれただろうか。
銀さんもこの流れでグウの音も出ないようだった。
神楽ちゃんと銀さんの関係がどんなものなのかは私には分からない。
でも総悟と私に似た関係だとは思っていた。

「…アイツの件は分かったわ、でV字頭の件はどう言い訳してくれるんだよ」
「だから土方さんは、友達…と言うか…知り合い…?総悟の上司だし、良くしてくれるし…」
「その言い訳はボツ、他になんかねぇのかよ」
「ないよ…だって本当に何もないっていうか、ご飯ご馳走して貰うだけだったし」
「あんま油断してんじゃねーぞ、アイツに限らず男は何考えてんのか分かったもんじゃねぇんだからな」
「…はい…ごめんなさい…」

なんとなくだけど銀さんの言いたいことが分かった。
多分、男に気軽について行くなってことだろう。それが例え顔見知りの土方さんであっても。
寧ろ銀さんに至っては土方さんだったから気に入らなかったのかもしれないけど。

「分かったなら良し、さてケーキでも買って帰るかー」
「え?今日パチンコ勝ったの?!」
「三千円だけね」
「日給三千円って…私より少ないってどういうこと…」
「今日は調子が悪かったんですぅーパチンコの女神が降りて来なかったんですぅー」
「真面目に働きなさい」
「仕事があったら俺はいつも真面目ですぅー」
「根本的な問題なわけね…」

すっかり日は堕ちて辺りは薄暗くなっていた。十月の風が肌を掠めていく。
街行く人たちもすっかり秋らしい服装になっていた。
こうやってずっと銀さんの隣を歩けたらいいのにな、と少しセンチメンタルになるのはこの季節のせいだろうか。

ずっとなんて贅沢はやめよう。
少しでも永く銀さんと一緒に居れたらいいや。そう思うことにした。
密かにそう心に決めて私は歩きながら銀さんの横顔を見つめた。

「んだよ」
「別にー」
「なー今日もお前んち行って」
「ダメ」
「早っ!断るの早!最後まで言ってねーし!」
「今日ほんとに眠くて倒れそうだったんだから!今日は早く帰って寝るの!新八くんと一緒に帰るから!」
「浮気してゴメンネ、やっぱり銀さんのが一番イイよって展開にはなんねーのね?」
「ならないです」
結局浮気したことになってるのか。
どうやら銀さんの中では男の人と二人でご飯は浮気に入るようだ。

「んじゃ銀さん、言わせて貰うけど」
「あ?」
「今度月詠さんのオッパイ触ったら浮気に入るから覚悟しといてね」
「え?!お前そんなことまで知ってんの?!なんで?!どっから見てたの?!お前神なの?!神様なの?!」
「そう、神なんです、だから浮気したらすぐバレるからね」
「こえー!マジこえー!!いろんな意味でこえー!」

帰り道、賑やかになりつつあるかぶき町をいつものように二人で歩く。
早くお風呂に入ってお布団に丸まって寝たいなぁ、と頭の隅で思いを馳せながら。

「でも二人でご飯行くくらいなら私は浮気とは見なさ無いから安心してね」
「なにそれ、遠まわしに俺の心が狭いみたいな言い方じゃね?」
「別にぃーそんなことないよー」
「絶対そうだろ!つーかな、俺だって別に男と二人で飯くらいどうってことねーよ!」
「さっきフツーに浮気だろって言ったくせに」
「ちょっと可愛いとこ見せてみただけですぅー銀さんのデレの部分を少し見せてみただけですぅー」
「デレツン?ツンデレじゃなくてデレツンなの?」
「最近はデレツンのが流行ってるんですぅー」

アハハ、と私が声を挙げて笑うと少し前を歩いていた銀さんが振り返ってふんわりと笑ってくれた。
続けて左手を私に差し出して来た。どうやら手を繋いでくれるようだ。
外でベタベタするような銀さんではないのに、まさかの行動に私は一瞬その手を取るべきか戸惑った。

「ホラホラ、俺のたまにしかねぇデレだぞー貴重だぞー」
そう言って銀さんは差し出してきた手をヒラヒラしている。
確かにこのシチュエーションはかなり貴重だ。
私はそう思ってすぐ銀さんの手に捕まった。
男の人の手。骨ばった固い手。暖かくて大きな手。
包み込まれる感覚に私の心臓は翻弄されっぱなし。

幸せだな、なんて思っていたのも束の間。
桂さんに続き、また厄介な人たちに出会ってしまうのだった。




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