ごめんねとるだけなら誰だって出来る訳で。




ご飯食べる前の来客にはイラッとする




銀さんの着物にしがみつく。
久しぶりに感じる銀さんの腕や胸の感触。
たくましい腕にスッポリと収まってしまえば半分は安心する、残りの半分は私がしでかしたことが原因の不安要素。
酔って朝帰り、しかも男所帯の真選組でだ。
ただでさえ真選組と絡むのは良く思われてないのに、私は銀さんにとって一番と言ってもいい程に嫌なことをしてしまっていたのだ。

「自覚持てって言っただろ…」
「うん…ごめんなさい…ほんとに、ごめんなさい…」
「何もされてねぇだろうな」
「される訳ないよ!」
「そう思ってるからこんなことになったんだろうが」
「…はい、すみませんでした…」
「俺は心配して言ってるんだからな?」
「うん…」

頷いてそのまま俯く私のおでこにキスをしてくれる。
なんだかんだで銀さんは優しい。
本人いわく、ドエスの骨頂としては冷たくした後にどれだけ甘やかしてやるかも楽しみのひとつらしい。
優しくされて喜ぶ相手をまた奈落の底へ突き落とす程に冷たくするのがさらに楽しいとかなんとか。
思い出したらちょっと背筋が冷たくなってしまった。

「銀さんに本気で嫌われたのかと思った…」
「コイツ信じらんねー、とは普通に思ったけどな」
「ご、ごめんなさ…」
「まあ俺もお前に甘いってことだよ…」
「俺も?」
「周りはみんなお前に甘いだろ」
「そう、なの?」
「自覚ねーのかよ!?総一郎くんしかり、ゴリラにマヨ野郎、ババァにたま、志村姉に弟…諸々に甘やかされてんぞお前は」
「そうなんだ…なんか嬉しい…」

それこそ無自覚だったけど、みんなが私みたいな得体のしれない女に優しくしてくれるのはとても嬉しい。
でも、それもこれも全ては…
「銀さんのおかげ、なんだよ?」
「俺はなんも…」
「ありがとね、銀さん」
銀さんのたくましい背中に精一杯腕を伸ばした。
それに応えてくれるようにキツく抱きしめ返してくれる。銀さんの匂いがふわりとして、気持ちがとても落ち着く。

「なぁ…このまま布団へ…」
「ダメ!!」
「え?!めっちゃいい雰囲気じゃなかったの今!」
「私お風呂入ってないから…入ってから、ね…?」
「マジか!」
目を輝かせた銀さんは部屋の戸をスパーンといい音を響かせ開け、布団の準備をし始めた。
「早く!早く風呂入ってこい!ガキ共帰って来る前にせめて一発!!」
「そういう言い方しないでよ!」
「いいから早く行ってこい!」
何がいい雰囲気だ。
鬼の形相をしては私に早く風呂に入って来いと急かす銀さんは布団の横にティッシュを置いてスタンバイしていた。
それを見てなんだか少しいたたまれない気分になってしまったのは言うまでもない。


案の定だけど、私がシャワーを浴びていると玄関の戸が開くのが分かった。
やっぱり新八くんたち気になって少し早めに帰ってきたんだなーっと思って私はお風呂から上がってすぐ居間に向かった。
お騒がせして申し訳なかったと謝らなくちゃ、と思っているとそこには予想だにしない人がソファでくつろいで居た。

「か、桂さん…!」
そこに居たのはこの前見かけてからと言うもの、なかなかお目にかかれなかった人だった。
ソファに座って銀さんと談笑していたようだったけど、私が来たことで桂さんはコチラに注目していた。

「これが銀時の奥方か、はじめまして」
長いキレイな黒髪をサラリと零して桂さんは深々と私に向かってお辞儀をしてくれる。
「は、はじめまして!苗字名前と申します!」
その美しい佇まいに私まで背筋が伸びる。
よりによってお風呂上がりにこの人に遭遇するなんて、と思いながら桂さんより深々と頭を下げて、本当は会うの二回目ですけどね、なんて言うことも忘れてかしこまっていた。

「銀時がいつも世話になっているようだな」
「テメーは俺の親父か」
「親父じゃない!カツラだ!」
「どーでもいいからとっとと帰れよ!」
談笑と言うのとはちょっと違ったみたいだ。
銀さんは急に訪問してきた桂さんをとにかく帰したがっている。
「人が訪問して来てやったと言うのに何だその態度は!」
「なんだよ何の用なんだよさっさと用件言って今すぐ帰りやがれ!」
「用など無い」
「はあ?!」
「訪問しに来ただけだ、悪いか?」
「帰れェェェ!!」

桂さんは遊びに来ただけと言うことなんだろう。
大人になると用件がない限り人の家なんて滅多にお邪魔しなくなる。
子供の時はすぐに友達の家に遊びに行ったものなのに。
その点この二人は見ていてなんだか子供時代を思い出させる空気感を持っていた。

「名前殿とはなかなか会えずにいたのでな、早く見たいと思っていたのだ」
「え?私のこと知ってたんですか?」
「銀時から話はちょくちょく聞いていたのでな」
「オイオイオイ!ヅラお前もういいからマジで帰れよ!」
「銀さんが私の話を?」
「ああ、気の合う女子が居ると聞いていた」
「ヅラくん帰ってくださいお願いします!」
銀さんが私のことをよそで話してるなんて少し嬉しい。いや、かなり嬉しい。

「なぁヅラ、分かるだろ?名前は風呂上がりだし、俺の部屋見えるだろ?布団敷いてあるだろ?俺たちはこれからしっぽりズッポリやろうと思ってたんだよ?それをお前が今まさに阻止してる状態なんだよ?分かるよな?お前も大人の男ならこの空気分かるよな?」
「名前殿は蕎麦は好きか?」
「まず話を聞けェェェ!!」
「好きです」
「お前も返事してんじゃねーよ!」
「美味い蕎麦屋を知っているのだが、今度連れてってやろう」
「ほんとですか!わーい!」
「なに人の女を目の前で堂々とナンパしてんの?!お前いい加減ブッ飛ばすぞ!?そして名前ちゃんも躊躇なしにオッケーとかどういうこと?!わーい!てどういうこと?!断りなさいよ!」
「お蕎麦好きだし…」
「そういう問題じゃねーだろ!いつから天然っ娘になっちゃったんだよお前は!」
「天然じゃない!カツラだ!」
「うっせー!お前に言ってねーんだよ!!」

桂さんと居るとなんだか自分までゆったりした人間になったような気分になる。マイペースと言うか、人に無理に合わせることはない、といった気分だ。
桂さんは今まで出会った人の中でも一番独特の空気感を持っていた。
この人がテロリスト一歩手前の人だなんて誰が思うだろうか。
穏やかで凛とした佇まい。中性的だけど男らしさある顔付き。
しなやかな身のこなしに無駄な動きがなく、傍から見ていればとても品のいい人に見える。
黙っていればなんとやら、と言うやつなのだろうか。

「ヅラ!マジで帰ってくれ!200円やるから!」
「200円ではこのご時世、かけ蕎麦は食べれん」
「んじゃ300円!」
「うむ、手を打とう」
手ぇ打っちゃうんだ。どうやら桂さんはお金か食べ物をせびりに来たようだ。金欠なのかな。

「名前さん、お騒がせしてしまったな」
「いえいえ、またいつでも来てくださいね」
「よせ!んなこと言うとマジで来るからコイツ!」
「銀時!貴様さっきから失礼だぞ!誘われなくとも来る!」
「来んなよ!!」
「では、アデュー!」
銀さんから300円を奪っていった桂さんはとても満足そうに万事屋を後にした。
台風みたいな人だな、と思いながらもどこか微笑ましい雰囲気の持ち主だった。

「桂さんって面白い人だね」
「頭おかしい人だね、の間違いだろ?人の財布目当てに訪問って悪徳商法もいいとこだろ、来て居座って金くれなきゃ帰らねーって立派な悪徳訪問販売だろ」
そんなこと言いながらも、銀さんは桂さんのことをたまに気にかけているのは知ってる。
アイツのことだから野たれ死んではいないだろうけど最近見ねえなぁ、とか言ってるのも知ってる。

二人はなんだかんだいって仲がいい。
サッパリとした付き合いだけどお互いを認めてるような関係。
かつては同じ志を持った仲間で、修羅場を何度も一緒にくぐり抜けてきた戦友でもある。
久しく会ってなくても顔を合わせればまたあの頃のように戻れる。
女にはない、男の人独特の交友関係だ。

「なんかいいよね、男同士って」
「どこが、あんなんウゼーだけだろ」
「女は久々に会ったら見栄の張り合いとかになるもん」
「どんな友達だよそれ」
「友達の結婚式とか行くと、久しぶりー!って笑顔で寄ってきて結婚は?私子供二人いるのーって勝手にどうでもいい話をし出すような女が絶対一人はいるんだよ!ほんとどうでもいいんだよお前の情報!しらねーよ!ってなるの」
「…お前も色々あるんだな」
「男の人はその分そういうのなさそうでいいなぁ」
「まあ、中にはそういうのもいるけどな、そんな奴は次会ってもシカトだ」
「なるほど」
「どうでもいい奴に自分の限られた人生の時間を無駄にしたくない派なのよ俺」
「銀さんらしいね」

なんだか人生相談みたいになってきてしまった。
銀さんの言うことはいちいち的を射ている。
勉強になるし、自分とはまた違った視点でモノを考えていてとても新鮮だ。
かと言って銀さんは自分の考えを押し付ける訳でもなく、軽い感じで話してくれるのが私は好きだ。

「なーなー、名前ちゃん」
「ん?」
「なんか俺らってすげぇいい感じじゃね?」
「いい感じって…?」
「なんつーか…すげぇ自然体ってか、普通ってか、空気?」
「え、どういうこと?」
「ほら、俺の周りってまともな奴なかなかいねーだろ?こうやって何気ない話をサラッと出来る相手ってのは結構レアなのよ」
「銀さんも色々あるんだね…」
「お前と居ると落ち着くわー」
「私は銀さんと居ると結構ドキドキしてる時が多いんですけど」
「あ、そうなの!?なんか…ごめん…」
「ううん嬉しいよ、銀さんがそう思ってくれてるのってなんか貴重な気がする」

私はそう言っておどけて笑って見せると銀さんが距離を縮めてきて、すぐに唇を奪われた。
割って入って来た舌を何度も吸われて絡まされ、角度を変えて何度も弄ばれる。
私は隙を見ては呼吸をして、また銀さんに呼吸を止められる。

銀さんと私は、周りによく長年連れ添った夫婦みたいな雰囲気だと言われることがある。
主に神楽ちゃんや新八くん、お登勢さんたちに。
私も正直初めほどは銀さんにいちいちドキドキしなくなった。それはもちろんいい意味で。

隣にいるのが当たり前で、それでも目があって笑いかけられたりした日には心臓破裂しそうになるくらいの恋心は持ち合わせているけれど。
それでも前ほどではなく、銀さんのことをだんだんと隣に居て普通だと思えるようになってきたのだ。


「っ…まぁこういう時は俺だって心臓バクバクしてるけどな、あと股間の方も」
「余計なことは言わなくていいの!」
せっかくウットリしていたのも台無しだ。
結局いつも下品な下ネタに持っていく銀さんはこう言うとこはまだまだ子供だと思う。
していることはしっかり大人なのに。

私だってこんなことしてる時はもちろん、いつも心臓が持ちそうにないくらいバクバクしている。
それは初めの頃と全く変わらないんだ。





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