「お疲れ様でしたー」




男友達は一度は彼氏だと誤解される




「さーって、万事屋行こっと」
裏で着替えを終えて店を出たところで今度は見慣れた人と鉢合わせた。
「銀さん!」
銀さんはいつもの格好に大江戸スーパーのビニール袋を下げて気だるそうに歩いていた。その後ろから西日が差していて私は眩しくて少し目を細めた。
「おー、ちょうど終わったみたいだな」
「うん、今から万事屋に行こうと思ってたとこ」
何だかこの偶然が嬉しくて、銀さんに笑って見せる。
でも銀さんの視線は一点に集中。私の持ってるビニール袋をずっと凝視している。

「肉まんだよ」
「おお!マジか!」
「六つあるからみんなでちゃんと分けて食べるんだよ」
「母ちゃんかよ」
本日二回目のお母さんかよツッコミに爆笑する私と、嬉しそうに袋を見つめる銀さんは並んで万事屋に向かって歩き出した。

「つーか肉まん、母ちゃんの分は?」
「お母さんはいいの、これを餌にお風呂借りに行くんだから」
「餌ってお前…」
「と言うことでお風呂宜しくお願いしますね」
「風呂ならいつでも入りに来ていいって言っただろお母さん」
「別にいいの、どの道廃棄になる肉まんだったんだし…ってこれツッコむまでずっとお母さんポジションなの?」
「ツッコミ眼鏡がいねーと自分で処理だな」
「新八くんをもっと大事に扱った方がいいよ」
そんな他愛もないやりとりが妙に嬉しい。
銀さんと肩を並べて歩いてんだなーっとか、周りからどう見られてるかなーっとか。
恋愛どうこうとか言ってた私も、結局乙女思考なのは否めない。

付き合いたいとかじゃなくて…アレだ、アレ、サッカー部のモテモテの先輩と偶然鉢合わせして下校しちゃってるドキドキ感。
そう、銀さんはサッカー部の先輩みたいなポジションだ。
好きだけど、付き合うとかじゃない、近くに居れるだけでそれだけでキャッキャできて毎日楽しくて満足しちゃう存在。
周りより少し先輩と仲良く出来る優越感。うん、それだ。

「おい、聞いてる?」
「…え?何?ごめん聞いてなかった」
変な例え話を脳内でしているうちに銀さんは何か会話を振ってくれていたらしく、私は慌てて現実に戻った。
「お前時々そうやってどっか行っちゃってる時あるよね?銀さんたまに心配になっちまうわ」
「ごめん、今日給料日だから完全に浮かれてた」
「え、うそ?今日給料日なの?なんか甘いもの奢って」
これまた本日二度目のたかりに合いました。
ドエスは普段の思考も似てるのか?

「それさっき総悟にも言われたよ」
「そういちろう君と会ってたの?」
「ううん、たまにコンビニに来るから会いたくなくても会っちゃうんです」
うんざりした態度と声がモロに出てしまったけど、内心そんなに嫌じゃない。
毎日同じような業務に嫌気がさす日もある。そんな時に総悟の存在はとても助かってる。

「なになに、仲いいじゃんお二人さん」
「やだっ!!」
「うわ!何だよビックリした、急にデケェ声出すなよ…」
「総悟とはそんなんじゃないから…年下は興味ないから!」
銀さんに勘違いされたくなかったのもあるし実際総悟に対して恋愛感情はなかった。

クラスメートに女友達が出来なくてたまたま気が合って仲良くなってしまった男友達。みたいな感じの関係だ。
大抵そういった男友達とは周りにあいつら付き合ってんじゃねーの的な噂が流れる。
男女が仲良くすると大概そう言った面倒な噂が立つ。

「総悟にも言われたよ」
「そういちろう君も案外甘いもの好きだもんなー」
「違くて、付き合ってるのかとかそういう話」
私はこの面倒くさい感じがとても嫌だ。
こういうのって本当は女子がするもんでしょ。
なんで私がされる側なのか不思議でならない。

「万事屋の旦那とデキてるんじゃねーですかぃ?ってよく言われるよ」
「モノマネ似てねー」
「そこじゃなくて!」
「まあ言わせとけばいいんじゃねーの」
「いちいち面倒なの!否定するの!疑われるの!」
「疑われるって、やっぱお前ら…」
「もうヤダァァ!」
「わ!うそ!名前ちゃん冗談だから!ジョークだからお願い!俺の大事な肉まん振り回さないで!」



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