クリスマスパーティーってそもそも一体誰が主催するの?




世間はイベントに踊らされている





「で、何で俺なんでェ」
かぶき町随一の大きいショッピングセンターに、非番である総悟を半ば強引に引っ張って来た私。
昼ご飯を奢ると言う条件付きで総悟は渋々ながらも買い物に付き合ってくれていた。

「男のプレゼントは男に聞いた方が早いでしょ、そして君たちにはドエスと言う共通点がある!」
私は先日クリスマスプレゼントの件で探りを入れたものの、大した情報を得られなかったのでこうして強い味方を連れてプレゼントを探しに来たのだった。

「なら話が早ェだろ、ムチとロウソクでもプレゼントしとけ」
「ドエスだからってそんなモンやれるか!」
「猿ぐつわでいいだろ」
「ちゃんと考えてよ!何の為に連れて来たと思ってんの!?」
「なんでお前はそんな上から目線なんだよ、今日頼まれたの俺の方だよな」
「そ、そうだけど…!真面目に考えてください…」

一緒に来る相手間違えた?とも思ったけど、私の周りに頼める人なんて総悟くらいしか居ない。
近藤さんと買い物だなんて変に気を使っちゃうし、土方さんとなんてもっと気を使うだろう。その前に頼める気がしない。
たまやお登勢さんに頼んでも良かったけど、この師走の忙しい時期に頼むのも悪い気がした。

「真選組も師走で色々と忙しいんですがねィ」
「その割に総悟は休みシッカリ貰ってるじゃん」
「休みなんてあって無いようなもんだよ、出動かかったらいつでも屯所戻らなきゃなんねーし」
「そっか、大変な仕事だもんね」
いつもの他愛もない話をしながら買い物をする。
総悟とこうやって過ごすのももう何度目かになるけど、毎回気楽でいいなぁと思う。

男女間がないからか、お互いに気を使っていないからか、お腹すいただのトイレ行きたいだの好きなタイミングで言いたい放題だ。
そして先程から総悟は腹減った!や、ついて来てやったんだからなんか奢れ!と、しつこいくらいに言ってくるのでショッピングセンター内のレストランにて早々食事をすることになった。


「ったく、何が楽しいんでェクリスマスなんて」
席につくや否や、メニュー表を見ながら総悟は何気なくクリスマス批判し始めた。
「真選組はクリスマス会やんないの?」
「んだよクリスマス会って、小学生かよ、それを言うならクリスマスパーティーだろ」
「そうそうパーティー、やんないの?」
「やるかよ、男所帯でそんなのやってたら気持ちワリーだろ」
「そうかな、楽しそうだけど」
「野郎だらけでピザ食ってビンゴしてプレゼント交換ってか?考えただけでも胸糞ワリーわ」
「ん…まぁ確かに内容が内容なだけに微妙だね…」
「クリスマスはバカップルがアホみたいに浮かれる為だけのモンなんだよ」
そう言いながら総悟は鼻で笑いコチラを見る。
いかにも私が浮かれている部類であると言いたげだった。

「あ、あのね、カップルだけじゃないんだよ、ファミリーにもクリスマスってのは素晴らしいイベントなの!子供はプレゼント貰えるんだから」
「ふーん、じゃあもちろん俺にもプレゼントくれるんだろうな?」
「え?」
相変わらずメニュー表を見ながら総悟は何気なしに唐突に物を言う。
いつものことだけど、いつもこんな風に唐突だ。

「総悟はあたしの子供じゃないですよね?」
「はあ?」
メニュー越しにすごく嫌な顔をされてしまった。
いや、本来なら私が嫌な顔をする立場なのになんだこの逆転してる感じ。
不可解なことを言ってるのはアンタの方ですよ?
「家族には貰える権利があんだろ?」
「え?」
「お前自分で家族になりてェって言った分際でもう忘れたのかよ」
「え!いや!覚えてるよ!」

結構前に総悟にプロポーズ紛いの家族になりたいな宣言を彼は覚えていたようだ。
私も大真面目に言ったので、もちろん覚えてはいたけどまさか総悟が覚えているとは思わず、一瞬なんの話をしているのか分からなかった。

「つーわけで宜しくたのんまさァ」
「な、何が欲しいの…?」
「そうだなァ」
「高い物はダメだからね!」
「言う前から釘刺すなよ」
「土方さんの首とかもダメだからね!」
「そんな汚ぇもんプレゼントされても嬉しかねェよ」
「汚いって…じゃあ何がいいの?」

簡易な木のテーブルに肘をついて私を見据える総悟。
この体勢はよく見る。考え事などをするときにする、総悟の癖みたいなもんだ。メニューを片手でパラパラとめくり、それを目で追ってはまたページをペラペラとめくる。
何も言葉を発しない総悟に少し嫌な予感を感じつつも私も自分のメニュー表に視線をうつした。

「決ーめたァ」
「何?」
「生姜焼き定食」
「そっちかい!」
「あ?」
「クリスマスプレゼント考えてたんじゃないの?」
「あー、それはまた今度な、考えとくわ」
ピンポーンと店員さんを呼ぶボタンを勝手に押された。
総悟は私がまだ決めてないのを知って、たまにわざとこう言うイタズラをしてくる。

「ちょ!まだ決めてないんですけど!?」
「ほーら、早くしねェと店員来ちまうぜェ」
そう言ってニヤニヤしながら私が焦ってるのを楽しんでいる。
こんな地味なところまでエスっ気を発揮するのはさすがとさえ思えてきた。
銀さんもエスっ気は強いけど、ここまでではない。と言うか総悟とはまた違った部類のエス様だ。
こうも周りにエス様が居ると違いすら分かって来ると言う、なんとも嬉しくないスキルが身に付く。
「私も同じのにする…」
「相変わらず優柔不断だなァ」


ご飯を食べ終えると総悟はまたテーブルに肘をついた。
今度はなんだろう、と定食セットに付いて来た食後のコーヒーをすすりながら総悟をボーっと見た。

「お前と俺って、周りから見たらどう見えんだろうねィ」
ちょっとの間、思考が止まる。
総悟と私、周りから見たら?そんなの考えたこともなかった。
銀さんや近藤さんたちには誤解されたこともあった。
でもそれは身内と言うか、私や総悟の日頃の感じを見て誤解したものであって。今この感じで、他人から見たら私と総悟はどううつっているのか。
確かに言われてみれば少し気になることではある。

年齢的なことを考えれば十近くも離れていれば恋人とは難しいかもしれない。
ましてや総悟のこのルックス。青年と少年の間。
童顔なので余計に私と恋人には見えないだろう。
当の私はと言えば年相応と言ったところだし、パッとしない。

総悟と歩いててたまに女性の目線を感じると若干優越感が湧き上がる。
こんな美少年と知り合いなのよー的な、そんな女特有の変な感情が芽生えることが度々あるものの、周りからどう見られているかは気にしたことがなかった。

「うーん…どうなんだろ…」
「そこ、真っ先に“恋人”って言えねェのかよ」
「見えないでしょ、総悟ガキだし」
「お前はおばさんだもんなァ」
「まぁお子様から見たらおばさんかもねー」
「認めんのかよおばさん」
ケラケラと笑う総悟の真意がいまいち掴めない。
何を思ってこんな質問をしたのか、そして今日はいつもの総悟らしくない気がした。

実は、総悟の休みは急に出たものだった。
近藤さんが年末年始は仕事がバタつくので今のうちに休みを取っておけ、とのことだったらしい。
しかし私はこっそり近藤さんに聞いていた。総悟の様子が最近少しおかしいと。
だから今日休みと言うことを聞いて、総悟を連れ出すことにしたのだった。

「総悟なんかあった?」
「なんかってなんだよ」
「なんとなく、らしくないというか…」
遠まわしに勘繰るのは基本的に好まない私。
ストレートに聞いた方がいいだろう、相手が総悟なだけに余計そう思った。
「らしい、か…」
肘をついたままの総悟は悩める少年のようになっている。
こんな総悟は貴重だ、と内心思っているのはやっぱり黙っておこう。

「なんか分かんねェんでさァ、お前のこと」
「え?私のこと?」
「お前ってなんなんだろうなァ」
「なにって…なに?」
「俺が聞いてんだよ」
もしかしてこれは確信に近づいてきているのだろうか。
総悟の気持ちがグラグラと揺れて、ついに答えが出るときが来たのではないだろうか。
私のことをミツバさんと重ねていると本人が知ったら、気づいたらどう思うだろうか。

いや、これは私の推測でしかないのだけれど。
総悟が本当にそう思っているとは限らない。だからだろうか、私がこんなに躊躇しているのは。
総悟に言ってしまえばいいものを、気づくまではそっとしておこうなんて。
私はどこかで総悟との関係が変わってしまうことを恐れていたのかもしれない。

「おい」
「は、はい!?」
「いや、なんでもねェわ」
「なになに?!ゴメン聞いてなかったからもぅ一回言って」
「いや、もういいんだって」
総悟はどことなく吹っ切れた顔をして大きく背伸びをした。

「なにがもういいの?」
「なんかもう全部」
「え?投げやり?!」
「ちげーよ」
「なんなの?!」
「…クリスマスプレゼント決まったわ」
「急に話変えないでよ、……何にするの?」
「真選組のクリスマスパーティーの幹事やれ」
「は?」
「お前が、クリスマスパーティーを、開くの、分かったか?」

総悟くん、それはプレゼントと言いません!




top
ALICE+