こんばんは、そしてメリークリスマス!




クリスマスは平等に




今日はクリスマスイヴだ。
なのに何故か私は真選組の屯所にいる。いつもの仕事終わり、そのまま直で男臭いここに来たのだ。
何故かって?そりゃ総悟にクリスマスプレゼントと言う名の、頼み事と言う名の命令を受けたからです。

「なんでェ、ほんとに来たのか」
「はいぃぃ?!!」
開口一番にまさかのドエス発言したよこの王子。
まさかの冗談を鵜呑みにしたパターン?!
「ななななにそれ!?」
「ジョーダンでェ、そんな顔すんなよ」
「どっちが冗談なの?!」
「いや、これをジョーダンって言ったのがジョーダンだよ」
「意味分かんない!とりあえず私来て良かったんだよね?!」
「そうそう、来て良かったの」

まあ上がれや、と玄関先で手招きされて慣れた足取りで私も会議部屋にあたる大広間に総悟とともに向かった。
途中でお土産に持ってきたフライドチキンを山崎さんに渡し、コートを脱いで賑やかな声が聞こえる大広間に到着した。

「おう!名前さん!よく来てくれた!」
「こんばんは近藤さ…って、もう出来上がってるんですね…」
「まだ始まって十分でこれでさァ」
「ある意味すごいね近藤さん…」
「そんなとこ突っ立てないでこっちにおいで名前さん!ホラ!ピザあるから!ビールもあるから!」
総悟と並んで苦笑いしている私に向かって近藤さんは上座で手招きをしている。

「少しの間でいいんであの寂しいゴリラの相手してやってくだせェ」
「あ、うん」
「くれぐれも飲みすぎんなよ」
総悟に言われた言葉が銀さんとカブってフラッシュバックした。
昨日、銀さんに念を押されて「前みたいに飲みすぎんなよ」と釘を刺されていた。
そして先日総悟からクリスマスパーティーの主催をしろと言われたものの、銀さんに相談なくそれは出来ないと説得するととりあえず参加しろと珍しく妥協案が出たのだった。
銀さんもこれについては渋々だったけどオッケーをくれた。
このクリスマスイブをまさかこの屯所で過ごすことになるとは思いもしなかった。
だって、私はてっきり万事屋のみんなと…銀さんと…

「おい」
「…はい!」
隣に居たのはいつの間にか土方さん。
さっきまでお酒臭いゴリ…近藤さんが座ってたはずなのに。
「あれ、土方さんいつの間に…こんばんは」
「お前よくヨソ事考えてるときあるよな」
「すみません、癖で……近藤さんは?」
「近藤さんは隅でまた寝てる、この前のパターンだ」

先月の忘年会と称した飲み会も近藤さんはこのパターンで酔い潰れて寝ていた。
またか、と思って見渡すと下座の端の方にやはり裸で寝ていた。
誰かが優しさで毛布を掛けてくれたのか、近藤さんは寒さに震えることもなく、邪魔なほどに大の字を描いて寝転んでいた。

「なんだかんだで飲み会多いですよね真選組って…」
「言っとくが暇じゃねぇぞ」
「べ、別に何も言ってないじゃないですか」
「そんな顔してたからよ」
「どんな顔ですか…」
「飲み会ばっかして、お前らほんとは暇なんだろって顔」
「してませんよ!ただ年末で忙しくないのかなとは思いましたけど…」
「ま、ここにいるのは前回の飲み会に参加出来なかったほんの一部の奴らだからな、あとの奴はほとんど出払ってる」

土方さんのグラスが空になったのでビール瓶を持ちお酌しようとすると、丁重に断られた。
どうやらウーロン茶を飲んでいたようだ。
「俺はこれから見廻りなんでな、飲めねぇんだよ」
「大変ですね…」
「楽じゃねぇが嫌いでもねぇよ」
働く男は格好いい。
銀さんに聞かせてあげたい。爪の垢でも煎じて飲ませたいとはこのことだろうか。
あれはあれでいいんだけど、こうも男として出来た人が近くに居ると比べてしまうのが自然の摂理と言うもので。

「お前も気をつけろよ、最近攘夷派がこの辺ウロついては荒らしてるからな」
銀さんのことを思う中、桂さんのことも思い出す。
攘夷派と言えば桂さん、確かに最近見かけるようになった。
この前はうちのコンビニに堂々と人妻のエッチな雑誌を買いに来ていたし。
そのうち本当に捕まっちゃうんじゃないかと思うほど彼は堂々としすぎているから謎だ。まるで指名手配犯の危機感が無い。

「んじゃ、俺はそろそろおいとまするぜ」
「あ、もう行かれるんですか?」
「お前の隣に長居するとまた総悟にどんなケチつけられるか分かったもんじゃねぇしな」
「確かにそうですね…」
はは、と苦笑しながらなんともリアクションに困ってしまった。

総悟は私と土方さんが絡むのをやけに嫌がる。
銀さんと同じだ。二人とも土方さんのことがあまり気に喰わないからなんだろうけど、あからさまに嫌がる姿はこちらとしてもやりにくい。
土方さんとやっと普通に会話出来るようになったというのに、それをとてつもなく阻止したがる二人。
私にとって土方さんはちょっと遠くの存在でもある。
それを何を勘違いしているのか銀さんなんて特に勘ぐって来るのだ。


「よう、楽しんでるか?」
「楽しんでるかって言われても…そろそろマジで帰りたいんですけど?」
「まだ小一時間だろ」
「スナックお登勢でもパーティーあるんだよ、っていうか始まってるんだよ」
「テメェ、ダブルブッキングとはいい度胸だなァ」
「お登勢さんたちのが先に予定入ってたから!こっちが無理矢理入れられた方なの!」

そそくさと帰る準備をする。
銀さんも飲みすぎるなよ、早く帰って来いよ、と何度も念を押された。
前回のことがあったのに行くなとは言わない銀さんは優しい。
私ももちろん反省しているので、今回は顔を見せたら帰ろうと決めていた。

「玄関まで送ってやらァ」
珍しく総悟はそれ以上何も言わず、私を玄関へ素直に送ってくれた。
「あ、そうだ総悟コレ」
「あ?」
小さめのクリスマス柄の包装袋を総悟に手渡す。
「今日は誘ってくれてありがとね、一応プレゼント、来年はもっと早く声掛けてね先着順だから」
「来年は誰からも誘ってもらえねェかもよ」
「そういう怖いこと言わないでよ!誘ってよ!」
玄関先でいつものテンションで話して居ると、屯所の門のあたりで原付のエンジン音が留まった。
もしかして?と、思うとほぼ同時に総悟がケータイ片手にニヤリと笑っていた。

「お、新記録だな」
「え?」
「またお前が飲みすぎて土方のヤローとヨロシクやってるぞって旦那に電話したら、見事五分以内で登場でさァ」
「ちょっとォォそんなことしたの?!絶対怒ってる感じになってるよね?!怒らせた感じになってるよね間違いなく!」
「早く行ってやれよ、そんでモメて来い」
「モメ事作らないでよ!」

ブチブチと文句を垂れながらも急いで門の方へ小走りした。
勝手口から門を抜けると道端には銀さんのバイクと銀さん本人が居た。
「銀さん!」
「あ!おま!そういちろう君から連絡あって…」
「からかわれただけだから!酔ってないから!そしてヨロシクもなにもないから!」
先に弁解だけしておくと、銀さんはチッと舌打ちだけした。
とてもバツが悪そうだ。

「心配して来てくれたんだね、ありがとう」
「いや、俺は別に」
「ふふ、帰ろうか」
「……ん」
まだ銀さんの温かさが残ったヘルメットを自然と被された。
顎のホックをパチンと止められて、よし、と銀さんが小声で言う。
原付に跨った銀さんの後ろに横乗りした。不安定だけど着物だから仕方ない。
私は落ないように銀さんのお腹に手を回してギュッと掴まった。

「お店の方はどう?銀さん抜けて来たんでしょ?わざわざごめんね」
風にかき消されないように少し大きめの声で銀さんに問う。
「いや、別にいつもの感じと変わんねーよ、ガキとバケモン共がサンタ帽つけて浮かれてる程度だよ」
「あはは、見てみたいなその姿、なんか可愛いね」
「なんも可愛くねーよ、猫耳妖怪に至っては痛いとしか言えねーぞ」
そんな皮肉を言いながらもどこか銀さんも嬉しそうだ。
先日も文句言いながらもスナックのクリスマスツリーを飾り付けしてたし。

この歳になってクリスマスってこんなに浮かれてしまうものだと久しぶり感じた。
子供の頃は楽しみだったクリスマスも大人になると大したイベントではなくなっていくからだ。
しかし恋人がいるイベントはまた別。今年はそれを久しぶりに体験出来るのだから。

「銀さんって恋人と過ごすクリスマスって久しぶりだったりする?」
「その質問って言ったところで誰か得すんの?」
「え、なに?まさか去年は別の誰かと…?」
「いや、そういうのだよ!前の女を連想させるような会話とか嫌なんですけど!女ってそういうとこあるよね?!」
「単なる興味本位じゃん」
「そうやって聞いといてさ、答えたらふーんって変な空気になるの知ってんだよ!」
「経験済み?」
「だからそういうのやめろっつーの!」
「因みに私は」
「言わなくていい!俺めっちゃ気にするから言わなくていい!夜とか気になって寝れなくなるからやめて!」
「気にするんだ」
「するよ!元彼どんな奴だったとか気にするよ!想像しちまうよ!」
「銀さんわりと気にする人なんだね」
「小せぇ男とか言いたいんだろ!」
「違うよ、可愛いなーって」

銀さんの背中に頬を当てながら笑う私の声はきっと銀さんの体内に響いているだろう。
寒い風に吹き付けられながらも、銀さんの背中でそれは最小限に抑えられ触れている箇所は温かい。
そんな思いに浸っていると、いつもの道じゃないじゃないことに気付く。

かぶき町ではあるものの、どうやらここはホテル街…それも大人の男女が行くようなピンクやブルーの怪しいブラックライトのネオンが光るホテル街だった。
「ちょっと…銀さん?」
「やっぱクリスマスイヴでこの時間帯だとどこも満室だなー」
「ちょっと…銀時さん?」
「この時間ならギリギリ休憩でいけるっけ?」
「ちょっと、坂田さん?」
「あ、あそこ空室あるってよ、この際どこでもいいよな?」
「ちょっと!何勝手に入ろうとしてんの!?」
「勝手にって、このまま店行ったらそのままドンチャン騒ぎで明日はガキとクリスマスパーティーだから神楽もぱっつぁんも家に居るだろ?だったら今しかねーだろ」
「別にそれはそれでいいでしょ…」
「なに?クリスマスに何もなし?!」
「別にそういった日じゃないでしょ!プレゼントならちゃんとあるから!」
「プレゼントはお前が裸にリボン付けてってベタなんでいいんだよ!」

またオヤジ思考が始まった。
結局銀さんは何があっても行き着くとこはエロい方向なのだ。
今まで長いこと彼女的な存在が居なかったからなのか、その有り余った気力をよく私にぶつけてくる。
もちろん嬉しくないと言えば嘘になるけど。

「よーし、行くぞー」
その一言でビニール布の安っぽいカーテンの下をくぐることになってしまうのだった。





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