クリスマス番外編




クリスマスの本番は二十五日です




「あれ、神楽ちゃーん?」
「ガキは寝かせとけぇ」
時間は夜の十一時。
クリスマスイヴの夜に大人数人と子供二人でクリスマスパーティー中。
さすがに今日一日ハシャギすぎた神楽ちゃんはスナックお登勢のソファに横になって爆睡し始めていた。
と言う私も朝から色々とあって結構疲れていた。

夕方まで仕事をみっちりして、その足で真選組へ。
それから銀さんへ大人のホテルへ連れ込まれて休憩と言わない休憩をとり、スナックお登勢へコースだ。
そこにお酒の力が加われば私の体に勝ち目は無かった。

「なんだい、ずいぶん酔ってるじゃないか」
お登勢さんの言葉もまともに頭に入ってこない。
言ってることは理解できるけど、お酒のせいで返す言葉が見つからない。

「名前さんがこんなに酔ってるの初めて見ましたよ」
「ほんとね、私も初めだわこんな名前さん」
「弱イクセニ呑厶ンジャネーヨ!」
「キャサリン、アンタも充分酔ってるじゃないか」
「おーい、もうケーキねぇの?」
「銀時、アンタもそれくらいにしときな!ケーキをツマミに酒飲むんじゃないよ気持ち悪い!」
「クリスマスケーキは別腹なのぉ」
「女子かアンタは!」

「銀さん、名前さんを上に連れてってあげてください、僕は神楽ちゃん運びますから」
「だーいじょうぶだよ新八くん!私なら自分で歩け…」
立てるには立てたけど、歩くための一歩で崩れ落ちてしまった。

「最初のシャンパンが脚にきてるんだろ、お前チャンポンしすぎなんだよ」
銀さんが私を支えてくれていたお陰でなんとか倒れずに済んだ。
逞しい男の人の、銀さんの腕と胸板。
酔いもあってか、やっぱり銀さんが好きだなぁと思ってニヘラと笑ってしまう。

「なぁにニヤニヤしてんだよ」
「銀さん、私のドコがスキですか?」
「はぁ?」
自分でも何を急に言い出したかあまり理解できていなかったけど、今無性に聞きたくなったので聞いてみた。

「そりゃアタシも聞きたいねぇ」
お登勢さんもタバコをふかしながらニヤニヤしてカウンターから乗り出して来た。
「是非、僕も聞きたい…!」
お妙さんの隣をずっとキープしていた九兵衛さんも食いついてきた。
ほら、皆きっと興味あるんだ。

「お前…時と場所を考えろよ」
小声で私にそう言った銀さんはそこまで酔ってないみたいだった。
ちょっと困った顔をしていたけど今の私はそんなの気にしない。
「私も聞きたいです、銀時様が名前様のどこを特に愛されていらっしゃるのか」
片付けをしながらも、たまも話に参加し始めた。
「聞キタカネーヨ!ソンナノロケ話!」
「んじゃアンタは帰んな」
お登勢さんの一言でキャサリンはその後一言も発さないまま、やけ酒を始め出した。

「で、銀さん、答えはどうなんです?」
「なんでお前まで食いついてんだよ」
お妙さんもお酒が入っているからか、なんだか上機嫌でこの手の話に食いついてきた。
「フラフラしてた銀さんがまさかこんなにぞっこんになっちゃうなんて、誰が予想したかしら」
「誰がぞっこんだよ」
「え?!ぞっこんじゃないの?!」
「お前は黙ってろ!ややこしくなるから!」
「認めちゃいなさいよ銀さん!他の女にぞっこんラブだってことを認めちゃいなさいよ!そんな銀さんをずっと追いかけ続けてやるわよ!ストーカーの名にかけて!」
「てめぇまたどっから出てきやがった!?」
「さっちゃんさん!?」

さっちゃんの高笑いが聞こえ、また人数が増えたようだったけど私はこの賑やかさの中でどんどん眠気が襲ってきたのが分かった。
何度か抗おうとはしたけど抵抗虚しく銀さんの温もりに包まれながら私は目を閉じた。
起きたらクリスマスプレゼントあるかなぁ、なんて呑気なことを考えながら。


朝、目が覚めると見慣れた天井があった。
ああ、銀さんの部屋だ、とすぐ理解する。
二日酔いにはなっていないようだったけどなんとなくまだお酒が残ってる気がする。体も頭もだるい。

銀さんと喧嘩して以来、私はお酒を飲む機会を減らした。
元々お酒は強くないし、大好きって訳でもないから普段は飲まない。
イベント事や何かある時くらいしか飲まない生活をずっと送ってきたからか全く飲まなくても苦ではない。

それにこうやってイベント事で飲むことがあっても、銀さんが同席することがほとんどだ。
例え酔ってベロベロになっても銀さんが同席していれば介抱してくれると思って安心して酔える。

「ういー、起きたか」
ふすまが開くと同時に銀さんが入ってきた。私より早起きしてるなんてなかなか珍しい。
「おはよう」
「昨日はスゲェ飲んでたなぁ」
そう言ってお水を持って来てくれた銀さん。
ちょうどノドが渇いていたので助かった、と思い一気に飲み干した。

「銀さんがいるからついつい安心して調子に乗っちゃった」
「いやいやぁ、ありゃマジすごかったぞ」
「え、そんな飲んでた?」
「めっちゃ飲んでたぜ」
「なんでそんなニヤニヤしてんの銀さん…」
「なんだよ、覚えてねぇのか?」
「え、なにを?!」
「なにをって…お前、昨晩は銀さんジュニアをだな」
「…待って!!それ以上言わないで!!」
「いやいやいや!昨日はマジですごかったんだって!俺何回イッたってかイかされたと思ってんの?!名前ちゃんお酒飲むとスゲェんだな銀さんビックリしちゃったよー」
「ヤメテェェ!!」
「それ昨日俺が言ったセリフだよ!もう無理って言ってんのにお前離してくんないんだもん」
「無駄に爽やかに笑わないで!」

とてつもなく恥ずかしくなった私はコップを置いてまた布団に潜り込んだ。
思い出そうとしても思い出せない。でも断片的には覚えてる。
布団に寝かされる時に私は目が覚めて、銀さんに抱きついたまま離れなかった。
そのまま銀さんと一緒に布団に潜り込んで…
ああ、ダメだ…思い出せないと言うより思い出したくない。

「まぁ最後まではヤッてないからね?隣にガキも居るし俺もさすがに酔った女をっていう趣味もないからね?ただお前が一方的に銀さんジュニアを可愛がるからだなー大変だったんだぞ、声我慢するの」
「ほんとヤメテェェ!!」
せっかくのクリスマスの朝になんでこんな下世話な話をしなきゃならないんだ。

「あ!銀さん!そういえば神楽ちゃんと新八くんのクリスマスプレゼント!」
「おー、ちゃんと置いておいたぞ枕元に」
「良かった…スッカリ忘れてた…」
「忘れてたっていうレベルじゃねーだろ、サンタが酒飲んでクリスマスに酔いつぶれて銀さんジュニア可愛がるってどういうことだよ」
「うるさい!!」

当の二人は嬉しそうにプレゼントを開けていたそうだ。
新八くんには最新のイヤフォン。
先日お通ちゃんの曲を聴きながら調子が悪いと言っていたので、それとなく欲しい機種を聞き出していた。

神楽ちゃんには真っ赤なコートと手袋とマフラーのセットを。
年頃の女の子だからやっぱりオシャレしたいだろうと思って、これも雑誌を見せるフリをして欲しいコートの情報をゲットしていたのだった。

「あんまりうちの子ら甘やかすなよな」
「クリスマスと誕生日くらいは甘やかしてもいいでしょ?」
「んじゃついでに俺も甘やかしてー」
「銀さんはいつも甘やかしてあげてるよ」
「どの辺がだよ」
「どの辺って…色々と」
「んじゃ俺にプレゼントは?」
「ない」
「えー」
「私には?」
「ない」
「…」
「冗談だって、ちゃんとあるっつの」
「え?!うそ?!うそでしょ?!」
「なんである方のが驚いてんだよ」

ブツブツ言いながら銀さんは居間に向かって行き、ソファの後ろからクリスマス用に包装された袋を取り出した。
まさかのサプライズに私は心躍る。
本当に用意してくれてたなんて、あの銀さんがクリスマスプレゼントを用意してくれたなんて。

「あんま期待すんなよー?」
そう言って渡された袋は大きさの割に思ったより軽かった。
一体何が入っているのかと思い、袋から出すとそれは見慣れたものだった。
「ヘルメット…?」
「そ、お前専用」
光沢のあるブラウン調の半ヘルメットはピカピカで、ゴーグルは付いていないものの銀さんのヘルメットと同じモデルだった。

「ゴーグル…付いてない…」
「え、欲しいの?あれ運転するとき目乾くから付けたもんなんだけど…実際重いし」
私が欲しいと言えば銀さんは、んじゃ明日買いに行きますかーと言ってくれ、ヘルメットを私の頭に被せてくれた。

「なかなか似合うじゃねーか」
私は照れ笑いをして銀さんにありがとうと伝えた。
こんなに優しくされると何でもしてあげたくなってしまう。
私のちょっとした貢ぎ癖が顔を覗かせる。

「ねぇ、銀さん」
「ん?」
「あたしからもクリスマスプレゼントがあります!」
「ほーう、なにくれんの?」

聞いて驚け!
「万事屋みんなで温泉旅行!!」
「…」
「…え、何その反応…」
「なんで万事屋みんなで、な訳?」
「え…?」
「え?お前それ天然で言っちゃった系?」
「え…」
「万事屋みんな、は却下!!」
「じゃ、じゃあ二人…で…」
「当たり前だろ」
驚かせて喜ばせるつもりがなんだか変な空気になったまま決定してしまった。

その後、スナックお登勢の片付けから帰ってきた来た神楽ちゃんと新八くんからクリスマスプレゼントのお返しにと可愛いお風呂セットを貰った。
いい匂いの石鹸とバスソルトにフワフワのタオル。
万事屋に置いておいて、これからも毎日お風呂入りに来てくださいねと言う素敵な言葉も添えて。

今年は人生で一番素敵なクリスマスを迎えられた。
どうか来年も皆でクリスマスを迎えられますように。






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