みんな色恋沙汰が好きなのね。




面倒なことに限って何度も続くもの




「たでーまー」
「おじゃましまーす」
万事屋に一緒のタイミングで入った銀さんと私。半年前の私は全く想像もしていなかった。
私は銀さんの隣に普通に居る。
こんなのことがあるんだなーなんて他人事に思いながら、通り慣れた玄関をくぐった。

「名前〜!遊びにきてくれたアルか!」
神楽ちゃんがドタドタと足音を立てて玄関までお出迎えに来てくれた。
「うん、ついでにお風呂も貸して貰おうかと」
「そっちがメインだろーが」
「違うよ銀さん!神楽ちゃんにも会いたかったの!」
「私も名前に会いたかったアル!んでその袋の中身何アルか?!」
「お前もそれがメインだろ」
銀さんが横から野次を飛ばすのを横目に、私と神楽ちゃんはもう肉まんの話で盛り上がり始めていた。


夕方の六時になると新八くんは台所に入っていった。
今日のご飯当番は新八くんらしい。
「何か手伝おうか?」
エプロンを着用している新八くんに後ろから声を掛けた。
「あ、じゃあ里芋の皮剥いて貰っていいですか?」
「任せといて!」
私は手を洗って早速泥のついた大量の里芋に手を付けた。

「また沢山あるね、今日は里芋三昧だ」
「八百屋に寄ったら格安だったんで沢山買っちゃいました」
そう言って新八くんはへへへと照れ笑いをして、人参を手際よくイチョウ切りにしていった。
「今日は豚汁と里芋の煮っころがしと里芋ステーキですよ」
「わー!豪華ー! 」
「九月も中旬になると夜は一気に涼しくなるから、豚汁とか食べたくなりますよね」
「うんうん、妙に温かいもの食べたくなるよねー、つい最近まであんなに暑かったのに」
まるで女子の会話のように新八くんとの会話はいつもごく自然に盛り上がる。
十個程も歳が離れているはずが何故か彼との間には不自然さがなかった。


「あの…名前さん…いきなりちょっと無粋なことかもしれませんけど、聞いてもいいですか?」
「え、なに?」
新八くんは人参を器用に切りながら視線を泳がせつつ、とても言いにくそうに話を切り出した。
「あの、その…銀さんとは…やっぱり」
「やだ!!」
「うわ!ビックリした!ど、どうしたんですか急に大きい声出して…」
「なんでみんなそんな話ばっかなの?!」
私は芋をつぶす程の力でワナワナと握り締めた。
隣に立つ新八くんを睨むようにして見ると彼は思いの外穏やかな顔をしていた。

「すみません、僕の勘違いだったんですね」
「そう!すごく勘違い!ほんとそういうのじゃないから!みんな最近はそんな話ばっかで嫌になるよ…」
いきり立っていた私も言葉尻は徐々に弱くなるほど、本当にこの手の話にはうんざりしていた。

「周りも感じることがあるんですよ、きっと」
「え?」
穏やかな顔をしたままの新八くんの包丁はトントンと音を立てる。
まるでお母さんのような雰囲気を漂わせながら私に言葉を続けた。
「最近、名前さんと銀さんの雰囲気がちょっと変わったなーって思うんです」
「え?どこが?」
「僕と神楽ちゃんと話してる時は無邪気に楽しそうに話してるけど、銀さんと話す時はなんか距離があるって言うか…」
「え?!うそ?!」
「あ、よそよそしいとかじゃなくてですね、なんて言うか…僕らとはちょっと違うと言うか…前みたいにお互いをイジって笑ってるだけじゃなくて、思いやる感じが出てるとゆーか…表現するのはちょっと難しいんですけど…」
全く身に覚えのない話に私はただただ顔が赤くなるだけだった。
それはつまり、周りから見たら私が銀さんをとても意識しているように見えていると言うことだろうか。

「僕はてっきり銀さんと名前さんは、その、お付き合いを始めたのかなーなんて…最近感じた訳で…でも!誤解だったんですね!なんかすみません!僕勝手に勘違いしちゃってて」
新八くんは何故か言いだしっぺのくせに途中から赤面し始めて、ベラベラと一人で言い訳をしていた。
さっきまでの穏やかな顔はなんだったんだと言わんばかりにうろたえる新八くんの手元には、折角綺麗に切られていたイチョウ切りの人参がだんだん無骨な形に変わっていっていく。
私はと言えば、ただ赤面する顔を見られないように俯いては芋の皮をひたすら剥き続けていた。



芋料理を美味しくみんなでいただいて、片付けをして私は早速お風呂を借りた。
お風呂に入ってる間に三人は肉まんのことで揉めていたようだ。
案の定神楽ちゃんが四つも食べてしまったらしい。
いつものこととは言え、銀さんと新八くんが鼻をほじる神楽ちゃんに向かってブチ切れていた。

また持ってくるから、と二人をなんとか宥めると新八くんは芋の煮っころがしの入ったタッパーを持っていそいそと帰っていった。
うまく出来たから姉上にも食べさせたいと張り切っている姿はなんとなく可愛かった。
銀さんは隣でシスコン野郎とか呟いてたけど。
その後は神楽ちゃんと銀さんと私と三人で最近あったことを話したり、テレビを見て文句を垂れたりといつもような時間が流れる。
そんないつもの夜、気付くと時計はすっかり夜の九時を過ぎていた。

「あ、私そろそろ帰るね」
「おーもうそんな時間か、神楽は早く風呂入って寝ろ」
「渡鬼見てから寝るアル!」
「あーハイハイ、んじゃ俺はコイツ送ってくから」
「名前!男はみんな狼だから気をつけるネ!」
「今更?!俺何回コイツ送ってってると思ってんの?」

確かに遅くなると銀さんはいつも私を歩いて十分のとこにある長屋まで送ってくれる。
近いから大丈夫と言う私に、いちご牛乳買いに行くついでだよと言われた。
なんとも銀さんらしい言い訳に笑ってしまったものだ。




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