また今日も一日が始まる。





それでも時間は動いてく





「おはようございます、土方さん」
朝の挨拶は大切だ。
屯所には沢山の人が生活している。男所帯のこの真選組の屯所には、女中の方も何人か働きに来ている。主に炊事洗濯を仕事としてやっており、私も今はそれを手伝っている状況だ。

私がここに来て十日程が経つ。
あの長屋を引き払い働いていたコンビニも辞め、私は今真選組の屯所に置いて貰っている。
部屋は総悟の隣を用意され、私は物置きでもいいと言っているのにそれなりの良い部屋を用意されてしまい、今でもまだここでの自分の置き場所に困っている。

真選組の人たちは、ついに沖田隊長が嫁を貰うと言う噂で持ちきりのようだ。
総悟もその方がここに居やすいだろうと言って周りの噂は特に否定しなかった。


「おう、今日も早いな」
土方さんは道場の方で朝稽古でもしていたのだろう、この寒い朝だと言うのに薄い練習着を纏い少し汗ばんでいた。
「土方さんこそ、風邪引かないでくださいね」
練習後だからだろう、はだけた胸元から見える土方さんの汗ばんだ胸板が妙に色っぽく感じてしまい、私はあからさまに目を逸らしてしまった。

「あぁ、今からひとっ風呂浴びてくる」
「いってらっしゃい…」
赤面しているのに気付かれてないだろうか。
総悟とならまだしも土方さんや近藤さんたち、沢山の男性陣と生活するなんて結構神経を使う生活だ。

お風呂上がりにシャツとパンツ一枚でその辺を歩ける訳もなく、部屋着のパジャマで屯所をウロつく訳もいかず、部屋から出るときはそれなりの格好をしていないと駄目なのだ。
ここに来て十日程だけれど、まだこの生活に慣れないでいた。

「さて、今日もやりますか!」
気合いを入れて朝食の準備にとりかかる。他の女中の人たちより少し早めに出勤する。
新しい生活に入っても間もないけど、この暮らしに特に抵抗はなかった。
この世界に来た時のことを考えるとここには顔見知りも身内のような存在も居る。だからか不思議となんの不安もなかった。


あの雨の日。
銀さんにもうダメだと言ったあの夜。
とても高杉さんに会いに行けるような顔ではなくなってしまったのと、精神的にズタボロでどうしていいか分からず私はとにかく真撰組を目指した。

途中パトカーと何台かすれ違いその中に総悟が乗っていて、私はそのパトカーに拾われた。
港で武闘派の攘夷集団が今夜動きを見せるとかで、真選組もそれに駆り出されていたのだ。

その時に総悟は一言、悪かったと謝った。
自分が余計なことを言った、と総悟らしくない言葉が車内に響いた。
何も総悟のせいではない。全ては私の気持ちが歪んでしまっただけの話。
それにうまく対応出来なかった私が悪い。


朝食タイムがバタバタと終わり、片付けを終えると次は大量の洗濯物を干す。それが終わると今度は昼の仕込みに入る。
ここにいると休みなんてものはあって無いようなもんだ。
自分のご飯すら食べるのを忘れている時があるくらい忙しい。それでもここでの生活もとても充実していた。
忙しいと余計なことを考えずに済むからだ。

今日は朝一からの仕事だったので掃除を終えた夕方には上がりになる。仕事が終わる頃にはクタクタだ。
コンビニの仕事でもこんなに体力は使わなかったので、家事ってこんなに大変なんだなぁと身に滲みて実感していた。


「おー、お疲れさん」
「総悟、おかえり」
食堂を出ると廊下で総悟と鉢合わせた。
「お前飯は?」
「まだだよ」
「久々にファミレスでも行くかァ、奢ってやるよ」
「マジで?!」
「マジで」
「着替えて来るからちょっとだけ待ってて!」

疲れた体にはやっぱり甘いものだ!と、頭の中ではいつも行くファミレスのメニュー表が浮かぶ。
奢りと聞いては疲れてても行くしかない!何を食べよう、新しいメニュー出てるかな?この季節なら苺パフェかな。

苺パフェを思い浮かべた瞬間、リンクして銀さんの顔が思い浮かんだ。
苺の季節が来たら必ずファミレスに行って苺パフェを食べると言っていた。その言葉を思い出す。

この十日間、銀さんのことを思わなかった日はない。
周りには悟られないように、気を遣わせないないようにと気丈に振舞ってきたつもりだ。
けれど私の中は銀さんが大半を占めていた。
私から言い出したことなのに、後悔ばかりが押し寄せる。

夜、布団の中でその後悔の念に押し潰されそうになる時がある。
その度に私はあれは一時の夢だったんだと自分に言い聞かせて眠りに就く。
そうでもしないと気が狂いそうだった。

本当は別れたくなかった気持ち、それでもこのままではいけないと思う複雑な感情。
一番は自分の身勝手で憎悪にまみれた嫉妬や妬みの汚い気持ちが理由だった。

月詠さんは綺麗だ。そして銀さんが背中を任せる程に強いし信頼されている。
人としてとても尊敬している。けれど、女としてはどうしても自分と比べてしまい惨めになる。

私は綺麗じゃないし、強くもない。
月詠さんがもし銀さんに気持ちを伝えることが出来たなら、銀さんは月詠さんを取るんじゃないかと思う。
それくらい周りから見ても二人はお似合いだった。

これは単なる女の妬みだ。
自分より勝っている、優れている、恵まれているとそこには妬みが生まれる。
その塊なのだ、私は。
こんな妬んでばかりの女を誰が好きになるだろうか。自分でも嫌だ。こんな人間。
そう分かっていても、私の黒くドロドロとした物はまだ心の中に渦巻いていた。



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