「俺はお前に言っとかなきゃいけねェことがある」





代わりのモノを探している間に人はそれを忘れてしまう





ファミレスのソファに座りメニューを頼んでからの総悟の一声はそれだった。
えらく真面目と言うか、とにかくいい予感だけはしなかった。

今度は何?また何かトラブル?嫌な報告?などとそちらの方向にばかり考えてしまうのは、私の気持ちがこのところずっと低空飛行しているからだ。

「え、何…?」
探るように聞き返すと総悟は軽く座り直した。
やっぱり真面目な話なんだと私は少し身構えてしまう。
「俺は、お前を試すみたいなことをしちまった」
思ってたこととは少し違う言葉にちょっとばかり拍子抜けしてしまった。

「旦那のことお前に告げ口して、それでお前はどっちを信じるのかって少し興味が湧いた…」
「興味って…」
「俺を叱って旦那を信じるか、それとも俺を信じて旦那を疑うか」
結果的には後者だった。
私は総悟を信じた。そして銀さんを疑った。
相手が相手なだけに流せなかったのが事実だ。

「まぁ…総悟を信じてるのは大きいけど、私も結構歪んでるからね」
「…俺と一緒でさァ」
重い話をしているのに互いに最後はクスクスと笑ってしまった。

私は総悟を理解しているし、総悟も私を理解してくれている。
この関係は貴重すぎて私の中で一番の存在なのかもしれないと最近気付いた。
銀さんと同じ天秤には掛けれない。掛けてはいけない。まず、二人は同じ土俵に上げてはいけないのだから。
それでも総悟を一番と言えてしまう。

「総悟程歪んではないけどねー」
「よく言うぜェ」
フッと笑った総悟を見てなんだか安心してしまう。
ここ最近の総悟は少し元気がなかったような気がする。
多分私を気にしてのことだと思うけど。

真選組の皆も私のことを気に掛けてくれる。とても有難いけれど、少し申し訳ない気持ちにもなる。
私なんかのことにいちいち構っていられないくらい忙しいのに。それでも皆は優しかった。

「総悟が気にすることは何もないからね」
「どうだかなァ」
「あたしがダメだったんだよ、信じきれてなかったから…」
銀さんを信じきれなかったのも大きい。
月詠さんの存在も大きい。単なるヒガミだとも分かってる。分かってるからこそ余計に何もかもが嫌になる。

「あ、あとな」
「?」
「うちに百華の頭が来たぜ」
「え?!月詠さん?!いつ?!」
「昨日」
「それ一番に言うべきことじゃないかな?!!」
「お前に会わせて欲しいとか言ってたけど断って返した」
「だろうね!あたし会ってないもんね!?」

頭が真っ白になる。月詠さんがこちらに出向いてくるなんて。一体なんだろうか。
まさか。まさか。
銀さんと?
銀さんと…

「旦那とはなんもねェから、謝っといてくれって言われたぜ」
「え…?」
「波風立てて悪かったって」
「…」
「旦那にお前の存在が居るのは知ってたとか何とか言ってたし、誤解させるようなことして悪かったってさ」
「そんなことをわざわざ言いに…?」
「誰に聞いたか知らねェけど」

多分新八くんだ。
彼はきっと私が消えたことによって色んなところに行って話を聞いたりして探してくれたりしてたんだろう。
神楽ちゃんは遊びに来てくれるものの、口は固いようで新八くんにもお妙さんにも何も言っていないようだった。

しかし当の月詠さんまで巻き込んでしまうなんて。私の勘違いだっただけなのに。
月詠さんはキッカケにすぎなかった。遅かれ早かれこうなってたとは思ってる。
こんなに周りを巻き込んで迷惑かけて、こんなつもりじゃなかったのにな。と申し訳ない気持ちにばかりが膨れ上がっていった。


「あ、あとな」
「ま、まだなんかあるの…?」
「志村弟にお前の居場所言った」
「え?!」
なんで一番口が固いはずの総悟がペラペラと喋って来てるの!?
次から次へと総悟の衝撃発言が出て私の頭は着いていけなくなっていた。

「ちょ、ちょっと待って…なんで、新八くんに言った訳?」
「聞かれたから」
「アンタ聞かれたら何でも答えるんかい!」
「これも俺の賭けだよ」
「…?賭け?」
「これで旦那がお前のとこに来なかったら、もう縁が切れたと思えよ」
「…」

総悟は何でもお見通しだ。
私がまだ銀さんを引きずっていること。
もしかして、ここに来るんじゃないかと言う淡い期待。買い物に出た際、街のどこかで会うんじゃないかと毎回ドキドキしていた。
銀さんは今、どこで何をしているんだろうと気付けばそればかり考えてしまっている。

「もし、旦那が迎えに来なかったら……」
「?」
「…いや、何でもねェ」
「近藤さんの嫁になれ、でしょ?」
「…まぁ、そんなとこだなァ」
総悟は少し困ったように笑い、外の景色を見ていた。

最近の総悟はちょっと大人びて来たような気がする。男らしくなったと言うべきだろうか。
ふとした仕草や佇まいに男を感じるようになった。きっとこのままいい男に育って行くんだろうなと思う。
総悟にはこの先たくさんの選択肢がある。

私は?
私にはこの先、何があるのだろうか。
そう漠然と考えて私の中は真っ暗だと言うことに再度気付く。
あぁ、そうだった。ここに来たばかりの時もそうだった。
私の真っ暗な中に光をくれたのは銀さんだ。紛れもなく銀さんだった。

その光の代わりになる人なんてこの世には存在しないのだと、今更思い知らされた。




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