やまない雨はないなんて誰が言ったんだろうか。




明日はきっと晴れるのに





やまない雨はある。私の心の中だ。
それはまるで霧がかった小雨がずーっと降り続いている状態で、私はあれからずっと晴れない気持ちを抱え生活している。

真選組へ来て二週間が過ぎた。
先日、総悟が新八くんに私の居場所をバラしたと聞いた。
それから三日。
一日目、もしかしたら銀さんが様子を見に来たりするんじゃないかとドキドキ一日を過ごした。
二日目、今日は来るんじゃないかとソワソワしていた。
三日目、今日来なければもう無いと確信した。

そして今日で四日目。
もう銀さんは来ない。
今頃私の居ない生活に慣れている頃だろう。
男ってそんなものなのかな。私からサヨナラを言っておいて、私が一番引きずっている。みっともない、とは今の私のようなことを言うのだろう。

銀さんは何とも思っていないのだろうか。
別れ際にあんな顔をしていたのに、もう私のことなんて何とも思っていないのだろうか。
そんな言い訳のような、愚痴のようなものがグルグルとずっと私の中を曇らせた。

自分から言い出しといて、銀さんを傷付けておいて、何を今更。
土下座でもしてやり直して下さい、許してくださいと懇願するべきだろうか。
あれだけ考えて出した答えのはずだったのに、自分のしたことは軽はずみで一時の気持ちのブレによる行動だったと、とてつもない後悔が押し寄せていた。
今となっては全てが遅い。
気付くのが遅すぎた。

しかし二週間前の私はそれが一番いいと思ったのだから仕方ない。後悔なんて人生においてよくあることなのだ。
少なくともあの時は銀さんと一緒に居られないと思ったのだから。

ただ、今になってとんでもない間違いに気が付いた。それだけのことだ。
そう割り切ってこの先、生きていくしかないのだ。


「チャイナはもう帰ったのか?」
夕日を浴びて縁側に座っていると、土方さんが声を掛てきた。
「あ、はい、ちょっと前に帰りました」
先程まで神楽ちゃんが遊びに来てくれていた。

神楽ちゃんはあれから一日おきに私の所に来てくれていた。
オヤツを食べながら他愛も無い話をして笑い合う、でもそこには銀さんの名前は出て来ない。何だか少し物足りない会話。

土方さんは私の隣に胡座をかいて座り、煙草に火を付けた。
前は気を遣って私の前で煙草を控えてくれていたけど、私が気にしないで欲しいと頼むと最近の土方さんはずいぶん慣れてくれたのか、素の部分を徐々に見せてくれるようになった。

「土方さんはもう事務仕事終わったんですか?」
「…」
「まだ、なんですね…」
「次から次へと始末書がな…」
「大変ですね」
苦笑いをすると土方さんは眉間にシワを寄せながらも笑い返してくれた。

季節はもうすぐ三月を迎えようとしている。
まだまだ寒い風は吹くものの、陽射しはどこか春めいてた。
日も長くなり夕方の五時過ぎだと言うのにまだ明るく、眩しい程の西日に照らされながら土方さんの煙草の煙の後を目で追った。

「土方さんは、私がここに来てどう思いましたか」
正直とても気になっていた。
二週間前、ここに来た際に近藤さんは大歓迎と言った風だったが土方さんに至ってはあまり良い顔をしていなかった気がする。

「どうって…」
「迷惑、でしょうか…」
「迷惑って言ったら出てくのか」
「…」
ここは男所帯だ。女が住むのは向いていない。
何かあってからでは遅いのだ。それは私も分かっていたけれど、総悟や近藤さんに甘えてそこまで深くは考えていなかったのが事実だった。

「いや…別に迷惑じゃねーよ」
「本当ですか…?」
「お前は総悟の家族でもあるからな…」
土方さんは煙を吐きながら遠くの空を見つめていた。
とても様になるなぁ、なんて思いながら私はその佇む煙をなんとなく眺めていた。
「…なんなら…、…でも…」
ボーとしていたら土方さんの言葉を聞き損ねてしまっていた。

「え?」
「…いや、なんでもねぇよ」
「なんですか?」
「だからなんでもねぇよ」
「気になるじゃないですか!」
「だからなんでもねーっつってんだろ!気にすんなよ!俺がなんでもねーって言ってんだからよ!」
そのままプイっと顔を反らされてしまい、土方さんは向こうを向いてしまった。

土方さんの声は低くて心地よくてたまに聞き逃す時がある。
初めはこの声にいちいち反応してしまっていたけれど、慣れとは怖いもので土方さんの声をいつの間にか心地いいとさえ思うようになっていた。

「土方さん、私は…」
「ん?」
「ここに居てもいいんでしょうか…」
「…俺に聞くなよ」
「そうですよね…」
「ま、居てもいいんじゃねぇのか、お前が来てから少なくともここの雰囲気は良くなってるし、総悟の機嫌もすこぶるいいからな」

土方さんは優しい。私に対して否定的な言葉を使ったことがない。
近藤さんのように懐が深くて、それでいて総悟のように私を甘やかしてくれる。
随分前に素性を怪しまれたこともあったけれど、今はそんなこと微塵も感じさせない程に接してくれる。

ただ、土方さんはどことなく銀さんに似ている。
顔形ではなく、雰囲気が。
佇まいや空気感が銀さんに少し似ているのだ。
それがいつも私を苦しくさせる。

土方さんには悪いけれど、私はいつも土方さんに銀さんを重ねてしまっている。

あの人に会いたい。
会いたくない。
今会っても言葉が見つからない。
でも会って顔が見たい。

銀さんの少し困ったように笑うあの顔が好きだ。
あの全てを包み込んでしまう逞しい腕が好きだ。
全てを背負い込んでしまえるようなあの広い背中が好きだ。
私の名前を呼ぶ低くて甘いあの声が好きだ。

いつも優しい銀さんが大好きだ。



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