「コショウ?マヨネーズじゃなくてですか?」




メンタル弱いって言ってる奴こそ実は一番強い





「なんの話してんだよ」
「え、土方さんがコショウって言ったんじゃないですか」
「小姓だよ!小姓!」
「コショウ?ですよね?」
「身の回りの世話とか!雑務とか!それすんのが小姓って言うんだよ!」
「あ、あの小姓ですね!」

聞き慣れない言葉をようやく理解できた私は、イラついている土方さんとは逆にスッキリしていた。
「で、小姓がどうしたんですか?」
「だーかーらー!お前何回も言わせんなよ!今日から俺の小姓になれって言ってんだよ!」
「え!?」

小姓とはアレだ。世でいうまだ十四、五の少年が殿に仕えるアレだ。
噂によればアッチのお世話もするとか昔テレビで聞いたことがある。
つまりはアレだ。私は土方さんの小姓、つまりは…
「んなことしねーしっ!」
「え…?!」
「お前さっきから頭の声がダダ漏れなんだよ!何だよアッチの世話とか!いつの時代の話してんだよ!」
「いや、だって小姓って言ったら…」
「例えだよ!そもそも小姓ってのは男のことを言うからな?!それにお前の歳で小姓なんてそもそも無理な話なんだよ!俺はポジション的なことを簡単に分かりやすく言ったまでだよ!」
「ようするに…土方さんの助手ってことですよね?」
「お前にわざわざ小姓なんて言葉使った俺が馬鹿だったわ…」

そんな訳でここに来て一ヶ月。
私は出世しました。いや、これは出世とは言わないか。
しかし、まさかの土方さんの側近になる日が来ようとは。


「ダーメ、銀さんは絶対許しませんからね」
変わって万事屋。
銀さんとまた恋人関係に戻ったのは良いけれど、問題は前回より遥かに増えていた。
まずは真選組の女中、もとい今は女版小姓であること。
そして総悟の隣の部屋に住んでいると言うことだ。

「今は人手が足りなくて、仕方ないっていうか…」
「だいたいあんなとこ住んでる自体おかしいからね?今すぐここに引っ越して来なさい」
銀さんは読んでいたジャンプを閉じながらピシャリと私にそう言い放った。
これ以上は何も言い訳出来そうにない。帰ったら総悟に何て言えばいいのだろう、そう考えるとちょっと憂鬱になった。

「まあまあ銀さん、名前さんだって好きでこうなった訳じゃないんですからね」
新八くんが温かいお茶と共にすかさずフォローに入ってくれた。
「どういう意味だよ」
「半分は銀さんのせいだって言ってるんです」
今度は新八くんが銀さんに対しピシャリと言ってのける。その姿はまるでお母さんのようだった。

「そーネ、そーネ!銀ちゃんがツッキーと浮気しなきゃこんなことにならなかったアル!」
「おい!そこ勝手にありもしねー記憶上書きしてんじゃねーよ!何で俺が浮気したことになってんだよ!」
「ともかく、銀さんが口出せる領域じゃないんですよ、名前さんだってお仕事でやってるんですから」
もっともなことを言ってくれる頼もしい新八くんは少し見ないうちになんだか大人っぽくなった気がした。

「しかもなんでよりによってあのマヨクソ野郎なんだよ!」
銀さんはとにかくそれが一番気に入らないらしい。内心申し訳ない気持ちはある。
でも、今更また自分の都合で仕事を辞めるだなんて考えてもいない。
これ以上真選組の皆に迷惑かけたくなかったし、世話になりっぱなしだったからだ。

「ところで名前、コショウって何アルか?」
「殿の後ろに付いて刀とか持ってる人を小姓って言うんだよ」
「あのマヨネーズ、殿になったアルか!?ついにゴリラ王国潰れたアルか?!」
「潰れてないよ、近藤さんも今まで通りで私は副長さんの助手だから」
「助手アルか!なんかエロい響きアル!銀ちゃんこれは怪しいアル!」
「そーだろ神楽!お前もそー思うだろ!?」
「ちょっ!神楽ちゃんまで!助手って言っても屯所内で事務仕事手伝ったりするのがほとんどだからね!?単なる雑用だからね!?」
「名前がそう思っててもあのムッツリマヨ殿様は何考えてるか分かんないネ!」
「そーだろ!?さすがうちの子神楽ちゃん!よく分かってらっしゃる!」

無駄に銀さんが盛り上がり始めたので私は少しイラついてしまった。
しかし反対されたところで仕事は仕事。どれだけ銀さんが反対しても真選組のことにまで口出し出来る訳でも無く、結局私はその後土方さんの助手として仕事をするようになった。


「近藤さんは本当に空気読めねェゴリラで困りまさァ」
「仮にも上司に向かって酷いね総悟…」
「なんでよりによってニコチン馬鹿のそばに置かせるような真似を…」
近藤さんはそんなに深くは考えていないはずだ。
多分土方さんが日々仕事に追われ大変なのを見て、気心しれた私を手伝いに行かせたまでだと思う。

「それならさっさと俺専属にさせときゃ良かった」
「お前の側近になったらコイツ即殉職決定だろうが」
縁側に座ってお昼休憩をしていた私と総悟の後ろから、土方さんがすかさずツッコミを入れてきた。
「女を戦場に連れてくなんざ聞いたことねーぞ」
「土方さん、アンタ阿呆ですかィ、コイツは戦闘が終わるまで車の中にでもいりゃいいんでさァ」
「え、なんの為の側近?」

私までツッコミを入れてしまった。
総悟は私をやたらとそばに置きたがる。
今に始まったことではないけど、ここに来てからと言うものそれに拍車がかかっている気がした。
だからと言って私自身は別に何とも思わない。
それが苦痛でもなければ煩わしい訳でもない。
私たちにとってはそれが普通なのだ。

それでも周りから見ると相変わらずおかしな関係のようで。
しかも銀さんはそんな私たちを見て気に入らないみたいだし、その上土方さんの側近となれば余計に気に入らないみたいだ。
でも、銀さんには悪いけど私は今が一番幸せかもしれない。

総悟と言う家族が一番近くに居て、愛する銀さんがそばに居てくれる。
こんな幸せな場所はもうどこに行っても無いと思う。


「単なるお前の精神安定剤の為にコイツ置いとくならやめとけ」
土方さんは立ったまま私たちのことを見下げて煙草に火を付けた。
「んなモンなくたってアンタの首跳ねるくらいなら楽勝ですぜ?目ェ瞑ってもやれまさァ」
「ああ?!テメェ上等だやれるもんならやってみやがれ!返り討ちにしてやるわっ!」
「ちょっと二人とも落ち着いて……」
私が間に割って入ると土方さんは今すぐにでも抜いてしまいそうだった刀の手を少し緩めてくれた。

「なんでェ土方さん、一丁前に万事屋の旦那に遠慮してやがんですか」
「は?誰があんな野郎に遠慮するかよ、だいたい何で遠慮なんかしなきゃなんねぇんだよ?」
「してるじゃねェですか、名前を返す方向に持ってこうとしてんじゃないですかィ、そんなに万事屋の旦那が恐いんですか?鬼の副長とも在ろうお方が、男一人の存在にビビり倒してるなんざ真選組始まって以来の痴態ですぜ?」

「ビビる?!俺があの白髪のアホに?!万年金欠の半分ニート野郎に?!寧ろビビる要素が一つも見当たらないんですけどぉ?!コイツが俺専属になってスッゲェ重宝してますけどぉ?!俺の仕事かなり減りましたけどぉ?!返してやる気なんか全くありませんけどぉ?!」
「だそうだぜ名前、お前はここで副長専属としてババァになるまで働け」
「なんかその言い方嫌なんですけど!?」

途中銀さんのことを万年金欠ニートと言ったのはちょっと引っかかったけれど、土方さんに私の存在が重宝してると言われると素直に嬉しかった。
やっぱりここでの仕事は充実している。
だいたいコネでも無ければ私はこの世界で職なんて無いのだ。
戸籍もなければ身内も保証人も居ない。そんな私がこの世界で生きていけるのは万事屋やその周りの人たちのおかげ。
そして真選組の皆のおかげなのだ。

以前と生活はガラリと変わってしまった。
万事屋にお風呂を借りることもなくなった。
銀さんと長屋までの帰り道を歩くこともなくなった。
それは寂しいとは思う。でも私はやっとここで、この世界で、自分の居場所を見つけた気がしている。



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