「で、お前はどーしたいんでェ」





女はこの世で一番強い生き物





「どうしたいって…」
土方さんが行った後、総悟に今後どうするのかと聞かれた。さっきここにババァになるまで居ろと言ったのはアナタですよね?
多分、総悟的には銀さんとヨリを戻した私がでここを出て行く選択もあると内心思っているのだろう。

「何も変わらないけど?」
「それこそ旦那が許さねェだろ」
「銀さんにはちゃんと了承得てるよ」
総悟は新八くんに私の居場所を教えた時に、これは賭けだと言った。
迎えに来ないなら縁が切れたと思え。
その言葉に私は少なからず覚悟は出来ていた。
そしてもう無理だと諦めてもいた。

けれど、銀さんは迎えに来てくれたのだ。奇跡が起きたのだ。
総悟としてはそれがあまり面白くなかったみたいだけど、当の本人曰く“予想は付いてた”だそうだ。
どこまでが本当かは分からないけれど、ヨリを戻したと報告した際も総悟は全然驚かなかった。

「さっさと旦那とヨリ戻すわ、あのニコチン馬鹿の側近になっちまうわ、尻軽にも程があんだろアバズレ」
「ア、アバズレェェ?!銀さんとはともかく!土方さんとは何でもないでしょ!単なる仕事のお手伝いしてるだけですけど!局長命令なの総悟も知ってるでしょ!」
「どうだかなァ、そのうち奴にコロッといっちまったりするんじゃねェの」
「なんでそうなるの?!」
「お前最初の方、ニコチン野郎のことイケメンだの男前だとか言ってただろ」
「言ってたけど…!それは単なるミーハー心で…!」

ズバリと的を当てられた気分だ。
確かに土方さんはいつまで経ってもイケメンだ。
だいぶ慣れて来たとは言え、屯所内でバッタリ会ってしまうと今だに普通に緊張するし、目が合った日には赤面してしまうこともある。
出来るだけ目を合わせないように、土方さんと話すときは斜め下の方を見るくらいだ。
それでも前よりは幾分自然と接しれるようになった方なのだけれど。

「そんなのがこれから毎日四六時中そばにいるんだぜ?自然とそーなっちまうのが男女の仲ってもんだろィ」
「不健全な考え方にいちいち持ってくからでしょ!?そもそも私には銀さんがいるし!」
「どうした名前さん、大声出して」
縁側でそのまま話し込んでいた私と総悟の後ろから、今度は近藤さんが現れた。

「総悟とケンカか?相変わらず仲がいいなぁ」
「いえ、その」
「近藤さん聞いてくだせェ、コイツ俺というものが有りながら土方さんとも関係持つ気ですぜ」
「ええ?!名前さんって万事屋とじゃなかったの?!いつの間に総悟に?!そしてトシまで?!」
「ちちちち違います!総悟の言うこと真に受けないで下さいよ!」
「そそそうだよね!名前さんがそんなことするわけないよね!」

近藤さんは汗をかきながら弁解していた。これは明らかに総悟のことを一瞬信用していた風だ。
そんな近藤さんを見て、私は一体周りからどんな女に見えているのか些か心配になってしまった。

「にしても近藤さん、なんでコイツを腐れ土方に」
総悟はずっと気になっていたのだろう。それをついに近藤さん本人から聞き出そうとする。
「トシの奴、前から小姓が欲しいと言ってたろ?まともなのがなかなか居なくて今まで延ばして来たが、名前さんならトシもやりやすいと思ってな」
近藤さんは少しドヤ顔をして腰に手を当ててこちらを見ていた。
自分の目に狂いはなかっただろう、とでも言っているようだ。

「なんで俺じゃねェんですか」
「え、総悟も欲しかったの?!でもお前事務仕事してないのに小姓もなにも…」
「事務仕事だけが小姓の仕事じゃねェでしょ」
まさか、ソッチ系の話?と、ドキリとしたのも束の間、総悟は明らかにこっちを見て怪しく笑っている。
絶対ソッチ方面で意味を捉えてるよ!何気に私と考えること似てるよこの子!

「唯一の女なんだし潜入捜査とか、おとりに使ったりとか餌として重宝しそうじゃねェですか」
「ソッチかい!」
「お前、ドッチ方面で考えてたんでェ」
「嫁入り前の名前さんにおとりとか餌とかそんな危ないことさせちゃいかんだろ!」
「どうですかねィ、コイツ…意外に大物釣り上げて来るかもしれやせんぜ…」
横目でチラリと総悟に見られた。相変わらず口元は嗤っている。
そしてこれは完全に高杉さんのことを言っているのだろうと早々に検討がついた。

「名前にそんな事したらワタシが許さないアル」
割って入った声は聞き慣れたものだった。
その声のする方を見ると、よく遊びに来る神楽ちゃんの姿が庭にあった。

「あ、チャイナさん」
「よお、ゴリさん久しぶりアルな」
「いや、一昨日会ったよね?一昨日またうちの茶菓子全部食ってったよね?」
「いい女ってのは過去は振り返らないネ」
「せめて一昨日のことくらいは覚えといてくれませんかね!?」
「てめーチャイナ、また勝手に侵入して来やがって、そのうち侵入者として俺に粛清されても文句言うんじゃねェぞ」
「うるせーよサド野郎!ちゃんと門から入ってきたアル、門番ももう知り合いネ、顔パスアル!残念だったな!」
「近藤さん、明日から門番代えやしょう」

神楽ちゃんは小さなビニール袋を持ってやって来た。
その袋には酢昆布の箱が何個か入っていた。神楽ちゃんなりの差し入れと言ったところだろう。
「オラ、お前らにこれやるからお返しに高級茶菓子用意するネ!」
「酢昆布ごときで偉そうに言ってんじゃねーよ腐れチャイナ」
「ちょっと待っててね、昨日女中さんにお土産で貰ったお菓子が確か…」
「お前何素直に茶菓子出そうとしてんでェ」
「よし、それなら俺は茶でも煎れて来よう」
「近藤さん、アンタ仮にもここで一番偉い人なんでそういうことしねェでくだせェ」
動き始める近藤さんを見兼ねて総悟が一緒に台所の方へと消えて行った。

「名前、ここに居て大丈夫アルか?」
「え?なんで?」
「いつかアイツらに餌として使われたりしないアルか?!コキ使われてないアルか?!」
「大丈夫だよ、今は土方さん専属だし前の仕事より体力的にはずいぶん楽させて貰ってるよ」
「なら、いいアル」
「心配してくれてありがとね」
神楽ちゃんは少し照れたように俯いた。

そして俯いたまま言葉を紡ぎ始めた。
「銀ちゃんはアホでだらしなくてビンボーなマダオだけど、すごくいい奴アル…」
「うん?」
「名前こと、すごく大事にしてるアル」
「うん」
「だから、銀ちゃんのこと見捨てないでやって欲しいアル」
「見捨てるって…」

今回のことで神楽ちゃんは何も言わなかったけど、きっと私が銀さんを見限ったのではないかと思っているようだ。
理由を説明するにはまだ神楽ちゃんには少し理解出来ないような事情や感情がある。
だから、また私たちは長い喧嘩をしていたということになっている。

「うん、絶対見捨てないよ」
だって私は銀さんに見捨てられなかった。
ちゃんと最後まで話し合ってくれた。考えてくれた。
こんな私を見捨てず、許してくれた。

「神楽ちゃん、色々心配かけて…ごめんね」
心からそう思った。
神楽ちゃんは毎日のように私の様子を見に来てくれていた。
理由も何も聞かずに、私のそばに居て万事屋との関係を唯一繋いでいてくれた。
彼女の行動ひとつひとつにとても感謝しているのだ。

「銀ちゃんが今度浮気したら私が責任とってあの世に送ってやるネ!」
「それ、めちゃくちゃ心強いね…」
「私はいつも名前の味方アル!」







-end-








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このシリーズはここで終わります。

最後までお付き合いいただき誠にありがとうございました。

また次の銀さんシリーズで楽しんでいただけたら嬉しいです。




2014.3.6
西島





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