「なんで混浴がないんだよ!!?」





お泊りには気を付けろ





やっと暖かくなってきた四月始め。
私は休みを利用して早速銀さんと一泊二日の温泉旅行に来ていた。

「この旅館なんで混浴とか内風呂が存在しないんだよォォ」
「混浴なんて今の時代なかなか無いよ?ある方が珍しいから…あと、内風呂が付いてる旅館は予算オーバーでした」
「露天風呂に知らねぇオッサンとジジィと入ってもなんも楽しかねーよ!なんの為の旅館だよ!ここは男と女がしっぽりヌルヌルする為のもんだろ?!」

いやいや、そんないかがわしいもんじゃないから。
銀さんの頭の中はほんとそんなことしかないの?中学生なの?エロいビデオの見過ぎじゃないの?
そう心の中でツッコミを入れつつも、隣で納得いっていない様子の銀さんはいつまでも嘆き続けていた。

「そもそも銀さんってそんなにお風呂好きな人じゃないでしょ…」
「バカヤロー!風呂場セッ○スは男のロマンだろーがァァ!心得とけっ!」
「知らんわ!」
「オイオイオイオイ名前ちゃんキミまさかそんなことも知らずに俺のこと軽々しく温泉旅行に連れて来たわけ?」
「軽々しくって…いや、別に普通に誘ったまでで…」
「オイィィィ!どんだけ天然エロ娘なのこの子ォォ!何も考えずに男を温泉旅行に誘っちゃうとかァァとんだ天然淫乱娘だねこの子はァァ!捕まっちゃうよ!?お巡りさんに捕まっちゃうよ?!銀さんと言うお巡りさんに捕まって色んな身体検査されて結果ヌルヌルになっちゃうよ?!」
「ヌルヌルから離れろっ!」

軽々しくも何も、銀さんとはそういう関係なのだから旅行くらい誘っても普通だと思ってる。
お互いいい歳して、今更お泊り旅行がいかがわしいとか不健全だとか言う人はこの時代誰もいないだろう。
ただ、期待度に関しては銀さんがメーター振り切っちゃってて温度差はかなり激しいようだ。

「とにかく、せっかく来たんだからゆっくり楽しんでこうよ、ね?」
「こうなったらもう色々と愉しんでやらぁ!ヌルヌルとかジャブジャブとかパンパンとか!」
「最低っ…」
やっぱり神楽ちゃんや新八くんを連れてこれば良かったと心底思った。
銀さんは色々と面倒すぎる。こんなテンションの上がり切った銀さん相手にとても私一人では対応出来そうもない。

「よし!そうと決まったら俺早速風呂入ってくるわ!」
「え、何が決まったの?!銀さんの中で何が決まったの?!」
「お前もさっさと上がって来いよ!夕飯まで時間あるからな!それまで運動しまくっとかねーと!」
もう嫌な予感しかしなかった。銀さんはさっさとお風呂セット一式を持ち、露天風呂に向かって行った。

「…さて、私も行こうかな」
溜め息混じりに腰を上げて、私も旅館の浴衣やタオルなどを抱えてお風呂に向かおうと廊下に出る。
すると廊下からドタドタと誰かがこちらに走って来る。
「ど、どうしたの?血相かかえて…」
それは先程、露天風呂に向かったはずの銀さんの姿。
何故か彼は額に汗を大量にかき、蒼い顔をしていた。

「で、で、出た…」
「出たって、何が…?」
この銀さんの様子だとまさかの自体が起こったのかもしれないと予想できた。
まさか、ここもスタンド旅館とか?!と、私まで冷や汗がドッと出る。
そんなァァ!ちゃんと口コミを見て調べて選んだはずの旅館なのに!

「人を幽霊みたいに言うのやめてくれやせんかねィ旦那ァ」
声のする方を見ると、そこにはある意味スタンドを超えるほどの驚きの人物がいた。
「そっ!総悟!?」
浴衣姿の総悟がこちらに寄って来る。
え?!これ生き霊?!生き霊なの?!

「お、お前まさか総一郎くんに行き先教えたんじゃねぇだろうな!?」
銀さんは私の肩を揺すり、あり得ないと言った顔をしていた。
「旅行に行くとは言ったけど、場所とかは詳しく行ってないよ…!な、な、なんで総悟ここに居るの?!」
皆目見当がつかない。何故こんなところに浴衣姿の総悟が居るのか。
銀さんに肩を揺すられながらも、総悟の方に顔を向けると奴は例の黒い笑顔で嗤っていた。

「甘いねェ、お前屯所のパソコン使って宿探ししてたろ?履歴辿ったら一発でさァ」
「こいつ普通にお前のストーカーじゃねーかっ!なんだよ天下の真選組はストーカーばっかりか!むしろストーカーが仕事なのかよ!ゴリラと言いストーカーばっかじゃねーか!警察官がこれじゃ世も末だ!」

嘆く銀さんを他所に、こっちにもいろんな意味での最低な奴が居たか…
そう思った時にはもう遅かったようだ。
「うちの保護者ゴリラが大層心配してたぜィ、嫁入り前の名前が男と旅行に行くなんていかがわしい!ってなァ」
居たよ、もう一人面倒臭い奴が。


「おい、総悟何して…」
「あー土方さん、名前居やしたぜェ」
角を曲がった所からひょいと姿を現したのは旅館の浴衣を着た土方さんだった。
「んなっ!なんでコイツまで来てんだよ?!」
銀さんが土方さんに対し指を指すと、土方さんは心底嫌そうな顔をした。

「おいおいどんだけ税金泥棒なんだよテメーらは!仕事そっちのけで女一人追ってこんなとこまでワサワサと男が何人もついて来るなんて馬鹿か!仕事しろよ腐れ公務員共っ!」
銀さんは私の肩を寄せて守るようにしては、総悟と土方さんに向かってまくし立て始めた。

「残念ですねェ旦那ァ」
「ハァ?!」
「これはお上からの任務なんでさァ、将軍様がお忍びで旅行に行きたいって言うもんだから、それの護衛でうちも何人か来てんでェ、なァ土方さん」
「まあ事実は事実だが、何もこの旅館じゃなくても良かったんだが総悟が」
「黙りやがれ土方ァ」
何はともあれ、結局は総悟が全て仕込んだんだろう。この辺は検討がつく。

「つー訳で、明日までせいぜい仲良くやりましょうぜ旦那ァ」
総悟がにっこりと微笑むと隣に居た銀さんは固まってしまっていた。
「最悪だ…」
一泊二日の短い温泉旅行がこうして幕を開けるのだった。



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