「んじゃ、俺たちはこれから将軍様の観光の付き添いなんで」




花より人生




総悟は旅館の前でチェックアウトする私たちを待っていて、顔を合わす成りそう言った。
銀さんは二日酔いである頭の痛みに耐えつつフラフラと総悟に近寄ると、尋常じゃない程に蒼白な顔をしながら睨み倒していた。

「アララ、旦那顔色最悪じゃねェですかィ、折角の名前との初旅行だってのに小学生の修学旅行じゃあるめーし、浮かれ過ぎでさァ」
「うるっせーんだよっ!誰のせいだと思ってんだよ!全部おめーのせいだろ!他人事みたいに言ってんじゃねー!」
「銀さん、大声出すと頭に響くよ?」
ほら言わんこっちゃない。
銀さんは割れそうに痛いであろう頭を抱えて二日酔いと闘っている。
見てるこっちが痛々しい。

「そういうのは自己責任なんで、まあ残り少ねェハネムーンの時間を有意義に使ってくだせェよ」
んじゃこれで、と終始自分は加担していない風な態度で総悟は真選組の一行に戻って行った。
邪魔するだけ邪魔して帰りは呆気ないし素っ気ない。
分かってはいたけど、どこまで自由人なんだアイツ。

「あーくそ…最悪だ…なんであいつらは平気な顔してんだよ…」
「そう言えば土方さんの姿だけ無かったね」
「へっ、どうせあいつも二日酔いで車の中で死んでるパターンだろ、ざまあみろ」
道連れだ、と痛みと嘲笑いが混ざってどうにもならない表情の銀さん。
負け惜しみに見えたのはきっと私だけじゃないはず。

「銀さんちょっと歩ける?」
「ん、ああ、そのうち二日酔いの薬効いて来るだろうから大丈夫だと思うけど…」
私は辛そうな銀さんの手を引いて、ゆっくり歩いて渓谷の方へ歩いた。
先程チェックアウトする際に旅館の人に桜の穴場スポットを聞いたので、そこへ向かうことにした。


「あ、あそこだね」
少し歩いた所に川と桜が綺麗にコラボレーションしている風景があった。
それはまるで旅行会社のポスターにでもなりそうなほどの景色だった。

「そーいや、旅館名物の夜桜見てねーし」
「私は見たよ」
「ハ?!誰と?!銀さんそんなの聞いてないよ?!どこの誰と見たの?!」
「真選組の総悟くん」
「やっぱりかぁぁぁ!!」
「だって銀さん昨日酔い潰れて寝たというか、倒れてたでしょ」
「そーだけどさぁ!そーなんだけどさぁ!」
なんだか納得出来ないと言った風に銀さんは分かりやすくスネていた。

「アイツはお前に依存しすぎなんだよなあ」
「依存?」
「あの年頃特有の独占欲みたいなとこあるだろ」
何となく言いたいことは分かる。
自分が把握出来ないところに居られるのがとても嫌だったり、その人に対して自分は一番ではないのかもしれないという若いなりの先走った不安定な感情があったりする。
そんな考えても仕方ないようなことを考える時期が誰にでもあるはずだ。

しかし、果たしてそれが総悟に当てはまるのだろうか。
確かに銀さんの言う通り、依存という言葉は合っているのかもしれない。
でもそれは単なる依存という枠には収まらないようなものの気がする。
総悟は私に依存し、私はそれを受け入れている。変な話、依存されていることが私は嬉しかったりもする。

それは私がこの世界に必要だとされているような気がしているからだ。
総悟は私の存在価値をこの世界に作ってくれている。
誰かに必要とされるのが存在意義だと私は思ってしまっているから。

だから総悟の存在は私がこの世界にいる存在意義の証明なんじゃないかと最近思うようになった。
私たちはそんな儚いような危ないないような、絶妙なバランスで成り立っている関係なのだ。


「依存、か」
「まぁその分では、俺も総一郎くんと一緒かもな」
「銀さんも私に依存してるの?」
「だいぶな」
「えー、どのへんが」
冗談混じりに笑えば、銀さんは少しムッとした顔をして私と距離を詰めた。

「俺とお前の間に男の子二人授かるらしいわ」
「さず?え?男の子?は?」
急に何を言い出すかと思えば。
「なに、銀さんまだお酒残ってんの?」
「さすがにシラフですけど」
「意味分かんない」
「夢の話だよ」
ああ、夢ね。そこで納得がいった私はまた笑って見せた。
すると銀さんはまたムッとした顔をした。

「お前の夢見るくらい、予知夢しちまうくら依存してるんですー!」
それは依存って言わないんじゃ?と思ったけど、総悟と張り合う銀さんが少し可愛かったのでそこは黙って納得しといてあげることにした。

「銀さん、そんな夢見て朝あんなにニヤついてたの?」
「まあなー、あと小さいお前が出てきた、それに一番ニヤついたわ」
「小さい?小人ってこと?」
「いやいや、そんなファンシーな夢見て俺がニヤつくかよ、お前が子供だった夢だよ」
「私が子供?よくそんな夢見れたね、すごい想像力…てかロリコン?」
「ちげーよ!!」

私が子供の頃の姿形なんて、銀さんは知らないはずなのによくそんな夢が見れたなあ、と不思議に感じた。
こっちの世界には私の小さい時の思い出のものはひとつもない。写真も物も何もない。
私の過去を知る人はこの世界には居ない。
なのに、夢にまで見てしまう銀さんの想像力もとい、妄想力は凄まじいものがあるとちょっと驚いた。

「因みにその男の子二人ってのは?」
「俺にそっくりな餓鬼が二人いたのと、あと何かワケの分かんねー奴らも何人か出て来たような…」
「銀さんそっくりな男の子二人か…」
想像すると私までニヤけてしまう。
これじゃ銀さんと同類項だと思われてしまう。
けれど、銀さんのあの幼少期の可愛さは案の定知っている訳で。思い出すとニヤつくのはもう仕方ない。

「お前までなにニヤついてんだよ」
「いや、銀さんってカッコイイなぁって」
「え?今更?今更それに気付いちゃった系?銀さんお前と出会った頃からカッコ良かっただろ」
「良かったけど、改めてね」
「ちょっと!なんで名前ちゃん今日そんなに素直なの?!どうしたの?!なんか悪いモンでも食ったの?!まさかその辺に落ちてるキノコ食ったんじゃねーだろうな?!神楽みたいなことしてねーだろうな?!」
それって神楽ちゃんに失礼でしょ。と思いながらも笑いの方が先に込み上げて来たので私は神楽ちゃんに悪いと思いながらもつい笑ってしまった。

「よし!名前!もう一泊してこう!」
「え?無理だよ明日仕事だし」
「マヨネーズ上司なんて一日くらいほっといても死にゃしねーよ、土産にマヨネーズ一本渡しときゃ機嫌も直るだろうし、とにかくほっとけ」
「そういう訳にも…」
「銀さんとマヨネーズ、どっちが大事なの?!」
「女子か!」
「ばっか!そこは即答で銀さんと答えるべきところだろ!?もしかしてお前マヨネーズといかがわしい関係じゃねぇだろうな?!オフィスマヨとかやっちゃってんじゃねぇだろうな?!」
「オフィスラブでしょ?!なに、オフィスマヨって」
「マヨネーズプレイとかやってねーだろうな?!」
「やめてよ勝手に変な想像しないで!」
「よし!今度俺と生クリームプレイしよう!いや、チョコレートプレイでもいい!」

二日酔いはどこへやら。
銀さんは帰りの電車の中でもずっとそんな下ネタの話を目を輝かせて話していた。
結局桜を観に行くと言うよりは酒と下ネタばかりの旅行になってしまった気がしてならなかったけど、それでも銀さんとの初めての旅行はとても楽しかった。


夕刻前、新八くんと神楽ちゃんにお土産を渡そうと万事屋に寄ることになった。
戸を開ける前に銀さんは足を止め、コッソリと私の耳に囁いた。

「温泉プレイはまた次回に持ち越しな、そん時にでもガキこしらえるか」
衝撃の一言に私の顔と心臓に一気に血液が集まるのが分かる。
「ういー、帰ったぞー」
「名前!銀ちゃん!おかえりアル!お土産なにアルか!?」
「神楽ちゃんはすぐお土産なんだから…二人ともおかえりなさい、ってあれ?名前さん顔真っ赤ですけどどうしたんですか?熱でもあるんですか?!」
「銀ちゃんニヤついてるネ!キモいアル!」



top
ALICE+