それはとんでもなく甘い誘惑だった。




愛のひととき




酔い潰れた銀さんを迎えに来て欲しいと長谷川さんから連絡があり、私は夜中にも関わらず真選組の屯所を後にした。

明日が休みじゃなきゃ絶対こんなことはしない。
そう思いながら寝る直前だった私はスッピンのままでサラリと簡単なワンピースに着替え、ラフな上着を羽織って足早に銀さんの元へ向かう。
いつもなら長谷川さんに「その辺に捨てといて下さい」とだけ言って電話を切り、また布団に潜って寝ていただろう。

しかし今回は休みの前日…日付は変わってもう休みの日だけど、こんな日じゃない限りは絶対銀さんを迎えに行ったりはしない。
そして今日こそは酔い潰れるまで飲むなと説教してやろう。
そう思っていたはずだった。


銀さんを半分担ぐ状態で万事屋に入った瞬間、無理矢理押し倒された。
「ちょっ!銀さん…何考えてんの!?」
「だぁいじょぶだよ、神楽ちゃんと定春ちゃんは雌ゴリラのトコにお泊まり行ってるからぁ」
呂律が怪しい銀さんはやはりかなり酔っていた。

「や、やめてってば!」
首に頭を埋めてくる銀さんの髪を掴み、引き剥がそうと試みる。
「いってぇよ名前ちゃん…毛ぇ抜けるから、やめなさぁい」
「場所考えなってば!てか飲み過ぎなんだよ!この酔っ払い!」
抵抗しても銀さんはお酒の勢いもあってか、一向に力を弱めてくれなかった。
それどころか耳元で普段言わないようなセリフを吐き始めたもんだから、私までそんな気になってしまう。

「名前…」
このとてつもなく甘い声で名前を呼ばれてしまえばどんな女だって逆らえなくなるだろう。
普段は愛なんて語る銀さんじゃない。
なのにお酒が入ると少し人格が変わるのか、愛してるだの可愛いだのとくすぐったい言葉を並べてくる。

「ぎ、銀さ、せめて…っ…布団に」
「む、り…我慢できねっ…」
あれよあれよと下着だけ取られ、銀さんもスボンを少し下げ太ももに銀さんのものが当たったかと思った矢先。
「っーーー」
一気に貫かれたそれはふしだらな程に銀さんをあっさりと受け入れてしまった。
衝撃の次にやってくるのはやはり快感。
「や、だ、銀さんっ…!」
「やべぇ、すっげぇ気持ちいい…」

あっという間に快感の渦に飲まれ、何も考えられなくなる。
体の甘い痺れとぞくぞくとした気持ち良さが体中を埋め尽くしていく。
玄関先で、夜中とは言え鍵もまだ掛けてない所でこんなことに及ぶ。それがまた興奮を掻き立てた。
何度も何度も出し入れされ、淫らな音がどんどん強くなっていく。

「あー、名前、やべぇ…俺、先イキそ」
「や、やだ、まだ待って…っ」
きっとここで銀さんが果ててしまったら、そのままダウンして寝てしまうに決まってる。
「ムリムリムリ!生やべぇんだって…!しかもお前まじ締めす、ぎっ…あーやばい」
ベラベラと喋りながらも腰はしっかり動いている銀さんは、口とは逆に余裕がないようだった。

「い、一回止めてっ…」
「無茶言う、なよっ…」
肩を押し返して銀さんに止まれと促す。
ただでさえお酒で体温と心拍数が上がっているというのに、それに加えてこの運動だ。
銀さんのちらりと覗く額には汗が滲んでいた。

「やだっ…ゴム、してないし…」
「名前っ…」
「いや、あっ…ぎ、銀さっ…」
抵抗して暴れてもしっかりと抑え込まれ、上下に揺さぶられる。
ダメだと分かっているのに、もう体がどうしようもなかった。これが本能と言うものなのだろうか。
銀さんの子供なら欲しいかもしれないと、頭の片隅で無責任なことを思ってしまった。

「名前っ…まじで…ガキ、作る、か」
動きながらこちらも無責任な一言。
いや、銀さんが無責任なことを言うとは思えなかったけど、酔った勢いもあるのだろう。
きっと今のアルコールが入った頭では本心かどうかも怪しい。
「ダ、ダメだってば…!」
その後、銀さんは何も話さずに荒い息と熱い体を重ねたまま果てた。



「わりぃ…服汚したな…」
居間からティッシュ箱を持って来て私に差し出す銀さんはまだ熱を纏っていて、とても官能的だった。
ジッと見ているのが恥ずかしくて、ティッシュ箱を受け取ってすぐに顔を逸らした。

「銀さん、飲み過ぎ…」
「酒なんかとっくに冷めてらぁ」
「っ…」
簡易な黒いワンピースに飛び散った銀さんのものはティッシュで拭おうが綺麗になる様子はない。
「それ、脱いで洗濯機突っ込んどけ、明日まとめて洗うから」
「いや、いいよこのまま帰るから…」
「おい名前…」

今度は切ない程の低く甘い声で名前を呼ばれ、さっさと立ち去ろうと思っていた私の後ろから腕が伸びる。
あ、と思ったらもう背中には銀さんの熱があった。

「うそつき」
「何が」
「酔ったフリしてるなんてサイテー」
「いや、ここに着くまではマジで酔ってたっつーの」
「狙ってたんでしょ」
「何のこと?」
「神楽ちゃんが新八くんのところに行ってるのも、私が明日休みだってことと偶然な訳ないよね」
「…」
「銀さん」

後ろから回る腕にさらに力がこもる。
銀さんの腕にこうやって閉じ込められるのは好きだ。
安心して全てを預けたくなる。
「泊まってけよ…」
「…」
「悪かったよ、夜中に呼び出して……普通に誘ったらお前来ないと思ってさぁ」
「だって銀さん、めちゃくちゃするでしょ」
「いや、だってさ、久々となるとそりゃ頑張っちゃうのが男ってもんでしょーが」
「こんなのデリヘルみたいでヤダ」
「デッ!デリヘルってお前…」

女はナイーブな生き物だ。
愛されたいけれど、毎回体を求められるのはちょっと違う。
もちろんそういった行為に愛は感じるけど、でもそればっかりでは嫌なのだ。
そんな女独特の気持ちとは逆に、銀さんは前より会えなくなった貴重な時間を体で埋めようとする。

「銀さんそればっかじゃん」
まるで子供の言い方だったことに、言葉を発した後に後悔した。
「わーったよ、んじゃ今日はもうやらねーから」
やらないから?帰れってか?
いよいよ銀さんも女って面倒くせぇ宣言か?
もしそんなこと言ったら平手どころかグーパンしてやる。

「パジャマ適当に俺の着とけ、んじゃ俺はザッとシャワー行ってくっから」
睨みをきかしていた私を無視するように、銀さんは眠そうにしながら風呂場にとっとと消えて行った。
予想とは違った展開に少し呆気に取られたけれど、面倒臭い発言をされなくて素直に安心してしまう。


烏の行水のように本当にザッとシャワーを浴びて来たであろう銀さんは、まだ湿った髪のまま布団に潜り込んできた。
「なんで服着てんだよ」
「パジャマ適当に着とけって言ったの銀さんでしょ」
「てっきり裸で待っててくれるとおもったのによぉ」
「さっきの話聞いてた?殴っていい?」
「冗談だよ!ちょ、名前ちゃんグーで殴ろうとすんのやめて!せめてパーにして!」

一通り言い合いをしているとお互いの熱で布団がホカホカしてきて眠気が一気に押し寄せてくる。
「そのパジャマ…」
「これ、銀さんの匂いがする…」
部屋に適当に置いてあった銀さんのパジャマを拝借すると、それは銀さんの匂いでいっぱいだった。
お布団と同じ匂いがして銀さんに包まれている気持ちになる。

「それ、三日目のやつ」
「…最悪…」
「いや、洗おうと思ってたんだよ」
「別にいいよ、銀さんのだし…それより髪、乾かさないと朝寝癖爆発するよ?」
「もういい、めんどくせー」
「歯はちゃんと磨いた?」
「風呂場でついでに磨いたーって、お前は母ちゃんか」
横になってふっと笑った銀さんが妙に色っぽくてドキリとしてしまう。

「違います…」
「そうだろうなぁ、母ちゃんとこんなエロいことはできねーもんなぁ」
うつらうつらしていた私にピッタリとくっつく銀さんは、ゆるりと腰に手を巻き付けてきた。
「ちょっと、話聞いてた?」
「これ以上はなんもしませんー」
「苦しいよ…」
銀さんの胸板に顔を埋められるのは嬉しいけど、これから寝るとなるとこの体勢は結構つらい。

「んじゃ、チューしてくれたら仕方なしでおとなしく寝てやるよ」
「なんで上から目線?」
若干笑いが込み上げてきたけど、すかさずツッコミを入れつつ顔を上げて銀さんの唇に近付いた。

「なぁ、名前」
「な、なに」
もう少しで唇に触れるかといったところで銀さんは低めの声で私の名前を口にした。
「ガキの話は、マジで…考えとけ、よ…」
「…え?」
そう言ったのも束の間。
銀さんは睡魔に負けたのか、瞼が落ちたかと思えばすぐに規則正しい寝息をたてていた。




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