それは日帰りのはずだった。




よくあることは自分にも降りかかる




「な…な…」
わなわなと駅前で真っ青な顔をしている土方さんの隣で、私も内心ヤバイなぁと結構困ってしまった。

結局日帰り出張のことは決定事項となり、今日がその日だった。
電車を乗り継ぎ到着後、色々と手続きやら下見やらしているとあっと言う間に夕方になり今に至る。

「どうにかなんねぇのか!?」
詰め寄る土方さんの鬼のような形相にも駅員は怯むことなく、こればかりはどうしようもありませんので大変申し訳ありません、や、今日はもう運行出来る状況ではありません、とマニュアル通りの詫びを入れるばかりだった。

「線路付近で爆発事故って……物騒ですね」
駅の電子伝言掲示板からは、途中線路付近のビルが爆破されたと言うニュースがひっきりなしに流れていた。
この分では本当に今日のうちに電車は動かないだろう。
すでに日は傾き始めていて、駅には電車に乗れなかった人々が溢れ返り、タクシーやらバスやらを探すのにてんやわんやになっていた。

「土方さん、タクシー並びますか?」
「あ、ああ…」
人を掻き分けて駅の外に出ると、わりと大きな駅のためかバスやタクシーは沢山通るようだった。
しかしそれよりも人の長蛇の列が多過ぎて、とてもじゃないけどタクシーに乗れるのはいつになるのかと途方もない程だった。

「これ、乗る頃には朝になってそうじゃないですか…?」
「んじゃ屯所の奴に迎えに来て貰うか」
「あ、その手がありましたね!」
パトカーを使えば一発じゃないか!と私の喜びは三分後には消えて去っていた。

「そうだった…俺らは警察関係の人間だった…」
「そうですよね…爆破事件なんですもん、皆出払ってるに決まってますよね…」
屯所に連絡したところ、隊士はほぼ皆出払っており、パトカーは一台も無いとのことだった。今屯所に居るのはせいぜい数人の隊士と女中さんくらいだろう。
私は一瞬、万事屋に連絡をと考えたが距離的なこととか色々考えた結果無理だと決断し、その選択肢は頭から消すことにした。

「まぁそのうち総悟あたりから連絡くるだろうよ、アイツ最後まで気にしてやがったし」
確かに今日までブツクサ言っていたのは意外にも銀さんより総悟の方だった。
銀さんは凄く我慢して大人の対応をしていたけど、総悟は見るからに機嫌が悪く周りに気を遣わせていたくらいだ。


「とりあえず…泊まるとこでも確保するか」
「そうですね…」
何と無く気まずい空気が流れるのが分かった。
別に一緒の部屋とかはまず無いけど、お互いいい大人としてこの状況は嫌でも意識してしまうものだ。
普段土方さんとはひとつ屋根の下で生活しているにも関わらず、少しばかり状況が違うとどうも意識してしまう。

駅から歩いていくつかホテルを回ったがやはりどこも満室だった。
皆考えることは一緒なんだと肩を落としてしまう。
まさかこのまま野宿?せめて漫喫とかカラオケ屋の椅子でもいいから横になって寝たい!
そう思っていると最後の希望であるビジネスホテルに聞きに行っていた土方さんがホテルから出てきた。

「どうでした?」
「空いてたには空いてたんだが…」
「…ま、まさか…」
この展開はよくありがちだ。
こんなベタな展開がまさか私の身に降りかかるなんて!

「ツインが一室空いてた…」
「ツインンンン!!?」
この展開はダブルとちゃうんかい!と、私は変な妄想に囚われいたのか心の中で何かに対してツッコミを入れていた。
「どうするんだよ…」
「いや、ツインなら取りましょうよ!ツインなら問題ないでしょ!ていうかツインが余ってるとか!」
「何回ツイン言うんだよ」

ベッド別々なんだし!と思いながら今日の野宿は免れたのがとても嬉しくて、妙にテンションが上がってしまった私を見て土方さんが若干引いているのが分かった。

さっさとそのホテルで部屋を取り、鍵を預かり例のツインルームに向かった。
途中他のお客さんとすれ違った際にチラチラと見られているのが分かる。
「やっぱこの格好だと目立つな…」
土方さんは舌打ちをして自分の格好に文句を付けていた。
上のジャケットは脱いでいたとは言え、ベストでも明らかに真選組だと分かってしまう隊服が今はとても邪魔くさいようだった。

「しかも女と同じ部屋に入って行く訳ですからね、警察が何やってんだって思われてますよね」
あはは、と他人事のように笑うと部屋の鍵を開けていた土方さんに睨まれてしまった。
「あながちお前はデリヘル嬢ってとこか」
「デッデリヘル?!」
「まだ明るいうちから仕事ほっぽり出してホテルにデリヘル嬢呼んで市民の税金使ってる公務員ってとこだな」
「うわぁ、それすごい悪どい公務員ですね…」

そんな冗談を言い合いながら部屋に入って荷物を置く。
「思ったより広いんですね」
「一人で使うにはまあまあの金額の部屋だしな、それで余ってたんだろうよ」
部屋にはセミダブルのベッドが適度に距離を置いて二つ配置されており、ツインルームとあってソファもありなかなか広々としていた。
これなら適度な距離を保っていられるので少し安心してしまう。

「飯でも行くか?」
「あ、行きましょう!すっかり忘れてましたね」
そうして私達はまた外に出てホテル近くの定食屋で夕食を済ませた。
ちょっと前までは土方さんとご飯を一緒するなんて考えただけで緊張していたけど、真選組に住み込むようになってからはずいぶん打ち解けて自然体で過ごせるようになって来ていた。

しかし、今のこの状況は正直意識してしまう。
してはいけないと思う程、意識してしまう自分がいる。
なんたってこの色男と一晩同じ部屋で過ごし、朝を迎えないといけないのだから…




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