穴埋めをしようか。




熱中症には気をつけましょう





「俺の誕生日、忘れちゃいねーだろうなァ」
そう言っていつものように土方さんの部屋で雑務に追われている私の背中にもたれかかって来たのは、額に目が描いてあるアイマスクを装着した総悟だった。

いつもと少し違った雰囲気なのは、隊服が夏服に衣替えされたと言うことだけだ。
まだジメジメが残る七月始め。それでも天気の良い日は蝉が鳴き始め、梅雨は終わってないものの夏を感じさせるには充分だった。

「重いし暑いんですけど…」
「質問に答えなせェ」
「覚えてますよ」
「旅行でも行くか」
「はぁ?!」
全力ではぁ?!と言うと総悟が背中から退き、私の隣へ座ってとてつもなく不可解な顔をしていた。
まるでお前何言ってんの?と言わんばかりの表情だ。

「いやいやいや、この前の騒動で銀さんにどれだけ疑われたと思ってんの?!」
「舌の根も乾かねェうちにまた浮気ってか」
「またって、アレ浮気じゃないし!仕事だし!だいたい事を大きくしたのは総悟でしょ?!」
「そりゃ、あんな一大事を旦那に黙っておくなんて俺の良心が痛むってもんでさァ」
「良心?!総悟に良心なんてもん存在すんの?!事を荒立てたいだけでしょうが!」
「俺は旦那の味方なんで」
「アンタは誰の味方でもないわ!」

あれから総悟は即万事屋に出向き、事の一部始終を早速銀さんに報告していた。
銀さんは逆上して“ついにマヨネーズを抹殺する時が来た”とか言って真選組に乗り込もうとするわで、てんやわんやになったのだ。
頼むから銀さんとの間にはもう波風を立てないで欲しい。
前歴があるだけにどうしてもそう言う話は少しでも避けたかったのが本音だ。

「ま、どうせその後、旦那とはヨロシクやったんだろ?」
デリカシーの無いことを…
確かにその後、銀さんを宥めるのにかなり苦戦したけれど、結局は身体チェックだのと言って散々布団の中で検査と言う名の大人の身体チェックをされたのだった。
それで疑いが晴れたから良かったものの、総悟の口の軽さは日々軽量化しつつある事にかなりの問題を感じていた。


「俺と旅行なら旦那も許してくれまさァ」
「いや、普通に無理だと思うよ」
「チッ、心の狭い男だ、旅行のひとつやふたつ」
「だいたい夏は真選組忙しくなるんでしょ?」
「…知らねェ」
「なーにが知らねぇ、だよ、毎年の事だろうが」
部屋で書類整理をしている私たちを廊下側から見ていたのはこの部屋の主の土方さん。
総悟の先程のセリフを聞いてか、心底機嫌の悪そうな顔をしていた。

「夏は犯罪が増えるって基本中の基本だろうが…知らねぇフリしてんじゃねぇぞテメェ」
「なら俺ァ夏祭りの警備でもやりまさァ、夏祭りもスリやら色々あるんで警備も大変だ」
「嘘付け、お前それを口実に夏祭り満喫するつもりだろ?警備してるフリして綿あめ食ってるパターンだろ?」
「俺はりんご飴派なんで」
「どっちでもいいわ!」

いつものこのパターン。
総悟がいつも余計なことを言って土方さんを怒らせる。
いつもの流れと言えど、度を越すと斬り合いになり兼ねないので私は止めに入るのだ。

「流暢に旅行なんて行ってる暇なんかお前にはねぇぞ」
「ったく、俺の人生で最初で最後の青春くらい満喫させてくだせェよ」
「だったら他に女でも作れ、多少なら目ぇ瞑ってやらなくはねぇぞ」
「土方さん差し置いてそれは出来やせんぜ?さっさと嫁貰ってくだせェよ、後がつかえてるんでさァ」
「俺に遠慮してんならお門違いだ、下が片付くと俺の肩の荷が下りるってもんだ」
「それを言い訳にいつまでも名前を側に置いとくつもりじゃねェでしょうねィ?」

更に険悪な空気になって来た。
これはマズイと思い話題を変えようとすると、そこに丁度いつものように可愛い少女がひょっこりと現れた。

「オマエら税金泥棒の分際で名前に言い寄ろうなんざ、身の程知らずもいいとこアルな」
可愛い姿形とは真逆のような口の悪さ。
そんな神楽ちゃんも夏服になり、大判の傘を差して出来るだけ陽に当たらないようにとその白い肌を守るようにしていた。

「神楽ちゃん、いらっしゃい」
いいタイミングで現れてくれたことに少しばかりホッとするのも束の間。
神楽ちゃんはいつものように土方さんの部屋に入り、ドカリと私の目の前に座るとこちらに向かってキラキラとした目を輝かせてこう言った。

「名前、海アル!来週末空けておくネ!」
「え?」
急なお誘いはいつものことながら、神楽ちゃんの“海”と言うフレーズにどうもピンと来ない。
「銀ちゃんが海に連れてってくれるアル!名前、海アルよ!水着でキャッホーするアル!」
「み、水着って…」

神楽ちゃんの水着姿を想像してきっと可愛いだろうなぁ、赤い水着なんて似合うだろうなぁ、とか色々考えていると隣からまたとんでも無い一言が。

「土方さん、俺来週末に休暇取りまさァ」
「ぜってー言うと思ったわ!!」




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