驚愕した。




忘れた頃にまたやってくる




驚愕なんて言葉、私の人生で使う時が来るなんて思いもしなかった。
「うそ、でしょ…?」
「確か前にもあったねぇ、こんなこと」
見たことはある、あるけどこれが現実なのかは信じ難かった。

銀さんが倒れたのを目の前にし、気が動転した私は救急車を呼ぶ前に下に居るであろうお登勢さんを階段を転げ落ちるように走り、急いで呼びに行っていた。
そしてたまさんとお登勢さんがすぐに駆け付けてくれ、万事屋に戻るとそこには銀さんは居なかった。

いや、居た。と言った方が正しいのだろうけど、この場合は居なかったと言えば居なかった。
いや、存在自体は居たのだけど…でもそれが銀さんかと言えばそうでもない、けれど銀さんなのは確かなようだし…
「名前ちゃーん?テンパってんのは分かるけど俺だからね?銀さんは銀さんだからね?」
そう、目の前に居るのは確かに銀さんだ。
銀さんの服を身にまとっている。
けれど明らかにそれは女性の体をした銀さんだった。

「銀時、アンタなんでまたこんな姿になっちまったんだい」
「いや、俺が聞きたいんですけどー」
「思い当たる節は?」
「なんもねぇ、いつも通りパチンコ行って帰って来ただけだしなぁ」
「相変わらず廃れてるねぇ…」

そんな二人の会話もなかなか耳に入って来ないまま、私はずっと銀さんであろう人物を見ていた。
小さい顔に華奢な体。いつも着ている服は何故かその小さな体にフィットしていて、そこからたわわな胸の谷間が覗いていた。
パー子さんではない。あれは本物の胸だ。
銀さんはいつかあったあの事件と同じことになっていたのだ。

「前みたいな光は見てねぇし、他の奴らも何ともねぇし…俺だけっておかしくね?」
「だからその原因になるようなことを聞いてんだろ」
「だって思い当たる節が全くねーんだよ!帰って来て腹減ってたから置いてあった菓子食って寝てただけだし!」
「菓子?」
お登勢さんが不可解な顔をする。
私もまさかとは思ったけど、貰った相手が相手なだけに原因である確率はかなり高そうだ。

「銀時様、このチョコレイトに何か入っていませんでしたか?」
たまさんらはお菓子をひとつ掴むと、包紙を器用に開けた。
その中にはシェル型をしたチョコレートがコロリと入っていた。
「ウイスキーボンボンだろ?中にどろっとしたもんが入ってたぞ」

たまさんはそのチョコレートを半分にキレイに割ると、一欠片を口の中に入れてしまう。
一瞬、彼女がアンドロイドだと言うことを忘れていたので心配になったけど、何食わぬ顔でこれはウイスキーボンボンではないと分析し始めた。

「おいおい、なんだよ結局何だったんだよそのリキュール的なもんは」
「何か薬のようなものですね、私のデータにはない分析結果が出ました」
「薬ぃぃ?!」
「なんでそんなもんがこの洋菓子の中に入ってるんだい…」
それぞれ皆が口々にそう言うと、私の方を一斉に見た。

「は…犯人は私…で、す…」
私はことの一部始終を三人に話した。
高杉さんにたまたま会って、このお土産を手渡されたこと。
そしてこれを居間に置きっ放しにしてお風呂に入り、それをタイミングがいいのか悪いのか帰って来た銀さんが勝手に食べてしまったこと。

「ほんと、タイミングが悪すぎとしか言いようがないねぇ…」
お登勢さんは溜め息をつき、銀さんもとい銀子さんを睨んでいた。
「なんだよ俺が悪いのかよ!」
「あんたが勝手に人のもん食べるから悪いんだろ!」
「名前の物は俺の物!俺の物も名前の物だし!そういう仲だし!」
「知らんわ!とにかく!何処か痛いとかないなら問題は無さそうだね」
「痛くはねぇけど色々と問題だろこれ!?」
「食べ物の効果なんてたかがしれてるだろうさ、そのうち効果が切れるさね」

様子を見るしかないね、とお登勢さんは冷静にそう言ってさっさとお店の方へ戻って行ってしまい、たまもそれに着いて行き結局はまた銀さんと二人部屋に残される結果となった。


「名前ちゃんさぁ」
「ご、ごめん、私のせいでこんなことに…」
「…いや、俺も勝手に食っちまったし、お互い様ってやつだな」
高杉さんのことに関してはどうやらお咎め無しのようだ。

「しっかしアイツ、一体何考えてやがんだ…名前にこんなもん渡しやがって」
銀さんはせっかくの綺麗な顔立ちを歪め、険しい顔をしていた。
高杉さんに対し苛立ちを隠せないでいるようだ。
そんな銀さんを見て不謹慎にも美人だなぁなんて思って顔を凝視していると、ふとお互い目があった。

「つーか、俺女になっちまったけどどうすんだよ」
「え、どうって」
「夜の営みだよ」
「いっ……バッカ!今そんな話しなくてもいいでしょ!?」
「大事な話でしょーが!俺こんなんじゃお前のこと可愛がってあげられないでしょーが!」
「やめてよ!可愛い女の子の顔してそんな下ネタまがいの発言しないでよ!」
「中身は銀さんだからね!?こう見えても中身はいい歳した大人の男だからね?!」
「やめてぇぇ!」

美人が下ネタ言う程痛いことはないと、私は耳を塞いだ。
銀さんの存在そのもののはずの可愛らしい銀子さんは、銀さんでいて銀さんではない。

「ていうか、明日の海は…銀さんまさかその格好で行くの?!」
「別に問題ないだろ?女物の水着着て行けば何の問題もないだろ?」
「そ、そりゃそうだけど…行くの?」
「行くさ!お前の水着姿見たくてわざわざ海に行く計画立てたんだからよ!?」
「…」
「あ、違う、神楽ちゃんがどうしてもお前と海行きたいって言うもんだから!」
「…」
「名前ちゃんやめてよそのジト目!!銀さんだって男子なんだから女子の水着見てニヤニヤしたっていいじゃん!彼女の水着姿見てニヤニヤするくらい可愛いもんだろ!」

本当にその顔でやめて欲しい発言を連発する銀さ…銀子さんは隣に座っていた私にじりじりと詰め寄って来た。
「水着であんなこととかこんなことしたかったのになぁ」
「だから!そういうことっ!」
「あ!俺この姿だったらお前と一緒に更衣室入ってもおかしくねーのか!ヤッター!」
「ヤッターじゃない!!」

その後、神楽ちゃんが帰って来て事情を話すと「銀ちゃんの食い意地が招いたことネ」と鼻で笑ったのが火種になり、またいつものように銀さんと言い合いを始めていた。




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