「銀さんっ…ちょっと!待って!」




百合の花の話です




「神楽ならイビキかいて寝てっから大丈夫だって」
「そういう問題じゃないでしょ…!」
神楽ちゃんが居るのももちろん問題ではあったけれど、今この状況で一番問題なのは銀さんの姿だった。

私は今、中身は銀さんで外見は銀子さん…いわゆる性転換パターンの銀さんに組み敷かれている。
布団はいつものように二枚並べ、銀さんと並んで寝る流れだった。
今日に至っては銀さんはこんなだし、何もなく寝るもんだと思い込んでいただけに、銀さんが私の布団に潜り込んで来た時はさすがに驚いてしまった。

「い、今のこの状況理解できてんの?!」
「別に、やることは変わんねーから」
「いやいやいやいや!変わるよ!銀さん今、女の子なんだよ?!」
上から迫ってくる銀さんを押し返すと、いつもは無い柔らかい感触が手に伝わった。

「っ…」
思いっきり銀子さんの胸を腕で押し返している状態だったことに気付くと、何故か妙にいたたまれない気持ちになる。
いくら銀さん本人とは言え、外見がこうも変わってしまうと銀さんとして見れない部分があったからだ。
「姿形が変わっても、気持ちは変わらねぇのが真実の愛ってもんだろ」

そんなのおとぎ話の話だ。
現に私は今目の前に居る銀さんの姿形に愛情なんてあるのか怪しかった。
中身の銀さんはもちろん好きだけど、銀さんの外見だって大好きなのだから。
それが無くなってしまった今、半減とは言わないけれど男の銀さんよりは確実に愛情は劣る訳で。

「じゃあ、銀さんは私が男になっても愛せるの?筋肉ダルマになっても?毛深いゴリラみたいになっても、中身が私なら毎晩愛してくれる訳?」
「え?なんか例えが酷くね?それってどっかの局長さんじゃねーの?」
「じゃあ、桂さんみたいな美形だったらイケる?」
「いや、イケるイケないってなんの話してんだよ…ゴリラもヅラも御免こうむるわ」

やっぱり銀さんだって外見が男ならかなり問題があるはずだ。
中身が私だからって、見た目がいかついオジサンになってしまったらきっと今まで通りとは行かないに決まってる。
「お前が男って…想像出来ねーしなぁ」
組み敷いたままの銀子さんは頭を悩ませている。
どんな姿形だろうが、確かに銀さんは銀さんだ。
たまに垣間見える仕草や癖なんかは銀さんのまんまだし、喋り方なんかもそのままだ。

もし、このまま銀さんが元に戻らなかったとしたら、私はどうするのだろうか。
女の子を愛するのだろうか。
果たして無条件に心の底から愛せるのだろうか。
銀さんは銀さんだし、見た目が変わってしまっただけだと言われればそれまでだけれど、そんな軽い問題でもない。
ましてや性別が変わってしまったなんて、美女と野獣もビックリなお話な訳で。

「お前が男……なんか、夢で見たよーな…」
「夢?」
「いや、何でもねぇ、まぁお前が男になっても多分イケるわ」
「嘘だー」
「なんなら試してみるか?」
「試すって…?」
「まだあの菓子残ってただろ」
「定春が食べちゃうといけないからお登勢さんに処分頼んどいたよ、てか私は食べないからね!?」
「なんだよ、ねぇのかよ、お前が男になったら夜の営みも問題なかったのになぁ」
「結局そこですか」

行き着く先の問題は結局そこのようだ。
銀さんはそのことばかりしか頭にないのは女の子になっても変わらないようだった。
「男女逆転か…」
ちょっと妄想してまう。
銀さんが女の子で、私が男になる。
そうなるとやはり銀さんを下にして私が頑張るって感じなのだろうか。

そりゃ生まれてこの方、男の立場になったことなんてもちろん無いから想像もつかないけど、いつも銀さんにされているようなことを私が銀さんにするってことなんだろう。
そうなると銀さんが女の子みたいに感じちゃって喘いじゃったりするのだろうか。
やばい、それはそれでやばい。
ダメだ、私これじゃ変態だ。

「いや、立派に変態だろ」
「え?!」
「めっちゃ声に出てましたけど」
ああ!またやってしまった!と赤面していると銀子さんはニヤニヤして私のTシャツを捲り上げて来た。
「ちょ、銀さん!」
「俺が喘いじゃったりするとこ見たい?」

だ、だめだ。
これは卑怯だ。
こんな可愛い子にそんなセリフ吐かれたらどんな男もイチコロだ。
いや、私は男じゃないけどイチコロにされた。
きっと銀さんが女の子に生まれて来たらとんでもなく淫らな女の子になってそうだな、なんて思ってしまう。
アバズレとまでは言わないけど。

「ぎ、銀さんいくらなんでもこれはっ…」
ガッツリと頭を固定されかと思うと、いつもとは違う…いつもとは全く違う感触が唇に当たった。
いくら相手が銀さんと言えど、全くの別人のような人にキスをされているのにとんでもない違和感を感じた。

「い、いや!」
顔を背けると銀さんはすかさず耳元で囁いた。
「見た目はこんなでも俺は俺だから、嫌なら目ぇ瞑ってろ」
何もこんな状況の時にこんなことしなくたって。

「ぎ、んさ…」
「この先、もし俺が元に戻れなくなった時のこと考えてみ?今から慣らしておかねーと、な?」
私は迷ってる間にあれよあれよと纏っていたものを剥ぎ取られていく。
「さーて、俺色々試したいことがあんだよなぁ」
薄暗い中で銀子さんの目がギラリと光るのがわかって、私は背筋がぞくりと冷えたのだった。




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